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第106号(2024年10月号)
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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

実は「マネジメント」は重要ではない?ブランドの進化を妨げないための心得

 ブランド戦略論の第一人者であり、中央大学名誉教授でもある田中洋氏による本連載。第8回では、日本のマーケティング研究を初期より牽引してきた石井淳蔵教授をお訪ねしました。欧米型のブランドマネジメントのスタイルを批判することなく、純粋に一石を投じている石井教授の新著『進化するブランド』を取り上げ、田中教授の本域であるブランディングをテーマに対談を行いました。こちらは対談の後編です。前提知識を解説した前編からご覧ください。

ブランドは進化型/反進化型の2通りがある

田中:ここまで前提となる部分に触れてきました。ここで改めて、石井先生の口からも進化するブランドと進化しないブランドについて、ぜひお話をいただきたいなと思います。

 進化というと、時間の流れとともに生命が自律的に発展していくイメージがあります。別に人間の手が加わらなくても、ブランドは自分で進化していくのだというような書き方をされているように見えました。

石井:みなさんに一番わかりやすいのは、反進化型としてP&Gを引き合いに出す形でしょうか。進化型の例には、SONYを挙げてみましょう。

神戸大学名誉教授/流通科学大学元学長 石井 淳蔵氏
神戸大学名誉教授/流通科学大学元学長 石井 淳蔵氏

 近年、「SONY」と言えば、素晴らしく強いブランドに育っています。多くの方が「先進的」といったブランドイメージを持っているのではないでしょうか。1970年代のあるところから、SONYは先進性をコンセプトテーマにブランディングしています。その先進性の対象は、技術(だけ)でなく、どちらかというと消費や生活のほうです。自らの先進性をそのように据えると、銀行や保険、ゲームなど多角的に事業を広げていくことができる。ずいぶんうまく進化していったなと見ていました。

 一方、P&Gはみなさんご存知の通り、「消費財メーカー」以外の何者でもありません。ブランディングを見ていても、典型的でバリエーションを出さないようなやり方ですよね。どちらが良い悪いではないんです。ただ、こうして対比してみると、2通りのブランディングがあることが見えてきます。

 それをどう理論的に区分するか? その糸口の一つが、前編で解説いただいた「オートポイエーシス」の概念でした。SONYの方の話を聞いていると、「自由闊達」という言葉が思い浮かぶことがあります。プレイステーションも「あの技術者とやりたいんだ!」という1人の社員の強い思いから、開発が始まったと言われていますよね。つまり、組織内の議論が活発で、融通がきくようになっているから「(ブランドの)自己制作=オートポイエーシス」が起こるというわけです。

『進化するブランド 』【碩学叢書】著石井淳蔵
『進化するブランド 』【碩学叢書】著石井淳蔵

実は自由なPDCAが許容されている日本企業

田中:「ブランドマネジメント」という言葉がある通り、我々はブランドを「管理すべきもの」と思っています。実際、ブランドを管理する方法が書かれた本はいくらでもあります。そうでなく、先ほどのSONYの例であったように、自由闊達にやってもよいという考え方があり得るということですね。そういう自由闊達を許す組織のあり方そのものが、日本的だということなんでしょうか?

中央大学 名誉教授 田中洋氏
中央大学 名誉教授 田中洋氏

石井:私はアメリカの組織で働いたことがないので断言できませんが、今日までたくさんの人の話を聞いてきて、どうもそのような気がしています。日本人からすると「日本の組織こそ窮屈だ」と思えるのでしょうが(笑)。日本の組織は割と自分でPDCAを回せるようになっていると私は見ています。

 ただ、やりすぎたらダメですよね。日曜劇場『半沢直樹』でも、人と違うことをやってはじき出される人間と、うまいことやっていく人間とがいるじゃないですか(笑)。日本の組織って、こういうことだと思います。これが私の自由闊達のイメージです。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)など20冊の著書と9...

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2024/04/01 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45132

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