企業視点は決して“間違い”ではない
MarkeZine吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第5回では、価値が成立する「WHOとWHATの組み合わせ」をどう見つけるか、またHOWのコミュニケーションは、その組み合わせを実現する手段だと伺いました。
西口:アイデア(顧客が価値を見出す可能性のある提案)には2種類あり、プロダクトのアイデアとコミュニケーションのアイデアは別だ、という話ですね。広告やキャンペーンなどのHOWがどれだけ楽しく目を引いても、プロダクトの提案性がなければ、売り上げにはつながりません。
MZ:その点で、「ヤクルト1000」や、アサヒスーパードライの商品の例はわかりやすかったです。とはいえ、どうしても提供側は「これに価値があるはず」という思い込みで進んでしまう部分があると思います。企業目線に寄らずに、顧客目線でそのニーズに“どんぴしゃ”で当てていくことは、非常に難しそうです。
西口:確かに、簡単なことではありません。まず、デフォルトで「企業目線に寄っている」自覚を持つことが容易ではありません。その上で、プロダクトを作って送り出す過程で「企業目線に寄りすぎないようにしよう」と思い続けることがまた難しいと思います。
ただ、私は「企業目線が間違っている」とは考えていません。あくまで、企業の目線と顧客の目線をすり合わせることが大事です。
重要なのは、仮説を立てチューニングすること
西口:企業目線の発案で、大ヒットにつながることもあります。たとえば、「iPhone」はその典型です。当時、そもそもスマートフォンという製品自体が浸透しておらず、「『携帯電話+音楽プレーヤー+α』のようなプロダクトが欲しい」というニーズは顕在化していませんでした。次にどんな携帯電話が欲しいかと尋ねられて、そのように答える顧客はほぼいなかったはずです。
MZ:すると、iPhoneは企業目線のプロダクトだったのでしょうか?
西口:そういえると思います。ただし企業の独りよがりの視点ではなく、提案したスティーブ・ジョブズ氏やAppleの皆さんが「こういうものが欲しい」「このように作ったらいいのでは」と検討して誕生したものですから、少なくとも最初の顧客はいたわけです。
その後の広がりはご存じの通りで、具体的なプロダクトを目の前に出されたら「こういうものが欲しかった!」という人が世の中にたくさんいた。企業目線のアイデアが、多くの顧客ニーズの顕在化につながった典型例ですね。
MZ:同じ企業目線でも、うまくいく場合とそうでない場合があるのですね。違いは何でしょうか?
西口:うまくいく場合は、(1)「こんな顧客にこのように売れるだろう」という仮説がある、(2)顧客目線とのすり合わせが継続的になされている、といった条件があると思います。
まず、(1)の仮説がなければ、出したはいいが売れないという事態に陥りがちです。もちろん仮説はあくまで仮説なので、出してみて(2)のように顧客の反応や意見を捉えながら、チューニングすることが大切です。