「メーカーの課題解決」の視点が重要
――リテールメディアを成功させるためには、小売とメーカーが共通認識を持って、課題解決を行っていく必要もあるかと思います。この点はいかがですか?
徳久:NRFでは表立ってそういった話は出ていませんでしたが、現地で直接話を聞いていると購買データを中心に据えて、メーカーと、流通サイドが相互に施策を練るという動きが出てきています。
日本では広告代理店が役割を発揮できるポイントかと思います。今までどうしても「リテールメディアができました。メーカーさん、出稿してください」とリテーラーからメーカーに依頼があって、断れないから出稿するという側面がありました。
そうではなく、リテールメディアもプランニングをしっかりやっていくことが重要だと考えています。博報堂の場合は、消費財ブランドの課題把握に強みがありますし、リテールメディアの知見や実績もあります。メーカーの課題に合わせたリテールメディアの組み合わせ方などを提案できます。
また、小売とメーカーの間にある商品を取り扱ってあげる・もらうという関係性と、リテールメディアの推進とは切り離して考えることが望ましいとも思います。メーカーの課題解決のために何ができるか、小売も同じ目線で考える姿勢が、リテールメディア全体で求められていると感じますね。
小島:徳久の話に付け加えると、背景にはリテール内やメーカー内の組織構造の性質もあります。リテールであれば、商品を選定する部署とメディアを扱う部署が違い、メーカーも同様にリテールに向き合う営業部署とメディアを扱う部署が違います。またリテールとメーカーの思惑が合致していないことも少なくありません。そのような問題についてフォローできるのが、我々だと思っています。
――ありがとうございます。リテールメディアを進めるに当たって小売側はメディアの方向性を定めるとともに、メーカーへのメリット提供を持つ視点が必要なのですね。

生成系AIの活用、2024年はアクションの年
――生成系AIについてはいかがでしょうか?
徳久:生成系AIの話はかなり盛り上がり、非常に多くのユースケースの紹介がありました。方向性の1つは顧客体験の向上ですね。ウォルマートはアプリの検索機能に生成系AIを取り入れることで、「子供の誕生日パーティーに必要なものは何?」といった検索を可能にしています。また、従業員向けのアプリに活用して、作業効率や接客効率を高めていく取り組みも多かったです。従業員向けの問い合わせ機能への活用や、説明文の作成などですね。
小田:一方で話題が多かった割には、具体的にどうビジネスが効率化しているかといった深い話にまで踏み込んでいるケースは少なかったです。企業の姿勢として、生成系AIを積極的に取り入れていますと宣言している姿が目立ちました。
小島:2024年がアクションの年だと言っていましたね。来年になるとより詳しい事例が出てくると思います。この流れは日本も対応せざるを得ないと思います。
小田:そうですね。一方で、形だけのAI導入には危機感も持っています。徳久との話と重複しますが、米国での生成系AI活用には3つの流れがあります。第1により良い顧客体験の活用。次に、店員のエンパワーメント。そして、作業効率化の先にあるビジネスグロースにもAIを使っていく流れです。海外でAIや、リテールメディアが成功している背景には、デジタルとリアルをうまく融合させて、顧客体験やビジネスをレベルアップさせていくという思想と実践があります。
