AI活用は従業員強化への投資でもある
AI市場は活発化しており、“Generative AI”の普及は進みつつ、“Agentic AI(自律的に状況を判断し、意思決定や提案を行うAI技術)” “Physical AI(現実世界の物理的な法則や環境を理解し、それに基づいて行動・判断できるAI)”といった自律的に状況を判断し、意思決定や提案を行うAIシステムにもさらに注目が集まっている。
周知の通りAI活用はいまだに無限の可能性を期待されており、日本においても各企業が自社の業務・サービスにどのように取り入れていくか模索している状況である。
今年のNRF2025 Retail's Big Showでもリテール業界を牽引する先進企業がAI活用について語っていた中で、『AI活用は業務効率化が目的ではなく、従業員への投資である』ことが話題の共通テーマの1つになっていた。
セッション「Artificial intelligence and humans: Five ways AI will make retail more personal, not less」(AIと人間:AI が小売業のパーソナル性を高める5つの方法)では、Albertsons Companies、Schwarz Digital GmbH & Co.KG、Pacsunの代表者が各社における従業員体験へのAI活用ついて解説した。

現場に負担なく最適な新人研修を行うAlbertsons
Albertsons Companiesは新入社員の研修にAIを活用し、AIが従業員に仕事を効率的に行うために必要なことを伝えている。
これらは新入社員にとって最適な研修を受けられるということだけでなく、従来教育係となっていた優秀な人材を現場から引き離すことなく、店舗での活動に集中してもらえるという点もメリットになっていると語る。
どのような顧客問い合わせにも即対応を実現するLidl
Schwarz Digital GmbH & Co.KGの参加であるLidlでは、従業員による顧客の問い合わせ対応にAIを活用している。同社は顧客からの問い合わせに対して重要なのはその場で回答・解決できる“リアルタイム性”であると考え、2つのポイントに対して改善を試みた。
1つ目は、多様性が進む中で顧客の話す言語や内容が必ずしも受け手である従業員にとって理解できるものではないということだ。そこで問い合わせに対して翻訳機能を有するAIを介して情報を要約し、従業員が理解できるようにすることで、適切な対応を行えるようにした。
2つ目は、研修などで学んだマニュアルをすべて覚えているわけがなく、顧客からの問い合わせ内容によっては大量のマニュアルの中から情報を探さなくてはいけないという手間が発生していた点である。こちらもAIを介して情報を要約するだけでなく、問い合わせ内容に対する回答案などを提供することで従業員はその場で顧客の困りごとを解決するサポートができるのである。
従業員にポケットの中の賢い同僚を提供するPacsun
Pacsunは同社の従業員のほとんどがZ世代であると説明した上で、従業員がすぐに助けを必要な時に頼れる社内AIアプリ「Chatty」を提供している。Chattyは会社のポリシーと手順に基づいて質問に対する回答とそのリソースを提供するため、困っていることをすぐに解決できる。
たとえば「レジの処理が遅いがどうすればいいか?」「マネージャーに怒鳴られたがどうすればいい?」などに対しても聞くことができるものであり、Shirley Gao氏はChattyを「ポケットの中の賢い同僚」と説明した。
各社は共通して効率化とAIによって達成できる投資収益は多いが、それは従業員を削減することではなく、従業員を強化することによるものだと述べていた。