Z世代の理解に欠かせない「界隈消費」とは
―― はじめに「界隈消費」とは何か、教えてください。
長田:「界隈消費」とはSHIBUYA109 lab.が提唱した、主に若者に見られる消費行動のことです。2年ほど前から若者にインタビューする中でよく「界隈」といったワードを耳にするようになりました。
「界隈」とは共通のファッションテイストや趣味、好きな世界観などを軸にした、ゆるいつながりのこと。たとえば、世界観には「フレンチガーリー界隈」や「韓国界隈」、黒・ピンク・白を基調としたガーリーなテイストの「地雷界隈」、地雷界隈と同じテイストながら、より王道のモテを意識した「量産界隈」、儚さと透明感を併せ持つ白や水色を基調にした「水色界隈」などさまざまな界隈があり、皆さんSNSの投稿を好きな世界観で統一しています。
それぞれの界隈は独立して存在しているわけではありません。グラデーションになっており、いくつもの界隈が重なり合っています。それぞれが混ざって新しい界隈ができることもありますし、1人が複数の界隈にアクセスすることもあります。また、SNSで知り合った界隈の人たちとリアルで会うなど、界隈はデジタルとリアルの区別なく存在しています。
若者は、界隈の中で消費を楽しむ方向に進んでいるといえるでしょう。
界隈消費が起きている背景「同じ熱量を持つ人たちと自分の好きなものを楽しみたい」
――界隈消費の潮流が起きている背景をどのように捉えていますか?
長田:メガインフルエンサーより、マイクロインフルエンサーやナノインフルエンサーのほうが若者の消費に影響力を持つようになったことが背景の一つとして挙げられます。手の届かないところにいる人より、より身近にいる人の発信のほうが自分ごと化しやすいのだと思います。
この流れに拍車がかかったのはコロナ禍に入ってからです。さまざまなことが制限される時期を過ごしたことで、「浅く広くみんなと仲良くする」ではなく、「同じ熱量を持つ人たちと好きなものを楽しみたい」と願う人たちが増えたと感じています。この流れは今も変わっていません。
――周りにあわせてトレンドを追いかけるより、自分が好きなものを追いかけたいという価値観の変化があったのですね。
長田:そうですね。さらに、仲間を作るときは「本当に自分と同じ熱量を持っているか」「にわかではないか」を真剣に見極めようとしています。熱量が少しでも違うと会話が盛り上がらず、お互いに楽しめないと考えているのでしょう。見極めるために何度もDMでやりとりするといったプロセスを踏んでいる人もいます。同じ種類の界隈であっても、このように熱量はさまざまです。
そして、1つの界隈の中に微妙に異なる小さな界隈が存在することもあります。たとえば「フレンチガーリー」界隈を見てみても、インフルエンサーによって体現している世界観が微妙に異なっていたりするんです。
こうして多種多様なトレンドが並行して走っているため、「今、Z世代ではこれが流行っています」と一言で表せなくなっています。