「スマートバー」「TAP&FIT」など、店舗体験を向上する工夫
MZ:デジラボ以外に、店舗での顧客体験を向上するためにどんなお取り組みをされていますか。
河野:銀座のTOKYO GINZA店など一部店舗には「スマートバー」というサイネージを設置しています。一般的なスーツ・シャツ・ネクタイの組み合わせだけでなく、カジュアルスタイルの着こなしや靴の合わせ方などを知りたいお客様は多いです。そこで、スマートバーに売れ筋ランキングやスタッフのコーディネートを掲載し、店内での商品選びに活用いただいています。

河野:また、スーツは試着して安心して買いたいというニーズもあります。これに応えるのが「TAP&FIT」で、オンラインで選んだ商品(一部商品が対象)をご希望の店舗に配送し、お客様にお好きなタイミングで試していただくサービスとなります。こちらもオンラインとリアル店舗をつなげるOMO戦略の一つですね。
他にはTOKYO GINZA店で「骨格診断」サービスを期間限定で提供し、診断に合わせ相性の良いスーツやネクタイなどの提案を実施しました。加えて、メンズスキンケアブランド「UNO」との協業も2023年10月に行いました。就活やビジネスシーンなどに合わせてスーツと一緒にご提案する取り組みで、こちらも好評でしたね。特に20~30代前半の層は男性であってもメイクに抵抗感のない方が増えており、ターゲット層に合わせたサービス展開の重要性を感じています。
店舗・EC併用顧客の創出や購買点数アップに貢献!
MZ:取り組みの中で得た気づきはありますか。
河野:現在はオンラインで購入されるお客様が増えている一方、バーゲンの時期になると店舗にあるものを買う傾向が強まることですね。「デジタルよりもリアルがいい」という要望もあるため、店舗在庫を一時的に増やすなどニーズに合わせて柔軟に対応することが大事だと思います。
また店舗に在庫がない商品をオンラインで対応する際も、配送などで何日か要します。その場で持ち帰りたい、今すぐ必要だというニーズもあるため、そういった視点も加味しつつPDCAを回していくことが肝要です。
MZ:OMO型店舗を拡大していく中で、どんな成果がありましたか。
河野:成果としては、大きく2つあります。1つ目は、リアル店舗とECの併用顧客が増えており、各ブランドのファンの数が拡大している点です。
もう一つは経営面の成果です。売り場面積を小さくすることで、物件費や人件費を抑えながら在庫回転率を改善できています。店舗面積を縮小しても売り上げが変わらないため、OMO戦略によって経営面のメリットとお客様目線での利便性の両立ができているといえます。
合わせて、店舗面積が小さくなったことで出店も容易になりました。これまでの大型店舗は、良い立地で出店できるだけの面積を確保することが困難でした。今後はファミリー層などにより利用いただけるよう、イオンモールなどのショッピングセンターにも出店しています。たとえば、2024年4月にはイオンモール福岡と岡山に出店いたしました。
他には、ECとの連携で「買えるのは店頭の在庫のみ」という制限からも解放されますから、2着購入いただくお客様の比率も増え一人当たりの購買点数アップにも貢献していますね。
顧客ニーズに対応するために、OMO戦略は不可欠
MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
河野:これまでは店舗の中での販売に集中していて、オンラインとの接点が作れていませんでした。しかしコロナ禍をきっかけにお客様の購買動向が変わり、スーツに対する概念が急速に変わりました。
一方で、スーツは「失敗したくない」というニーズが変わらず存在する商品でもあり、リアル店舗の存在には大きな意味があります。だからこそ、OMO店舗を活用しながらECに送客する形が今のベストな在り方だと考えています。店舗があるからECを使う価値も生まれ、ニーズによって使い分けもできるため、ユーザー目線でも嬉しい体験を提供できます。

河野:SUIT SQUAREの出店の余地はまだまだ大きく、引き続き展開を進めながら店舗とECを併用していただけるファンを創出していきたいです。具体的には2026年までに、THE SUIT COMPANYなど既存店舗を全店SUIT SQUAREに変更する他、新たな出店も積極的に行っていきたいです。また配送におけるリードタイム縮小のため店舗からの商品発送を増やすなど、よりお客様が利用しやすい環境構築も進めてまいります。
時代とお客様のニーズに合わせて自分たちが柔軟に変革できるかが、マーケティング戦略を考える上で一番重要なポイントです。カジュアルスタイルやオーダースーツなど、お客様それぞれのニーズに合った対応を実現するためにOMO戦略は不可欠です。その推進を力強く行っていきたいですね。