高齢者と視覚障がい者から着想を得たフォント
大村:フォントワークスさんは2023年3月にインクルーシブデザインフォント(以下、IDフォント)を発表されました。まずは概要を教えていただけますか。
津田:「インクルーシブデザイン」は、異なる文化的背景や年齢層、性別、能力などを考慮し、できるだけ多くの人々に利用しやすいデザインを実現するための包括的なアプローチだと当社では考えています。
当社ではユニバーサルデザインフォント(以下、UDフォント)が既に存在します。こちらは、「すべての人が読みやすいフォント」を目指して開発されたものです。一方、今回のIDフォントでは、UDフォントをベースに高齢者と視覚障がい者に向けたものになっています。
お客様へのヒアリングの中で、すべての人に有効なデザインを1つ行うよりも、特定のグループごとに最適化したものを提供するほうが、結果的に、すべての人に最適なデザインを届けられるのではないのかということを考えるようになりました。
社会全体を広く捉えるというよりは、対象となる人々それぞれが使いやすいようなデザインが、IDフォントのコンセプトです。
UDからIDが生まれた理由とは?
大村: UDフォントの開発をされてきたうえで、さらにIDフォントを作られたきっかけは何だったのでしょうか?
津田:UDフォントの開発の際に、高齢者(65歳以上)と若齢者(大学生)とエキスパート(文章やデザインに関わる職業に就いている人)という区分けで見え方の実験を行いました。結果、「年齢による変化はあまりない」という結論に至りました。しかし社内で、「やっぱり高齢者の見え方はちょっと違うのではないか」という疑問が残り、もう一度チェックしてみることになったのです。
すると、実際は若齢者よりも高齢者のほうがより濃くて太いフォントを良いと感じる結果が出ました。「みんなに見やすい」とは別の考え方に基づいたフォント開発の必要性を感じ、IDフォントを開発することになりました。
大村:ある程度、誰もが見やすいという状況が整ってきた中で、さらに特定の人々の特性に着目して変化を加えていくというアプローチは、まさにインクルーシブなデザイン開発の事例だと言えますね。