実際に、誰がどんな点を評価しているかを確かめる
MZ:顧客の声を聞いて仮説を検証していくわけですね。
西口:出してみて売れ行きがよければ、実際に購入しているのは誰なのか、それは想定していた顧客と合致しているのか、それとも違うのかを確かめます。また、具体的に何が評価されているのか、それは仮説とどう相違しているかも、調査などで確かめられますよね。
その上で、今の顧客により喜ばれるにはどうすればいいかを考えて実行していくと、プロダクトが育っていきます。あるいは、もし当初の仮説とずれているけれど仮説通りでもう少し進めたいなら、当初路線を続けるケースもあるでしょうが……成功する可能性は低そうですね。
MZ:そもそも、仮説なく新商品や新サービスが出されることは多いのでしょうか?
西口:意外とあります。もちろん、どんなプロダクトもある程度は売れる見込みの下に発売されますが、製品のスペックなどを追うあまり「誰に何が評価されそうか」の仮説が見落とされたまま開発が進むことはしばしばあります。
たとえ市場においては画期的で業界初なものでも、顧客の側からは「それって誰が買うの?」と感じるプロダクトもたまにありますよね。たとえばデジタル機器などで、今より小さくしたらむしろ使いにくいのに「世界最小」と謳う新商品が出ているケースがあります。
どのプロダクトも、企業目線と顧客目線のグラデーション
MZ:いわれてみれば、企業側が大きく打ち出す特徴に対して、買う側からすると魅力的に感じない時がありますね。
西口:それは吉永さんが対象顧客でない場合もあるでしょうが、企業が対象顧客だと捉えているのにその人が魅力を感じないなら、チューニングが必要です。iPhoneも、登場してからテクノロジーの進化にともなって新機能を追加し、新しいバージョンを発表してきました。そこにはきっと、顧客の意見も取り入れられていたと思います。
一方で、実はAppleには売れなかった製品も多いのです。これらに仮説があったかどうかは確かめられませんが、出してみてチューニングがうまくいかなかったから撤退した、という結果になったのでしょう。
MZ:顧客のニーズをかなり高い確度で捉えられている、顧客目線のプロダクト展開でも、チューニングは必要ですよね?
西口:その通りです。もう少しひも解くと、企業がビジネスとしてプロダクトを開発し送り出す以上、「100%顧客目線」はあり得ないでしょう。どんなプロダクトも、顧客目線と企業目線のグラデーションなのかもしれません。そして、どこを発端にしていても、顧客の反応や意見を把握しながら変更や改良を重ねていくことが不可欠です。