※本記事は、2024年6月刊行の『MarkeZine』(雑誌)102号に掲載したものです
ブランドは気まぐれな消費者とどう向き合うべきか?
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1.消費スタイルの変化を大局で見る「リキッド消費」
流動が進む現代の消費に関わる傾向
リキッド消費(liquid consumption)は、Bardhi and Eckhardt(2017)により提示された概念であり、「短命ではかなく(ephemeral)、アクセスベースで(access based)、脱物質的な消費(dematerialized)」と定義されます。
Bardhi and Eckhardt(2017)は、消費に関わる傾向として次の3つを指摘しました。
- 短命性:その時その時で、あるいはその場その場で、価値を感じるものが次々と変わり、それゆえ製品やサービスの価値がはかなく、短命なものとなる。
- アクセスベース:何かを所有することにこだわらず、レンタルやシェアリングによって、その価値にアクセスできれば十分だと考える。
- 脱物質的:モノにこだわらず、むしろ物質よりも経験に価値を感じるようになる。
また、リキッド消費では、消費から得られる使用価値に重きが置かれることになり、実用的なベネフィットのための消費に価値が見出されるようになることと、(より多くの物を所有するという意味ではなく)より多くの財を消費していくという意味での物質主義的傾向が高いことも指摘されています。
なお、リキッド消費を理解する上で重要なのは、これらが「3年前と比べて~」といったレンジの話ではないということ。リキッド消費は20年、30年というレンジで社会の変化を捉えたときに見られる大きな流れであり、トレンディな消費潮流であるという認識は間違っています。
誤解も多いリキッド消費の概念
リキッド消費は、従来型のソリッド消費と対を成す概念で、リキッド~ソリッドというスペクトラム(連続体)の両極として概念化されます。これは、世の中のすべてがリキッド消費化するのではなく、伝統的なソリッド消費に加えてリキッド消費という新しいタイプの消費が台頭してきた、ということを意味しています。
つまり、市場全体がリキッド消費化するわけではありませんし、すべての人がリキッド消費者になるわけでもありません。リキッド消費については、「以前とは異なるスタイルの消費が目立つようになってきた」と考えるべきであり、「これまでとまったく違う市場が生まれた」「消費のスタイルが180度変わった」というようなセンセーショナルな表現は適切ではないのです。
事業戦略においても、すべての企業・ブランドがリキッド消費に対応しなければならないわけではありません。「自社ブランドがリキッド消費に対応した戦略を採用する必要があるか?」を冷静に検討することが第一歩となるでしょう。
青山学院大学経営学部長・
経営学研究科長教授 久保田進彦氏