教育費は削れない反面、困り事も多い
──子どもの習い事や教育についての消費傾向についてはいかがですか?
「子どもが興味を持つ環境を与えたい」という割合が、共働きママでは比較的高くなっています。中学受験への意向も、共働きママが20%であるのに対して専業主婦ママでは8%と差が大きいです。学習系の習い事の実施率は、専業主婦ママの低学年の子どもでは22%であるのに対し、共働きママの低学年の子どもでは30%という割合になっています。今後も習い事や塾の低年齢化が進み、少子化の中でも教育関連の消費は伸びていくと予想されます。
一方で「子どもの教育費が払えるか心配」と答えた共働きママは首都圏の1都3県で68%にも上ります。教育費への不安は「お金をかけたい」という意向の裏返しでもあるので、コストを削れない部分だと考えているのでしょう。
ただし、共働きママは時間がないため習い事の困り事も多いです。たとえば、日々の練習や進捗の確認ができないことや、平日に送迎ができないことが課題になっています。結果的に習い事が土日に偏り、家族の時間が取りにくいという声もあります。横浜市が「こども専用送迎サービス」を開始したことが話題になりましたが、今後は民間でもこうした課題を解決するサービスが増えてくることを期待したいです。
時短+α、チームがキーワード
──これらのインサイトを踏まえて、企業ではどういった視点で商品やサービスを提供していくのが良いでしょうか?
共働き家族の消費傾向の背景には「時間がない」という前提の課題があります。そのため、商品やサービスに時短の機能はあって当たり前です。今後は、時短に加えて価値になる機能を考えていく必要があります。たとえば、「子どもの教育に良い」「部屋がおしゃれに見える」「料理のレパートリーが増やせる」といった付加価値が、単なる「時短」以上の差別化にもつながります。
また、夫も主体的に家事に関与する夫婦のかたちを当研究所では「ダブルス夫婦」と名付けています。家庭内のタスクは「頭を使うもの」と「体を使うもの」に分類できます。献立を考える、子どもの来週の持ち物を覚えておくといった頭脳労働に対して、買い物に行ったり子どもを保育園に連れて行ったりするのは体を使った労働です。当研究所では、パパとママがその2種類をどう分担しているのか、その役割分担に満足しているのかを調査したことがありました。
専業主婦家族の場合、ママが両方とも担っており、満足している割合が最も高かった。一方共働き家族では、3つのパターンがありました。ママが頭で考えてママが実行して満足しているパターンと、ママが考えて実行して不満であるパターン、ママとパパの2人で考えて2人で実行し、満足しているパターンです。これらが3分の1ずつの割合で存在しました。このうち「2人で考えて実行し、満足している」夫婦を、「ダブルス夫婦」と呼び、今後はこうした家族のかたちが増えていくと予想しています。
この傾向を踏まえると、企業も「車を買うのはパパで、日用品を買うのはママ」といった固定観念は捨てて、商品開発や販売コミュニケーションを設計する必要があります。実際にブランド決定の調査では、専業主婦家族ではパパが決定しがちなデジタル機器も、共働きだと2人で決める傾向があることがわかりました。たとえば、冷蔵庫やキッチン用品も「ママが使いやすい」ではなく、パパも、さらには子どもも使いやすい商品が求められるのではないでしょうか。
──先ほど「子どもを頼りにする」共働き家族が多いとおっしゃっていました。子どもも家庭の主要なチームの一員として考える家族のかたちが増えると、それをサポートする商品のニーズも高まりそうです。
「チーム」は今後の家族のキーワードですね。家のことはみんなで決めるスタイルが増えていくでしょう。共働き家族の場合、夫婦間での情報共有が習慣になっています。カレンダーアプリやドキュメント共有アプリの利用率も共働き家族において比較的高いです。今後は子どもの予定を親が把握するだけでなく、ママやパパが出張で家にいないことを子どもに把握してもらうというニーズも出てくるかもしれません。ただ、スマートフォンを持っていない小学生の子どもとの共有には課題がありますから、「今月のチーム予定」のように家族で予定を管理・共有できるサービスも、今後増えてくるかもしれません。
