「推し活」はロイヤルカスタマーを生み出すためのビジネスモデル
今回紹介する書籍は『推し活経済 新しいマーケティングのかたち』。著者は、立教大学経営学部に所属する現役大学生で、推し活ビジネスアドバイザーとして活動する瀬町奈々美氏です。
本書では、自身も推し活を行っている瀬町氏が、推し活を成り立たせる要素や構造を分析。それを基に、人々から長く愛されるビジネスの在り方とその生み出し方を解説しています。
多くのカテゴリで類似する商品やサービスが生まれて飽和状態となり、ブランドスイッチが起こりやすくなっています。自社の商品・サービスをいかに買い続けてもらうかは企業のマーケターにとって重要なポイントです。
そのような課題の解決策の一つとして、本書では「推し活」に着目。「推し活」が盛んなエンタメビジネスの世界も、その事業構造はどの業界にも通ずるビジネスの基礎をもとに、緻密に計算されているという点で、「あなたの取り扱うサービス・プロダクトにロイヤルカスタマーをつくり、顧客から消費を引き出すことに似ているといえる」と瀬町氏は説明しています。
「推しを持つ人」と「ファン」との二つの違い
本書では、ロイヤルカスタマーを作り、消費を引き出すビジネスの手法を推し活から学ぶために、推し活の構成要素や構造がこれまでのビジネスとどのように違うのかをわかりやすく説明しています。たとえば、推し活をする「推しを持つ人」と従来の「ファン」との間にある違いです。
推しを持つ人とファンでは、その人の人生にとっての「重要度」に大きな違いが存在する。「推し」とは、その人の様々な「決断に大きな影響を与える存在」なのである。(p.45)
瀬町氏はこの重要度の差を生み出す要因として「自発的行動量の多さ」と「熱狂度の高さ」の二つを挙げています。ここでいう自発的行動量は、どのくらいの頻度で好きな対象のために自ら行動をしているか、熱狂度は好きな対象に対しての奉仕精神がどれだけ高いかだといいます。
推し活の盛んなビジネスでは、ユーザーが商品やサービスに感情移入してプロモーションを自主的に行い、「第二の生産者」のような役割を担うと瀬町氏は表現しています。このように本書では、ロイヤルカスタマーの定義を見直すことにもつながるヒントなど、ビジネスの新たな視点を推し活の特長から導いています。
カンロの事例から見る、推し活マーケティングのコア
本書では、推し活の構造の解説に続いて、それを取り入れたビジネスモデルへと転換し、「推し活マーケティング」を行っていくための考え方も詳しく解説。具体的な事例を紹介し、わかりやすくしています。
たとえば、応援されるために必要なコアの一つとして「人が共感できるストーリーをつくれている」ことを挙げ、その成功事例としてカンロの「透明なハートで生きたいキャンディ」を紹介。カンロでは、同商品の開発に現役高校生のモデルおよびタレントを起用することで、アンケート調査からはわからないターゲットのリアルな心境を掘り下げて分析しました。それを基に作り込んだ商品とCMは、高校生の複雑な心境に寄り添う世界観が注目を集め、Xでは9,000件超の投稿数を創出したといいます。
同社の事例を踏まえ、瀬町氏は次のように説明しています。
ビジネスに紐づいた「ストーリー」を通して商品・サービスの持つ個性に顧客が「共感」してくれたならば、そこにはポジティブな情緒価値が生まれ、商品の購買やサービスの利用に繋がる。(p.161)
このように本書では、「推し」が生まれる構造や推しを持つ人の行動特性を説明するとともに、企業が自社の商品やサービスを「推して」もらうための方法を具体的に説明しています。商品やサービスのLTV改善に悩んでいる方や、競合他社の商品・サービスとの差別化を行いたいと考えている方は、本書を一読してみてはいかがでしょうか。