課金ユーザーの情報源、1位は「公式ホームページ」
山田:ゲームアプリの未来をつくっていくために、ユーザーを増加させる広告配信は大事なテーマです。早速ですが、広告を配信して「ゲームアプリのユーザーを増やせた」実感はお持ちでしょうか? 家門さんは広告のコンサルティングをされているので、「増やせている」という立場だとは思うのですが。
家門:「やり方によっては増やせない」というのが正解です。ゲームのマーケティングは10年くらいの歴史を積み重ねてきますが、間違った歴史もあると思っています。正直、いまだに「これはこうやった方がよかったのかも」と思うことがたくさんあります。
家門:広告を考える上の情報として、「ファミ通ゲーム白書2024」のデータをお持ちしました。グラフは、ゲームに課金する人と課金しない人の、ゲームの情報源の違いを調べたものです。まず、課金する人としない人とでは、情報源が違います。
課金する人の1位は公式ホームページ、2位はX(旧Twitter)、3位はYouTubeです。公式ホームページが1位というのは、意外だと思う人も多いのではないでしょうか。課金しない人ではクチコミが1位で、XやYouTubeの中にも広告は含まれているものの、バナー広告となると8位でした。課金する人にいたってはバナー広告がランク外なので、残念ながら広告の効果はいい状況ではないと言えます。
山田:ユーザー目線では「広告はよく見るけれど、適切に届けられていないので、優先度が下がっている」状態ではないかと思います。事業会社側として、田畑さんの感想はいかがですか?
田畑:弊社でも、熱量の高い方たちのほうが、より公式ホームページやX公式アカウントの情報をきちんと見てくださっている印象なので、実感値に近いと感じます。
精緻に計測できない、オンライン広告の課題
山田:今のオンライン広告には、課題があります。オンライン広告は「きちんと計測できる」と思われがちですが、実は精緻に計測・評価をすることが非常に難しい状態です。
山田:広告配信をする場合、「配信した分、ユーザーを追加誘導できること」を期待します。しかし実際は、広告配信をしなくてもインストールしてくださった人(オーガニックユーザー)にも広告を見せることで、広告経由でインストールしたと計測されることが起こっているのではないかと考えています。
家門:実際に起こっていますね。僕が途中からお手伝いさせていただいた案件でも、多いものだと70%くらい広告経由とオーガニックのユーザーが重複していたものがありました。
山田:要因として「広告をクリックせず見せただけ(表示させただけ)」など、直接送客効果が低いコンバージョンもコンバージョンとして計測できてしまうことも少なくありません。場合よっては、このようなコンバージョンだけを集めてしまう配信になってしまうことも十分にあり得ます。
こうした状況を変えるべく、家門さんと事例の検証をしました。具体的には、ASC(App Store Connect)では広告をクリックしてダウンロードしたもののみが計測されるので、広告の計測において通常使われるMMPでの計測との差分を見ることにしました。
家門:メニューBではMMPの計測で85件のコンバージョンがあるものが、ASCでは5件となっていて、結構衝撃でした。
山田:広告を見た時にはクリックせず、後からインストールする場合もありますが、アプリの場合はそう多くはないでしょう。したがってアプリ広告は、直接送客効果の高いものを中心に配信するのがいいと思っています。田畑さんはいかがですか?
田畑:MMPの計測を元に運用なども検討しているのですが、比較的広告出稿でもユーザーをとれている実感値があったので、この結果は正直びっくりしました。
家門:こうした課題は、ゲーム業界にあるリセマラ(リセットマラソン:インストールとアンインストールを何度も繰り返すこと)があるからかもしれないと考えています。(MMPが提供する)SDKではリセマラを除外できるので、そこで計測するのが一番正しいという文化が他業界よりも強く根付いてしまったような気がします。
新たな計測の指標を求める、バンダイナムコの取り組み
山田:バンダイナムコエンターテインメントさんでは、広告の計測に関する新しい取り組みをされているのですよね。
田畑:iOS14.5以降で広告の計測が難しくなったこともあり、短期目線と中長期目線での取り組みを実施しました。短期目線の取り組みは、既存のデータや今取得可能なデータの中から、広告運用を継続するための最適解を検討しています。
田畑:中長期目線では、個別の案件単位ではなく、予算全体の最適配分を従来とは別の評価指標でやるというものです。新しい分析方法も取り入れ、それぞれ推定ROASとMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と呼ばれる仕組みを自社で開発・運用しています。
ATT(App Tracking Transparency)の影響を受けたiOSの出稿に対応するために、売り上げやUU数といったメディアやMMPなどから取得可能なシグナルから、広告出稿に対する回収率がどうなっているかを予測する数理モデルをグループ会社のバンダイナムコネクサスと独自開発していて、これは特許出願中です。日々の運用は、こちらのROAS予測モデルを使い行っています。
田畑:テレビCMや雑誌などのオフライン広告も含めて、出稿後の結果がアプリの中のイベントにどう紐づくか、全体の寄与度を分析する仕組みも開発しました。
メディアごとに「予算をどの程度かけると限界効率がどこになるか」「どの媒体にどれくらいの割合で予算をかけると最適なインストールやゲーム内KPIを達成できるのか」を割合で表示するようになっています。これらを使って、メディアプランニングの検討から一番インパクトが大きかった施策をインクリメンタリティで計測する仕組みです。
山田:これをデベロッパーさんが独自でつくるのは相当難易度が高いですよね。実はUNICORNではMMMを外部から簡単に導入できるソリューションを提供しているので、後ほどご紹介します。
「どんなユーザーに届けたいか?」に立ち返る
山田:オンライン広告の課題に対応するためには、どうしたらよいとお考えですか。
家門:バンダイナムコエンターテインメントさんのように外部ツールに任せきりではなく、自分たちで見るべき新たな指標をつくることはやるべきです。しかしこれは資本もパワーもかかります。
誰でもできることとしては、広告をどうするか考える前に、初心に立ち返り、「どういう人に届けたいか?」に正面から向き合うことが大事だと思います。
田畑:弊社でもアプリのファンの方への定量・定性調査を行っていますが、それはすごく大事なことですね。
家門:僕らは毎月定量調査をやっていて、年間で100名くらいユーザーインタビューをしています。「何を見てゲームに来ますか?」と聞くと、XかYouTubeと答える人が多いです。
広告計測SDKは素晴らしいツールですが、それだけを見ていると、ハックしている計測結果を見て、実は効果の出ていたXの出稿を止めてしまうこともあり得ます。もしSDKでXの数値が悪くても、ユーザー調査ではXが見られているということが言えれば、配信を続ける判断ができますよね。
山田:適正に評価できる仕組みを模索していけば、ゲームの未来を作っていけそうですね。僕らもたくさんのお金を預かって広告配信をしているので、ゲーム業界のビジネスを伸ばすサポートをしたいと思っています。
確実なユーザー増加を実現させるためには?
セッション終盤に、UNICORNの須藤恵輔氏が登壇。「確実にユーザー増加を実現するUNICORNの取り組み」と題し、同社が提供するサービスを紹介した。
アプリ広告の計測方法には、クリックスルーコンバージョンとビュースルーコンバージョンの2つがある。こうした中で須藤氏は「ビュースルーコンバージョンにも価値はあると思っているが、コンバージョンの価値としてはイコールではない」と語った。
そこでUNICORNでは、ユーザー増加に貢献できる広告価値の高いものを「直接送客効果が高いコンバージョン」と定義。これを増やし評価することが重要だとし、須藤氏は実現するための3つの取り組みを紹介した。
1つ目は、ビュースルーコンバージョンがどのくらい直接送客効果があったかを計測し、モニタリングと制御を行うこと。そのためにインクリメンタリティ計測を行っているという。
「これにより、広告施策を実施しなかったら発生しなかったであろう成果のことを指し、オーガニックで発生するはずであったコンバージョンを食ってしまう事象を計測できます」(須藤氏)
具体的には、同じ広告キャンペーンの中で正しい広告とダミー広告の2グループに分けて配信。ダミー広告にビュースルーコンバージョンが発生した場合、「オーガニック食いが発生していて、広告の直接送客効果は限りなく低い」と考えられる。
UNICORNでは、広告枠やクリエイティブサイズごとに送客効果を確認できるほか、直接送客効果の低い広告は自動的に制御がかかる仕組みも提供。直接送客効果の低いビュースルーコンバージョンを減らすことができるという。
直接送客効果の高いコンバージョンを増やすために
2つ目の取り組みは、直接送客効果の高いクリックスルーコンバージョンを増やすDirect Impact Campaignsという配信方法だ。
まずは適切なデータを収集するために、広告が誤タップされない仕組みになっており、ユーザーが意志を持って広告をクリックしたデータのみを取得している。次に機械学習から、コンバージョンの種類をクリックスルーコンバージョンのみに設定。さらにHTML形式でユーザーが触れられる広告など、独自のデザインや表示方法によって、ユーザーの目を惹くクリエイティブの作成を可能にした。
そして3つ目の取り組みは、プラットフォーム「MetricWorks」の活用だ。UNICORNは、米国のMetricWorksと共同で、合弁会社MetricWorks Japanを設立した。
MetricWorksは、従来のラストタッチ計測・MMM・検証機能を組み合わせたユニファイドな評価が可能なソリューションだ。デバイスIDに依存しない上、パフォーマンスマーケティングのニーズに対応。日次コホートMMMを提供できるプラットフォームなので、ユーザーのプライバシーやアトリビューションの課題を解決できるという。
最後に須藤氏は、アプリ広告がユ-ザーを増やすための理想的な姿を話し、同セッションを締めくくった。
「弊社では、直接送客効果の低いビュースルーコンバージョンを減らし、直接送客効果の高いクリックスルーコンバージョンを獲得できていることが、広告がユーザー増加に貢献できている状態であると考えています。ぜひ一緒にプロモーションの広告効果の最大化を目指していきましょう」(須藤氏)