陳腐化・衰退を避けるには、社会と喜怒哀楽を共にするしかない
田中:では、経営者の役割は、自由なうごめきを促進させるようなことになってくるのでしょうか。

石井:そうですね。ミンツバーグ教授の「コミュニティシップ」という概念と共通していると思います。ミンツバーグは、リーダーシップという概念を否定しています。往々しく「時代はこっちだ!」とリードしていくことを嫌うんです。彼が言うには、現場コミュニティに寄り添う経営者がよいと。良い経営者の典型は、ジョブズや本田宗一郎だそうです。
また、社会や顧客に寄り添うことも大事です。たとえば、製薬会社のエーザイは「ヒューマンヘルスケア」をコンセプトにビジネスを手掛けています。そのヒューマンヘルスケアですが、30年前と現代のそれは全然別物なんです。もう少し説明すると、近年、エーザイは自治体と協業して、認知症の患者さんが健やかに暮らせるまちづくりに取り組んでいます。これは30年前、人々が「徘徊老人」という言葉を普通に使っていた頃の価値観では、およそ出てこなかった取り組みなんですよね。つまり、エーザイにとって「今のヒューマンヘルスケア」の価値観・社会観をしっかり捉えることは、何よりも重要なこと。これがズレていたり、旧態依然のままになっていたりしたら、もう最悪です。
では、こうした社会の価値観を捉え続けるためにはどうすればよいか? 答えはシンプルで、ヒューマンヘルスケアの世界にいる人々と喜怒哀楽を共にするしかないわけです。私は、ブランドの背後には「ブランドたるべき条件=ブランドシップ」のようなものがあると考えています。ブランドシップへ日々十分な目配りができているかは、ブランディングにおいてとても大事な話です。
というようなことを、最近ちょっとダメになってきている企業や、世の中を騒がせているみなさんの対応を見ていて、よく思います。
田中:先生本日はありがとうございました。『進化するブランド』をどう自分の仕事に活かしていくかというお話、大変貴重なものでした。ぜひ、日本の経営層の方々に読んでいただきたいですね。