電通が紹介したプロジェクト、得られた確かな手応え
SXSW、なかでもInteractive部門では、会話型AIや生成AIの活用事例が多く紹介されていた。そのなかで今回、私たち電通が紹介した『Project Humanity』は、障がいに向き合う人々のクリエイティビティをAIやテクノロジーを用いてさらに拡張しようというプロジェクトである。

『Project Humanity』では、電通において研究・企画・開発が一体となったクリエイティブのR&Dを担っているDentsu Lab Tokyoと、NTTが共同で技術開発を行い、ALS共生者でありアーティストとして活躍する武藤将胤さんが代表を務めるWITH ALSとともに実現する取り組みだ。
ALSは筋肉を動かす能力が徐々に失われていく病気であり、世界中で約40万人がこの病気に向き合っている。このプロジェクトで私たちは、武藤将胤さんの潜在能力をさらに引き出すことができる3つの分野に注目した。
1つ目は視線入力インタフェース、2つ目は音声データの解析と合成、そして3つ目が筋肉に発生する微弱な電気信号「筋電」のセンシング。これらを用いて、ALSに向き合う人々が持ち前のクリエイティビティをさらに高められるようなシステムを作った。筋電を感知するセンサーはとても小さく軽量で、非常に微細な信号を捉えることができる。このシステムによって、武藤さんが自らの手足を使ってリアルタイムにデジタル空間上のアバターを操ることができるという、世界初の試みだ。


本セッションでは武藤将胤さんという1人にフォーカスして、彼のこれまでの活動、彼の思いに寄り添ってテクノロジーをどのように用いていったのかをお話しした。その結果としてオーディエンスからとても良い反響をもらうことができた。
たとえば、実は自分の兄弟は障がいがあり、もしこのテクノロジーを使えたら人生が大きく変わるような気がする――など、多くの方々が列をなして深い話をしにきてくれた。単なる「最新技術を紹介します」というセッションでは得られない、テクノロジーをきっかけに人と人との繋がりが生まれる感じがとてもうれしかった。
昨年Creative Industries Expoに出展して反響をいただき、多くの方々に楽しんでもらえたのも感慨深いものであったが、今年のセッションでは昨年とはまた異なる確かな手応えを感じることができた。様々なテクノロジーが普及していく中で、それらを使う人がその人らしく生きるために何が必要なのかを、これからも探していきたい。