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求められるリテールメディアの個性とAI活用、2024年の米国リテールは堅実な投資回収フェーズへ

 2024年1月14日から16日の3日間、米国NYで開催された世界最大規模の小売の祭典「NRF 2024 Retail's Big Show」(以下、NRF2024)。リアル回帰にともなう店舗体験や人員教育への投資フェーズだった2023年から、論点が大きく変化したようだ。NRF2024に参加した博報堂ショッパーマーケティング事業局の徳久真也氏、小島健嗣氏、小田塁氏にお話をうかがった。

インタビュイー

写真左から、株式会社博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長/ショッパーマーケティング・イニシアティブ リーダー 徳久 真也氏、ショッパーマーケティング事業局 リテールDX推進グループ 担当部長 小島 健嗣氏、ショッパーマーケティング事業局 コマースDX推進グループ コンサルタント 小田 塁氏
写真左から、株式会社博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長/ショッパーマーケティング・イニシアティブ リーダー 徳久 真也氏、ショッパーマーケティング事業局 リテールDX推進グループ 担当部長 小島 健嗣氏、ショッパーマーケティング事業局 コマースDX推進グループ コンサルタント 小田 塁氏
 

リテールメディア、生成系AI、リテールクライムが話題

――NRF2024参加者の関心・課題感について、どのような印象を受けましたか?

徳久:NRF2024の全体的な状況としては、参加人数がかなり増えていて活況でした。これまで5~6回ほどNRFに参加していますが、コロナ前の水準に回復している印象です。特に日本人の参加が以前に比べ非常に多かったですね。また展示会場の規模が広がっていて、スタートアップ系の企業の出展が目立ちました。

 テーマとしては、昨年のNRF2023は久しぶりのリアル開催だったこともあり、リアル回帰の中で人への投資やサステナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョンなど大きなテーマが目立っていました。一方、今年はリテールメディア系のセッションや、生成系AIを始めとしたテクノロジーをどう活用していくのかという議論が増えていました。

 さらにリテールクライムという、いわゆる万引きやの店員への暴力等の問題が非常に大きなイシューとして取り上げられていました。オープニングキーノートでウォルマートCEOのジョン・ファーナー氏も言及するほどです。

 米国ではインフレの深刻化や人件費の高騰、労働者不足を背景に店舗での人員を削減しています。そのため、セルフレジの導入も進んでいます。そうなると、どうしても万引きが発生し、利益へインパクトを与えるために経営課題化しているのです。展示でも、リテールクライムを防ぐためのAIカメラを使った自動検知の仕組みなどが増えていました。

――NRF2023ではリテールメディアはほとんど触れられなかった、という話を何度か耳にしました。状況が変化しているのでしょうか?

徳久:去年はリテールメディアのセッションは1つでしたが、今年は経営者層レベルから実務家レベルまで議論が活発にされていました。幅広いレイヤーの方が、自分の言葉でリテールメディアを語っていたのです。

 米国では既にリテールメディアが進歩・浸透していましたが、2023年の段階では他のトピックスの方が優先された印象です。また昨年はリアル回帰の年でもあったので、特に店舗体験や従業員教育への投資に関心が集まっていました。しかし、1年間での経済状況や社会情勢の変化にともない、小売の収益力を高めるために、リテールメディアで営業外の収益を稼いで、本業に投資していくことに改めて関心が移ってきていると考えられます。

小田:昨年までは投資モードでしたが、今年は投資への効果検証が必要だよねと、地に足の付いたソリッドな内容に変化していました。その流れの中で、テクノロジーや生成系AIを検証フェーズでうまく活用していこうという潮流もあったと感じています。また、今年は物流系のトピックも多かったです。

徳久:コマース周りでも、昨年はリコマース(中古品などの二次流通モデル)も大きなテーマでしたが、去年ほどではなかったです。新しい市場や潮流を見出すというよりも、投資に対していかに生産性を高めるのか、ROIを高めていくのかに論点が変わっていましたね。

小島:リテールメディアについては、各社どういったメディアにするか?という方向性を探る議論に変化していました。私が参加したセッションでは「よりコンテンツドリブンにしていかなければ」という話が出ていました。

 また、リテールメディアの1歩前ですが、店舗にクリエイティビティが求められているという話題も多かったと思います。米国のEC化率は日本よりもはるかに進んでいますが、それでも人々は店舗に足を運びます。では店舗に求められているのは機能的なものなのかエモーショナルなものなのか?という議論から、店舗におけるクリエイティビティの必要性について言及されていました。実際に生活者が足を運びたくなる店舗の事例も集まっていました。

日本人の参加が増えた背景とは?

――小島さんは博報堂に入られる前はリテール企業に勤めていたとうかがいました。今回、NRFに日本人の参加が多かったとのことですが、現在、日本のリテール業界の課題感はどのようなものがありますか?

小島:私見ですが、ここ数年でリテールメディアという言葉が日本国内でバズワード化しました。リテール企業の経営層も関心を持ち、取引があるメーカーも含めて、リテールメディアが隆盛な米国の動向を押さえる必要性が高くなってきたのだと思います。

 また、顧客体験や店舗のクリエイティビティを向上するための費用をいかに確保するかも問題です。事業外で収益を獲得して投資するという循環を実現することが1つの課題になっているのではないかと捉えています。

徳久:小島が言うように、日本でも原材料の高騰や円安、インフレによって収益率が圧迫されています。その中で利益率をどう改善していくのか?という大きな経営課題があります。そこに対して、2つの視点があります。1つ目が新しい収益の獲得源としてリテールメディアに取り組んでいる、あるいは取り組んでいきたいという視点。2つ目に、利益が目減りしている部分をテクノロジーでいかに抑えるのかという視点です。そのヒントをNRFで得たいと考えている方が多いのでしょう。

米国のリテールメディアは「リテール」らしさが求められるフェーズに

――実際にNRF2024で印象的だったセッションや事例、日本のマーケターに共有したい事柄を教えてください。

徳久:1つはリテールメディアですね。小島が言ったように米国では大きく、ファンクショナルとエモーショナルという2つの方向性が出てきています。今まで、リテールメディアは小売企業が新しく立ち上げたECサイト上の広告やアプリ広告、オフサイトと言われる外部配信のメニュー等の”媒体面”で語られることが多く、リテールごとの違いや強みなどはそれほど強調されてきませんでした。

 そこから進んで、それぞれのリテールらしいメディアを作っていこうという機運が高まっています。たとえば、米国中で最も大きなリテールメディアを持つウォルマートは非常にファンクショナルな存在になっています。広告メニューの開発や広告枠の自動買い付けの仕組み等に投資し、GoogleやMetaといった大手プラットフォーマー同様の基盤となるべく進化しているのです。誰もが使える広告プラットフォームですね。

 一方で、米国7-ElevenのCMOマリッサ・ジャラット氏はセッションで、7-Elevenらしいリテールメディアは何かを突き詰めていく必要があると語っていました。コンビニは即時消費型の買い物を行う場所です。その購買体験をアシストする、ブランデッドなリテールメディアを構築していくことが論点でした。

 「サイネージを置きましたとか、アプリの広告面作りました、YouTubeにも配信できるようなりました」だけでは差別化が難しくなってしまいます。進化の方向性を各リテールが考えていかなければならない段階に米国は来ているわけです。

目指すべき方向を決める

 日本はその手前の段階ですが、だからこそ、リテールメディア=米国=ウォルマートモデルだけが目指す方向性ではないということ・各社の規模感や業態、チェーンのブランドらしさを加速させていくリテールメディアを意識して開発していくことが重要です。

 もちろん、ウォルマートのようなプラットフォームを目指していくことも1つの方向性です。どちらにしても言えることは、リテールメディアのコンセプトをきちんと決めることが大切なのです。サイネージをやれば、アプリで広告作ったら儲かるんでしょ?といった視点だけでリテールメディアを成功させるのは難しいと思います。

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。2013年までは書籍の編集をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/02/06 09:30 https://markezine.jp/article/detail/44674

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