AIは「心が動くパーパス」を作れるのか?
藤平:次のテーマになるのですが、浅井さんと一番話したかったのが「パーパス」についてです。Droga5ではブランディングにおけるDNAとしてパーパスをとても大事にされていますよね。僕もパーパスの重要性を信じているのですが、「AIはパーパスを作れるのだろうか?」という問いは自分の中にずっとあって。
浅井:僕も同じ問いがありますね。まず、AIにもパーパスを理解することはできると思います。パーパスに紐づくアクションも提案してくれそうですし、ある程度のレベルであれば、データをもとにパーパスを作ることもできるでしょう。
だからこそ、人間がするべきことは何か、が今問われていると思います。多くの日本のブランドは、これまでパーパスを定めてきませんでしたが、最近は差別化要素としてパーパスブランディングを取り入れる企業が増えています。この流れが終わった時、つまりおおよそのブランドがパーパスを持つようになった時に、本当にブランドをドライブする、ひとつ飛び抜けたエモーショナルな体験アクションを作れるのは、やはり人間なのではないかと思います。

藤平:小説や音楽、アートなど「傑作」が生まれやすいジャンル、つまり極めて個の創作性が高いジャンルがあると思うのですが、パーパスやそれに紐づくアクションも、そこと近い位置にあるという捉え方ですよね。「一回性」や「唯一無二性」というのは、AIというフィルターを通して見た、人間側の生存キーワードになりそうです。
浅井:たしかにそうですね。AIも小説を書くことはできるけど、なぜ書いているか(=パーパスやプロセス)がないから、あまり共感が生まれないのだと思います。簡単に言うと、がんばったことのない人に「JUST DO IT.」と言われても、心は動かないですからね。人間とAIが同じものを作っても、エモーショナルな部分で全然意味の違うものになると思います。
藤平:一方で、エモーショナルなものをAIに作ってほしいなら、それすらもAIに学習させればよい/そういうキャラクタライズをすればよいという意見もあるそうです。ここはある意味で競争関係として、実務を通じて答えを出していくしかなさそうです。
ちなみに、別の論点として僕が感じているのは、AIが作ったパーパスに対して受け手の感情が追い付くのか? ということです。パーパス策定や浸透はプロセスが非常に重要ですが、ブラックボックス的に「(最後は)AIが決めた」となってしまうと、受け手の納得感や共感が得られないのではと、実務的な弊害を懸念しています。実際に、ある企業グループのパーパス策定プロセスでAIを活用したことがありますが、まだ“オマケ”くらいの位置づけでしたし、インナーに歩留まったのはやはり「みんなで決めた」という部分でした。
for AIと by AI:AIに関する2つのクリエイティブ・ディレクション
浅井:僕がいま興味を持っているのは、AIの活用が発展していくと「(パーパスを体現するための)ブランディング」が必要になるタッチポイントが増えていくのではないかということです。
これについては、シンガポールで開催された『SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2023』でデビッド・ドロガも指摘していました。たとえば、コールセンターのチャットボットは、そこまで高度な応答ができないことが前提になっているので、ブランディングの観点ではあまり重要視されていないかもしれません。
ですが今後、AI活用の発展とともに応対の精度が上がると、応対する時のテンションや話し方、パーソナライゼーションの掛け具合などもコントロールできるようになるはずです。そうすると、ここにブランドのパーソナリティや人格のようなものが生まれてくると思うのです。
藤平:なるほど。たしかに広告産業は「表現を用いてブランディングする」時代が一巡して、「体験を用いてブランディングする」方向にシフトしている印象を受けます。AIを活用した新しい領域においては、逆に言うと、AIを起点にした顧客の体験が先にあって、それをコピー&アートに代表される表現でブランドにしていく、という順序になるわけですね。そうした領域にしっかりと向き合うことは、顧客体験をブランデッドにするために非常に重要になりそうです。

浅井:ECサイトも、今はカタログのように並んでいる商品の中から欲しいものをクリックして買うだけですが、ここに高度なAIが組み込まれると「どういう具合にパーソナライズをして、どういう風に接客をするのか?」まで考えられるようになる。これは、まさにブランディングでしょう。このように、ビジネスにAIが組み込まれていくことで「ブランディング」が必要になるタッチポイントがどんどん増えていくのではないかと思っています。
藤平:「自分のアバターが試着をしてくれる」など、XR(クロスリアリティ)でそういった議論が少し前に増えていた印象がありますが、まだそこまで実用化は進んでいない気がします。AIを掛け算することで、改めてその流れが加速する可能性がありますね。
AIを活用すると、生活者に近いタッチポイントはどんどん効率化される。一方で、効率化されたタッチポイントを無機質なもの/画一的なものではなく、そのブランドらしいものに仕上げていく必要があり、後者がクリエイターの責任である、というのは自分たちの仕事にとって大きな広がりのある捉え方だと感じました。
浅井:僕もそう思います。最近、社外向けの広告制作物だけでなく、社内向けに作られているブランドガイドラインもAIで作ってみたいなと考えていて。Instagramの素材やPowerPointのテンプレートなど細かな積み重ねがブランディングにおいては大事ですが、徹底するのは難しいですよね。これも、AIを使えば色々な言語に対応できるので、グローバルで統一できそうです。
藤平:「AIが埋め込まれている体験をクリエイティブ・ディレクションすること(for AI)」と「あらゆる領域をAIを活用してクリエイティブ・ディレクションすること(by AI)」の両輪でブランドがパーパスを体現することを支援していく行為は、クリエイターの新しい仕事になりそうです。
