「メーカー×小売」のタッグによるデータ活用の伸びしろ
榊:海外の小売業の状況などを考えると、日本でも製造業の視点では1社が強くなるより、複数社が競争しながら発展していくほうがいいですよね。
石戸:はい。日本の小売業にも、デジタル畑の経験のある方々が次々と要職として参画されているので、その点は楽しみです。アメリカの小売は、ウォルマートをはじめとして既にテックカンパニー化していますが、追随してもらえたらと思いますよね。
また、我々メーカー側もしっかりテックの話ができる人材を入れたり、育成したりしないといけないです。
榊:確かに。おもしろいですね、メーカーと小売が同じレベルでテックの話ができてこそ、高レベルのUX改善ができそうです。小売はまさに顧客行動に向き合っているから、できることがまだまだあると思います。
石戸:同感です。メーカーは、いろいろなリサーチはかなり多く行っていて、当社でも製品ごとの売れ方や気温などとの関係などの調査データが相当あります。ただし点在しているので、構造化データにして小売業に提供し、向こうの顧客データと掛け算できないかな、と。製品開発にも生かせるはずです。
榊:ぜひ実現するといいですよね。小林製薬さんは、石戸さんをCDOに据えられているだけあって、データドリブンに前向きなのだろうと思います。そもそも、高い商品力と特徴的なネーミングが強い企業だから、伝統的な日本企業の側面がありつつも、組織風土は整っているほうでは?
石戸:そう思いますね。当社もここ数年、新規事業とWebマーケティング強化を目指して組織を強化したり、採用をしています。また、アメリカ駐在を経験してきた社員は、アメリカでITが当たり前の業務に触れることも多く、ITへの感度も高いですね。そういうメンバーの経験で、会議体のサイクルや判断基準もアップデートしていきそうです。
“全身”へのタッチポイントを持つ小林製薬のユニークネス
榊:そういう人の意見は、社内への説得力も違ってきますよね。
石戸:はい、現場の意見も大事ですが、やはり志がある人が権限や裁量をもっていることが重要だと思います。また、日系メーカーで経験を積んだデータのスペシャリストを採用したところなので、その人にも期待です。
ただ、元々小林製薬はブランド力とマーケティング力に長けていますし、私が参画した理由も企業文化がすばらしいからです。年間約4万件の製品アイデアと、業務改善アイデアも1万7,000件くらい挙がり、個々人の思いが強いところも魅力です。そして商品点数が多く、150のブランドを集めると鼻や耳など体のパーツすべてをカバーするから、全身の顧客接点を持てるはずだ、と。
榊:なるほど(笑)。
石戸:テック企業はデバイスを通してバイタルデータを取得していますが、うちは店頭商品を通じてもう顧客接点はあるので、デジタルを活用して、さらなる価値を出せないか、お困りごとを解決できないか考え中です。
当社は元々卸事業をしていたのですが、現会長が社長に就任した50年ほど前に「いつかメーカーになる」と掲げ、大手メーカーとバッティングしないニッチな領域を開拓して今があります(参考動画)。この変革の原体験も、今後にこそ強みになると思います。
榊:ユニークな企業ですよね。メーカーは、特に購買チャネルが小売店や小売のeコマースだという点で、データドリブンの事業運営が難しい部分があるのかなと思っていましたが、むしろ可能性があるのだと考えが変わりました。御社にデータのスペシャリストが入られたというのも、楽しみです。ぜひまたお話を聞かせてください!