量的なアンケート調査からは、強いプロダクトは作れない?
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):第10回まで、たった一人のN1の心理を深掘りすることがなぜ大事なのか、実践や事例を交えて教えていただきました。“N1に聞く”といっても、それは一人だけに聞けばいいという意味ではないのですね。
西口:はい。その点は、特に初学者の方には、これまでかなり誤解があったかもしれません。顧客起点マーケティングの特徴の一つは、あくまで「一人を深掘りして得られるヒントを起点にする」ことで、話を聞く相手が一人で足りることはほぼありません。実際のプロダクト開発や発売、あるいは販促施策の実施に漕ぎ着けるには、そこから別の方の意見や量的なアンケート調査も取り入れる必要があります。
MZ:逆に、数百人以上を対象にしたアンケート調査から共通の意見を拾っていく形では、顧客に「欲しい」と強く思ってもらえるプロダクトを作ったり売り上げを伸ばしていったりするのは難しいのでしょうか?
西口:平均的に捉えた架空の顧客像が起点になるか、そこから売り上げを得ることは可能なのか、ということですね。アンケート調査で、モニター(回答者)が書いてくれたフリー回答がきっかけになることはあると思いますが、その方々が具体的な本音を書いているか、それを目視で確認して「この意見は掘り下げられそうだ」とピンとくるか、などのハードルがありそうです。
さらに、その上で対象となる顧客層の方、一人ひとりに直接インタビューして掘り下げないと、顧客に強く望まれるようにするのは難しいと考えています。
N1分析の対極にあるのは「マス思考」
MZ:ただ、実際のビジネスでは、顧客インタビューが頻繁に行われていることは多くない……というお話がありましたよね。
MZ:そのようにして「顧客に会って話を聞く」ことは、通常はあまり行われないものでしょうか?
西口:顧客を知ることの重要性には皆さん賛同されると思いますが、毎週のように話を聞いている人はほとんどいないのではないでしょうか。年に何回か、調査の一環として顧客インタビューを設定している場合も、1ヵ月以上は空いてしまいますよね。そんなふうに改まって行うのではなく、常日ごろから顧客に接していることが重要です。
西口:そうですね。合わせて、既に自社に購買情報があって連絡が付く、いわゆる既存顧客のみを対象とすることが多いでしょう。でも、どんなビジネスでも新規顧客を増やさなければ縮小してしまいますから、まだ顧客になっていない人にも意見を聞いて「どうしたら顧客になってもらえるか?」を探る必要がありますよね。
また、吉永さんも私も誰もが日々変化しているので、同じ人に時期を置いて聞くのもとても大事だと思います。人の気持ちは常に移り変わっていきますから。
MZ:そうすると、N1を起点にしない場合、一般的にどういったプロセスが展開されているのでしょうか?
西口:全業界を網羅しているわけではありませんが、私がこれまで見聞きした限り、不特定多数の平均化した架空の顧客像に対して画一化した施策を展開する企業が大半だと思います。
顧客をひとくくりにして捉える考え方を、「マス思考」と呼んでいます。これは、一人を深掘りするN1の考え方の対極にあるものです。