八方美人は×、切り口は変えても軸はぶらさない
リキッド消費時代のマーケティングの成功例として、北原氏はSNSを中心にバズっている資生堂のファンデーションの例を挙げて解説した。
元々は「美容液効果があるファンデーション」として発売された商品だったが、発売後に利用者が「色付き美容液だ」「ファンデーションのふりをした美容液だ」とSNS等で発信するようになり、「美容液ファンデ」という言葉で話題になった。そこで、資生堂が発信する際も同様の表現を用いるようにしたという。
メインのブランドコンセプトを買えることなく、UGCを作る生活者の声を反映する。まさに、共創のブランディングだ。
「リキッド消費時代に成功しやすい手法だと思います。特にZ世代は、無理矢理押し付けたものを嫌がるので、お客様側からUGCとして発信が出るように促していく。そのために、ファンをはじめブランドを愛してくださる方のインサイトを理解している必要があるのは、今も昔も変わらないと思っています」(北原氏)
ただし、その際に切り口は変えても、根幹の価値を変えないことが重要だと北原氏は付け加える。
「最近はよく、切り口だけでなくブランドの価値まで変えてしまうパターンを見かけます。私はそれを『八方美人マーケティング』と呼んでいます。Z世代はタイパ重視の一方で、ブランドのフィロソフィーなどもチェックしていて、それに共感できなかったり、反する行動があったりすると一気に炎上します。ブランドが1日で死ぬこともあります。だからこそ、切り口は変えても、最後に行きつく価値は一貫してぶらさないことが、どの世代にとっても重要です」(北原氏)
ブランドミッションの浸透をいかにデータで追うか
木村氏が最後に一貫性のあるブランドコミュニケーションを展開するためのヒントを提供する。コンバージョン、ROI以外の指標にも注目するというものだ。
「たとえば、私たちは、ブランドミッションがどのくらい浸透しているのか、共感されているのかを測る指標を用意しています。今はそれをベンチマークにトラッキングし、それらの指標がLTVなど事業につながるKPIにどうつながっていくかを確認している段階です」(木村氏)
このような計測を可能にするためにも、消費者の行動データだけでなく、情緒的なデータも含めたブランドエクイティに対するデータも必要になっている必要になっているのだ。
ブランドとして一貫させるべき価値は何かを整理し、生活者の行動や価値観に添った伝わりやすい方法を模索する。消費行動が大きく変化していく中でも変えることのないマーケターの姿勢と、リキッド消費時代に適した事例が語られたパネルセッションとなった。