食洗機は「購入者の95%が大満足」でも「普及率が約3割」
内閣府の調査によると、日本国内の全年代・全世帯における食洗機の普及率は平均約29%。特に単身世代においては著しく普及率が低く、29歳以下の単身世帯だと6.5%、30〜39歳でも6.2%となっている。
しかし食洗機の使用者に聞くと、満足度が非常に高く、ずっと使い続けられている商品だという。2022年9月〜12月にかけてパナソニックが行った調査によると、使用者の95.0%は「満足」と回答し、「食洗機がない生活は考えられない」「QOLが爆上がりした」との声が寄せられている。
そんな便利な家電のメリットを日本の約7割の世帯はいまだ知らないでいる。つまり食洗機市場はまだ拡大の余地があるということだ。MarkeZine Day 2023 Retailの講演に登壇したパナソニックの楠健吾氏は「食洗機の普及拡大に向けては、人生の早いタイミングで使い始めていただくことが重要であると考えています」と話す。
こうした経緯から2023年2月に発売されたのが、ひとり暮らし用のパーソナル食洗機SOLOTAだ。今回のMarkeZine Dayでは、SOLOTAの開発・マーケティングのポイントについて技術担当の楠氏とマーケティング担当の山本秀子氏が講演を行った。
「ちょうどいい仕様」と「ターゲットにきちんと届くマーケティング」で単身用食洗機市場を開拓
そもそも、なぜ単身者世帯で食洗機の普及が進まないのか。これについて楠氏は「食洗機はたくさんの食器を使うファミリー世帯のための家電」というイメージが強いことを理由に挙げる。実際に食洗機の利用状況を見ると、結婚や出産など世帯人数や住環境の変化のタイミングで購入する層が多い。そこで実際に使ってみると、食器洗いという家事から解放され、まさに「一度使ったら手放せない」という状態になるという。
食器の量に関わらず、食器洗いという家事を家電に任せることで生まれる価値は同じだ。だからこそ人生の早い時期に食洗機の効果を実感してもらうきっかけを作れないだろうか――。そうした見解から単身者向け食洗機の開発がスタートしたが、楠氏によると「当時は本当にニーズがあるのか懐疑的な雰囲気がありました」という。
開発にあたっては、各関連部門からターゲットと同世代のメンバーを集め、部門の垣根を超えて全員で企画探求に取り組んだ。同世代の社員の感覚では「食器の数の問題ではなく、純粋に食器洗いや後片付けが面倒だ」という思いがあり、単身世帯でも食洗機へのニーズ自体はあると考えたそうだ。
そこで実際に20代〜30代の未婚者の家事ニーズを調査すると、嫌いな家事ランキングでは「食後の食器洗いや、あと片付け」は「トイレ掃除」に続く2位だった。理由は「仕事疲れで面倒」「食後ゆっくりしたい」というもので、使い終わった食器の片付けがストレスになっているという実態が把握できたという。それでも食洗機を利用しない理由は、単純に「使ったことがないのでその便利さを知らず、検討されない」ためだ。
ニーズはあるが、そもそも検討すらしない商品をどのようにアピールしていくのか。これについて同社は2つの軸を立てた。1つは「ターゲットしている方々にとってちょうどいい商品仕様」を追求することであり、もう1つは「ターゲットにきちんと届くマーケティング」だ。
開発においては、まずプロジェクトメンバー間で食生活や使用食器の実態を洗い出していった。すると「コンビニ惣菜などの中食が多いこと」「同じようなサイズや形状で、1食あたりの食器点数は1~3点であること」「同じ食器を毎回繰り返して使うこと」が見えてきた。さらに様々な調査を重ね、ターゲットの生活実態と照らし合わせると同様の傾向であることが明らかになった。
この毎回利用される食器を「スタメン食器」と位置付け、これらの食器が入る容量を設定し、デザインを決めていった。キッチンの作業スペースに置いても圧迫感がないスリムな長方形で、オープンシェルフのように前面と背面に大きなクリア窓を採用、庫内が透けて見えるデザインにした。狭いキッチンでも物量感を視覚的にやわらげ、洗浄中の様子も見えるため、安心感や愛着にも繋がると考えているという。