子育て世帯の顧客体験向上のため、三井不動産とギックスが連携
千葉県柏市に位置する「柏の葉スマートシティ」は、2005年のつくばエクスプレス開通を契機に誕生した新しい都市だ。柏市と、三井不動産をはじめとする民間企業、東京大学・千葉大学などの「公・民・学」が連携し、最先端の知を集積させた次世代型のまちづくりを推進している。
三井不動産の佐藤好浩氏は「今回、柏市に暮らす子育て世帯に向けて顧客体験向上のため、柏の葉スマートシティ発のキャンペーンプラットフォーム『マイグル』を活用したスタンプラリー施策を実施しました」と説明した。
「マイグル」を開発・提供するギックスは、戦略コンサルタントとアナリティクス専門家によって2012年に設立された“データインフォームド”推進企業だ。データインフォームドとは、データによって情報を与えられたことで、人の判断が高度化していくことを指す。経営判断に合理性と再現性を付与して円滑な事業運営に貢献するため、データの蓄積・加工から判断への活かし方まで、一気通貫でサポートしている。
「アナリティクスを活用し、人があらゆる判断をデータに基づいて行えるよう支援することで、クライアント企業の経営課題解決を実現する。それが私たちの強みです」(堀越氏)
ユーザーがゲーム感覚で楽しめる体験を作る「マイグル」
「マイグル」は、LINE公式アカウントやネイティブアプリに独自のミッションクリアゲームを構築して組み込み、ミッションクリア型の施策を実施・運営・管理できるサービスだ。抽選やデジタルクーポン・会員証・スタンプラリー・GPSチェックインなどの機能を活用してオリジナルゲームを作成でき、ユーザーは楽しみながらサービスを利用できる。
同サービスの主な利用者は企業のマーケター・経営企画・イベントプランナー・販促担当者など。CXや顧客育成に課題を抱えているが実行手段がない場合も、多くの開発リソースを割かずに機能を使えるのがメリットだ。
これまでマイグルは、商業施設や鉄道会社、観光事業などに採用され、買い回り促進や来店頻度向上、観光地の周遊促進を目的としたスタンプラリー施策を実現してきた。新規獲得をはじめ既存ユーザーの活性化や離脱防止など、フェーズごとに最適なゲーミフィケーション施策を実施し、新しい顧客体験を創造できる。「特に離脱防止とユーザー活性化に、ミッションクリアゲームは活用しやすい」と堀越氏は述べた。
また、オンラインと比較して取得難易度が高い、オフラインの施設や店舗での利用・回遊行動などのデータも取得・蓄積・分析が可能(※)だ。APIと連携したIoTデバイスのデータも使用でき、施策のスピーディなPDCA実現に寄与している。
※LINEアカウントと紐づいた行動データの取得・活用にはユーザーの許諾が必須となります。
子育て世帯の情報へのアクセスにおける課題を解決するために
では実際に柏の葉スマートシティで、どのように「マイグル」を活用したのだろうか。
一般的には子育てが始まると、生活時間の配分見直しや子どもを預けられる保育施設の確保、家族で出かけられる場所のリサーチなど、急激なライフスタイルの変化への対応が必要となる。
たとえば自治体を主体とする補助金助成や、親子向け施設の整備、体験保育・園庭解放などのイベント。さらに、民間主催の子ども向けイベントや親向けのアプリ・サービスの提供なども挙げられる。しかし、それらの情報はユーザーが能動的に調べなければわからない、また満足したユーザーはそれ以上情報を取りにいかないといった課題があった。
仕事や育児、家事に追われる子育て世帯がすべての情報を収集するのは困難だ。ユーザーが情報収集を楽しみながら積極的に行動させることが重要だと佐藤氏は振り返り、これが実現できれば、柏の葉スマートシティのみに限らず全国の地域コミュニティの課題解決にもつながると指摘した。
「生活者に『子育てしやすい』と実感いただける環境作りは喫緊の課題です。地域の施設・イベントの認知度を向上して住民の利用を促進し『住んでよかった』と思っていただける街にしたい。同時に、スマートシティにおけるアプリや会員サイトの利用の輪を拡大して、住民の価値体験を向上したいと考えました」(佐藤氏)
これらの課題を解決する上で、「マイグル」の持つ強みが合致したという。
楽しみながら役立つ情報を得られる「子育て支援スタンプラリー」
LINE公式アカウントに「マイグル」の機能を組み込み、2023年12月から2024年2月まで提供したミッションゲームが「子育て支援スタンプラリー」だ。エリア内でスタンプラリーに参加して下記のようなミッションをクリアすることで、スタンプを貯められる。
・柏市内の子育て支援拠点に訪問し、設置された二次元バーコードの読み取り
・子育て関連のイベント参加
・「スマートライフパス」と連携するサービスの利用
・子どもを持つ親同士が「子育て支援スタンプラリー」上のQRコードを読み取ると行える「ママ友パパ友登録」
また、チャレンジには「ママ友パパ友登録をしよう(5人以上でクリア)」「柏市子育て支援拠点を訪問しよう(5回訪問でクリア)」などゲーム要素を取り入れながら、コミュニティ活性化につながるよう工夫を凝らした。
「参加者は、ポイント獲得を目的として、楽しく子育てに役立つ地域のサービスを知れます。『ママ友パパ友登録』は、子育てする親同士が交流を始めるきっかけにしていただけたらと考えました」(堀越氏)
同時に子育て関連施設・イベントの情報提供やMAP表示なども搭載したところ、「MAP検索が便利で利用するきっかけになった」といった反響が寄せられた。
子育て世帯支援と地域コミュニティ活性化を同時に推進!
2023年12月16日のキャンペーン開始当初は、スタンプラリーの利用人数は50人程度/日。近隣エリアでのチラシ配布や駅広告、柏市の子育て情報サイト「はぐはぐ柏」での告知などプロモーションを重ね、さらに2024年1月にはパーソナルデータ流通プラットフォーム「Dot to Dot」を運用した健康管理アプリとの連携を開始したことで、100人規模/日まで利用者が増加した。
2024年2月までに会員数の10%がスタンプラリーを利用し、累計スタンプ獲得数は4,345個、累計チャレンジ達成数は309個という結果に。「これまでの子育て支援の取り組みと比べて多くの方が参加され、ユーザーの反応も好調で手応えを感じました。今回の振り返りを踏まえて、利用率向上につながる施策を検討中です」と堀越氏は話した。
また佐藤氏は、「スタンプラリーはエリア初の試みでしたが、スマートシティはこのような新しい施策にチャレンジしていくことが一つのミッションです。今回のキャンペーンを通して、子育て世帯への支援と地域コミュニティの活性化を同時に図ることができたのは大きな成果でした」と語った。
マイグルで、LINEユーザーの手軽なキャンペーン参加を実現
セッションの最後には、柏の葉スマートシティにおけるLINE公式アカウント活用の展望について両者が語った。佐藤氏は今回の取り組みを振り返り、LINEを利用していれば手軽にキャンペーンに参加できる点が大きなメリットだと指摘する。
「私たちはこれまでネイティブアプリを持っていませんでしたが、ミッションクリアゲームを通して地域の方々の体験価値向上に寄与できました。ユーザーの利便性を向上させるために、LINE公式アカウントの活用にも挑戦していきたい」(佐藤氏)
今後は、育休取得者のアイデアを活かしたミッションゲームなどの配信コンテンツも検討しているという。
また堀越氏は「マイグルはノーコードでミッションやゲームを作成できる点が強みです。地域の方にも開発に参加いただき、生活者の声を反映しながら柏の葉スマートシティならではのミッションゲームを作ってLINE公式アカウントから地域へ発信し、コミュニティの輪を広げていく。その起爆剤として活用していただきたいと考えています」と展望を述べた。
スマートシティの住民は参加型の活動に特に積極的だ。取り組みなどを重ねモデルを確立して、将来的には自治体間での横展開なども検討したいと佐藤氏は加え、「暮らしやすく子育てしやすい街づくりに向けて、これからも地域に伴走していきたいと思います」とセッションを締めくくった。