ステルスマーケティングとは何か?
ステルスマーケティング(通称:ステマ)とは、広告や宣伝と気づかれないように発信することで消費者の警戒心を解く心理戦略を使った広告・宣伝手法です。
広告であるにも関わらず広告という本質を隠して発信されているため、レーダーに検知されず気づかれないステルス戦闘機になぞらえて、ステルスマーケティングと呼ばれています。
今回のステルスマーケティングに関する法規制は、後半部でご紹介する景品表示法内に新しく盛り込まれています。
なお日本で規制が施行される以前から、アメリカやEUなど一部の地域では、法令によってステルスマーケティングを規制していました。
規制の対象者は広告主
ステルスマーケティングの法規制の対象となるのは、商品やサービスを供給する広告主または事業者のみです。
したがって広告主は広告が広告であることを、消費者に対して何らかの方法でわかりやすく示さなければなりません。
一方で、企業から広告や宣伝の依頼を受けて広告宣伝活動するインフルエンサーや第三者は、規制対象ではありません。(2023年11月時点)
規制の対象範囲はすべての電子、紙媒体
ステルスマーケティングの法規制は、テレビや新聞・ラジオ・雑誌など、あらゆる表示媒体で行われる広告表示に対して適用されます。
特に注意すべきなのは、過去の投稿も規制対象となることです。
5年前あるいは10年前の投稿であっても、理論的にはインターネット上で閲覧可能な限り、2023年10月1日以降はステルスマーケティングの法規制の対象となります。
そのため、ステルスマーケティングの法規制に未対応の広告主や事業主は、早急な対策が必要です。
ステルスマーケティングとインフルエンサーマーケティング、タイアップ広告の違い
ステルスマーケティングは、しばしばインフルエンサーマーケティングやタイアップ広告と混同されます。
それぞれの違いについて、以下の表にまとめました。
一部のインフルエンサーの中には、自らベネフィットがあるにも関わらず以下のような不適切な投稿をしている人が増加傾向にあることから、インフルエンサーマーケティングはステルスマーケティングと誤認される傾向にあるようです。
- あたかも中立的な立場で批評しているように見せる
- 商品と直接の利害関係がないファンとしての感想を装う
なおステルスマーケティングでもインフルエンサーを起用しているケースがありますが、故意に広告とわからないように宣伝しているとステルスマーケティングと見なされます。
ステルスマーケティングをなぜ取り締まるようになったのか
消費者をだまし、誤解させてしまうため、ステルスマーケティングは広告業界やビジネスにとって対処すべき重大な課題となっています。
ステルスマーケティングが横行することで、事業者は消費者から信頼されなくなるだけでなく、公正な競争を崩しかねません。
ステルスマーケティングの問題点について、詳しく見てみましょう。
ウソや意図的な評価が増えてきたため
実際の商品やサービスの品質とは異なる評価が記載されていたり、意図的な虚偽情報が拡散されたりすることで、消費者は誤った情報に惑わされるだけでなく、正しい選択を行えなくなる可能性があります。
今やWebサイトの購買者評価やSNSの口コミやレビューは、消費者が商品やサービスを購入するための重要な情報源、あるいは「買う・買わない」の判断基準の1つとなりました。
しかし昨今の口コミやレビューには内容にウソや意図的な評価が増えており、消費者が正確な情報を得ることが難しくなっています。
公正な競争ができなくなるため
ステルスマーケティングが許容され蔓延すると、市場の透明性が失われてしまい、公正な競争が阻害されます。
ステルスマーケティングにより本来低品質な商品・サービスにも関わらず、高評価や好評判という不正確な情報が増加すれば、消費者は誤った選択をするかもしれません。
高品質な商品やコスト効率の良い商品が正当に評価されなければ、将来的に市場における公正な競争が崩れてしまうでしょう。
ステルスマーケティングにより商品・サービスの公正な競争ができなくなると、企業や個人事業主の行う信頼性あるマーケティング活動自体も阻害されます。
ステルスマーケティングの法規制対象事例
ステルスマーケティングの問題は過去にも大きな注目を浴び、規制対象となる具体的な事例は、一時期、社会的な問題として大きく取り上げられました。
この章では、今回の景品表示法の改正でステルスマーケティングの法規制の対象となった事例について詳しくご紹介します。
1.クチコミやレビューと引き換えに何かをプレゼントする
ステルスマーケティングの典型的な事例として、企業(事業主)が消費者に口コミやレビューを書く代わりに、何かを提供するという行為が挙げられます。
たとえば「この場でお店の口コミを書いてくれたら、カバンをプレゼントします」といった提案が主で、自社商品・サービスを使って意図的に良い口コミへと誘導する行為です。
口コミを掲載するときに「広告」や「PR」などのように広告であることを記載しない場合には、消費者に正確な情報を提供していないとみなされる可能性があります。
2.報酬を受けて評価や感想、宣伝を書く
ステルスマーケティングの法規制の対象には、企業(事業主)側が報酬を渡し、商品・サービスの評価や宣伝を自社の代わりに行ってもらう行為も該当します。
最近ではインフルエンサーやYouTuberなどの影響力の高い個人へ商品・サービスを提供し、その口コミの発信を依頼する「インフルエンサーマーケティング手法」が注目されています。
しかし、広告主である企業からの依頼であるにも関わらず、商品やサービスについて「よかった」「おすすめ」などとポジティブな感想をSNSに投稿する場合には、今回のステルスマーケティングの法規制により広告であることを明示しなければなりません。
金銭収受がなくても規制対象になる恐れがある
献本やイベントの招待などのように企業(事業主)から金銭収受がなくても「広告」や「PR」である旨を明記しないと、ステルスマーケティングの法規制対象となる場合があります。
このような場合では、発信する側は「献本された」「イベントに招待された」など、何らかの方法で広告やPRの一環である旨を隠さずに明示しましょう。
3.企業が消費者に成りすまして商品やサービスのクチコミレビューを行う
以下のように企業(事業主)や関連会社の人間が一般の利用者を装って商品・サービスに対する口コミや評価を行う「なりすまし行為」も、規制対象です。
- ECサイトのレビュー欄でウソや誇張を交えて商品を絶賛する行為
- 他社の競合商品に対して悪評や低評価の口コミを投稿し、悪い評判を広める行為
- 社員がやらせやサクラとなり、第三者を装って商品を宣伝する行為
以上の行為は消費者を混乱させるだけでなく、市場での公正な競争を妨げる要因となるため、規制の対象となります。
4.企業が販促目的で自ら自社商品やサービスを宣伝する
以下の状態でWebサイトやSNSアカウント・商品パッケージなどを使用して宣伝する行為も、ステルスマーケティングとみなされる可能性があります。
- 企業(事業主)が自社の商品やサービスを販促するという目的がある
- 当該社員が一定の地位や立場にある
- 関係者とわからない状態で投稿を行う
広告であるにも関わらず社内の重要人物が自身の身分を隠した状態で行うコンテンツ投稿は、消費者からの自然なレビューや評価と誤解させてしまうかもしれません。
最低限知っておきたいステルスマーケティングの法規制の内容
2023年3月、消費者庁はステルスマーケティングを「景品表示法」の「不当表示」として禁止し、運用基準を公表しました。
景品表示法で定められた「不当表示」に該当した場合、事業者側の故意・過失に関わらず、法に基づいた措置命令が行われます。詳しく見てみましょう。
景品表示法で規制されている「不当表示」
「不当表示」とは以下の3つで構成されており、これらに該当する行為は禁止されます。
- 優良誤認表示
- 有利誤認表示
- 内閣総理大臣が指定する表示(指定告示)
詳細については以下の表にまとめていますので、参考にしてみてください。
ステルスマーケティングを行った場合の罰則
消費者庁の調査によりステルスマーケティングが認められた場合には、景品表示法7条に基づき、以下の「措置命令」が出ます。
- 企業(事業主)が行っているステルスマーケティングの撤回
- 違反に対する一般消費者への周知徹底
- 再発防止
この措置命令に違反してしまうと、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される恐れがあります。
ただし、企業(事業主)が提供した無料サンプルなどが第三者によって自主的に投稿された際は、規制の対象外です。
【事業者向け】今からできるステルスマーケティングの法規制への対策
企業など事業者は、消費者が誤認せず自主的に判断できるように消費者が誤認しないように広告に透明性を確保することが求められます。
今回ご紹介する対策を参考に、消費者に誤解を与えないよう企業広告である表示を明示し、信頼性を保てるよう準備をしましょう。
関係性の明示を適切に行う
投稿した広告や宣伝の性質が一般消費者にも明確に伝わるよう、広告主とインフルエンサーなどの情報発信者との「関係性の明示」を常に意識することが大切です。
ステルスマーケティングとみなされないためには、以下のように広告であることがわかるよう明示する必要があります。
- 「広告」
- 「PR」
- 「○○会社のキャンペーンに参加しています」
ただ特定の文章や写真で広告だとアピールするのでなく、投稿の表示内容全体に対して一般消費者が受ける印象や認識を考慮すれば、誰が見てもわかりやすい広告宣伝ができるでしょう。
また各SNS媒体社が提供する広告PR機能を活用すれば、広告主である事業主側と情報発信者の間にある関係性が第三者から見てもわかりやすくなります。
h4:SNSで関係性を示すハッシュタグを使う際は先頭に
広告宣伝においてSNSで企業(事業主)側と投稿者との関係性を明示する際には、「関係性を示すハッシュタグ」の使用もおすすめです。
他のハッシュタグに埋もれないよう、関係性を示すハッシュタグをなるべく先頭に配置しましょう。
たとえば関係性タグ「# PR」を使用する場合は、消費者が広告宣伝投稿とわかるように「# PR」を先頭に配置します。
複数のハッシュタグと一緒に使用する際も関係タグを先頭に配置すれば、真っ先に目に入るため消費者に対して広告宣伝であると明確に示せるでしょう。
偽装行為をしない
以下のような偽装行為を絶対に避けなければなりません。
- 「いいね!」やフォローなどの投票行動に対価を支払い、評価を不正に操作する
- 動画の再生回数などを不正に操作する
- 口コミサイトで虚偽のコメントを投稿する
- 消費者から発信された情報を許可なく改ざんする
- 「いいね!」やフォロワーを購入する
- 利用したことのない商品やサービスを装って投稿する
- クラウドソーシングを利用して意図的に偽の口コミを作成する
企業(事業主)だけでなく、依頼を受けて商品・サービスを宣伝するインフルエンサーなどの投稿者も気をつけましょう。
社内外のマニュアルを整備する
インフルエンサーなど第三者に広告宣伝活動を依頼する際は、無意識にステルスマーケティングを行わないよう、景品表示法を順守したマニュアルを作成し、社内ルールに加えます。
また外部の協力先やインフルエンサーとの契約に備えて、ステルスマーケティング防止のための自社ルールやレギュレーションを決めた社外マニュアルを用意しておくと安心です。
企業も投稿前に広告内容を把握する
企業(事業主)は、外部の協力先やインフルエンサーなどがインターネット上へコンテンツを投稿する前に、内容を把握できるしくみを整備しましょう。
特に広告の作成を代理店やアフィリエイターなど外部委託している場合には、投稿内容がステルスマーケティングの法規制に引っかかっていないか、社内マニュアルをもとに最終チェックを行うことが大切です。
今回の景品表示法改正では、広告を外部委託した場合であっても、ステルスマーケティング違反の責任は基本的に広告主側に課されます。
外部委託先の人物が無意識にステルスマーケティングを行わないためにも、企業は広告の内容や表現に注意を払いましょう。
必要に応じて専門家に力を借りる
自社のリソースが限られている場合やステルスマーケティングに関する法令への知識が不足している場合は、必要に応じて専門家や専門会社に依頼する方法を検討します。
たとえばインフルエンサーを起用したい場合には、ステルスマーケティング対策を行っているインフルエンサーマーケティング専門の会社に相談しましょう。
景品表示法のマニュアル作成や講習会開催には、ITに詳しい弁護士や専門家に協力を仰げば、社内での知識を蓄えられます。
加えて外部でのチェックを通じて、自社のマニュアルや投稿内容が景品表示法に違反していないかの確認も有効です。
【アフィリエイトを運用する事業者向け】ステルスマーケティングの法規制への対処方法
アフィリエイトサイトを運用する人もいるでしょう。今回のステルスマーケティングの法規制はアフィリエイトサイト運営者も対象であるため、未対応の人は早急な対策が求められます。
アフィリエイト広告を利用している場合も、これまでご紹介のとおり、消費者にとって広告であることが媒体や投稿にわかりやすく記載されていることが重要です。
具体的には以下の対処方法が挙げられますので、参考にしながらステルスマーケティングの法規制への対応を進めてみてください。
参加しているアフィリエイト広告を提供する運営元によっては、規約が異なる場合も考えられます。参加しているアフィリエイト広告提供会社の規約を随時確認し、プラットフォームにあわせて適切に対応しましょう。
ステルスマーケティング法規制を理解して正しく伝わる広告を配信しよう
ステルスマーケティングの法規制は、広告を「第三者の自発的な口コミ」と誤認させないために消費者を守るための法制度です。
情報が多岐にわたる現代では、消費者からの信頼を失うと回復が難しいため、インフルエンサー施策や広告配信に対して、特に慎重さが求められます。
ステルスマーケティングの法規制を順守し、誠実で透明性のある広告・マーケティング活動を通じて、消費者との信頼関係を築くことが重要です。
この記事でご紹介した内容を参考に透明性と誠実さを守りながら、広告・宣伝活動を展開しましょう。