顧客の熱量に合った施策で、CVへの階段を上ってもらう
高橋:近年は、Cookie規制などでリターゲティングができなくなることから、自社データの重要性が高まっていますよね。当社の場合、MAツール導入で顧客データの一元管理から、商談率を上げるなどしていますが、イベントの効果など、自社データでも実証されていますか。

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。ナイルにて、累計2,000社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
井手:そうですね。以前は、楽天市場は楽天市場のシステム、電話での注文はExcelの顧客管理表といったように、社内にデータが散在していました。それを顧客管理システムの導入で少しずつデータを統合していった結果お客様の動きが可視化でき、イベントをきっかけに購買意欲が上がることもきちんと裏付けが取れています。
データをもとに、製品や当社への熱量の度合いを5段階に分けて指標化し、それぞれの段階に合った活動を展開するようにもなりました。製品を置いてくださっている店舗が多い東京には熱心なファンが多いので、そうしたファンに満足してもらえるようなイベントを考える。一方、まだなじみが薄い地方都市では、ライトなファンの心をつかむようなイベントをする。そんな取り組みを少しずつ始めています。
人生の節目をフックによなよなエールとのつながりを作る
高橋:ここ最近で、「これはハマった」と感じる施策はありましたか?
井手:2023年に実施した「隠れ節目祝い by よなよなエール」は、共感から認知、購入へと自然と階段を上ってくださるお客様が多かった印象です。
人生の節目と言うと、一般的には成人式とか結婚とか、比較的大きなライフイベントを思い浮かべますよね。でも、実は人生には、もっと目立たない、でも大切にされるべき節目がたくさんあるんじゃないかという発想から生まれたプロモーションでした。
たとえば、ずっと夜間授乳でまとまった睡眠がとれなかったお母さんにとっては、子どもの卒乳ってすごく大きな節目ですよね。魔の二歳児とも言われるイヤイヤ期を抜けたときや、ずっと飼いたかった猫を飼い始めたとき、住み慣れた街から引っ越したとき――。そんな、その人だけの隠れた節目を迎えた方々をよなよなエールがお祝いします!という呼びかけをしたところ約2.7万件のご応募が集まりました。
その中から約9,000名の方に、よなよなエール2本と節目の卒業を祝う証書をプレゼントしました。また、「買ってでも欲しい」「友人に贈りたい」といった商品化を希望する声が多く寄せられたので、2024年3月から商品としても発売しました。
高橋:素敵な施策ですね。新規の方の獲得にも効果がありそうです。
井手:あまりよなよなエールに親しみがない、あるいはまったく知らない人に「個性派のクラフトビールで、すごくおいしいです」と宣伝しても心を動かしにくいですが、趣旨に共感してもらえるようなイベントがフックになると「じゃあ、ちょっと飲んでみようかな」と思ってもらいやすいですよね。
「こんなことをやってるブランドって他にないな」「しかも、これまでにない味のビールで、自分の好みにとても合う」みたいな感情の動きを生むことができたおかげで、5段階のうち1や2だった方が、2つくらい階段を上がってくれました。
階段を上がるきっかけは1つではないので、お客様とコミュニケーションを取りながらベストな打ち手を模索していくことが大事だと思っています。