「キャッシュバック」と言わずにキャッシュバックを訴求する三つの手法
多田:第1に、社会的意義を前提として訴求する方法です。
近年は様々な企業がSDGsへの取り組みに注力しているので、まずそこを先行してコミュニケーションを取ります。一例を挙げると、「使い終わった商品をリサイクルとして持ってきていただくとキャッシュバックする」といったやり方です。
多田:第2の手法は、返金用途を指定するというコミュニケーションです。
たとえば今のように、物価高で賃金の大幅な上昇も見込めないなかで「エアコンを購入すると電気代をキャッシュバック」という形で訴求する方法です。これは業界によっていろいろなやり方があります。旅行代理店が「このツアーに申し込むと、お土産代として◯◯円分をキャッシュバック」と言ってもいいですし、車を購入したら「カーアクセサリー代をキャッシュバック」、マンションなら「家具代をキャッシュバック」というように、様々なパターンが考えられます。
この訴求方法の良い点は、実際の使い道は自由でありながら、購入した後の体験を促せるところにあります。もちろんそれ以外の使い道でも良いのですが、旅行であれば「お土産をあの人に買おう」、カーアクセサリーや家具であれば「カーアクセサリーの代わりにドライブで遠出しよう」「家具はあるから新しいカーテンにしよう」といったように本来の体験価値とのシナジーが生まれやすくなるわけです。
━━キャッシュバック先行ではなく、提供するバリューを考えて訴求するわけですね。
多田:そうです。最後の第3の手法ですが、これは今までのアプローチとは逆で「ネガティブ要素を買い取る」というやり方です。
たとえばトレーニングジムなどヘルスケア事業で見られる「脂肪買い取りキャンペーン」が該当します。エクササイズに参加していただき、条件を満たせば現金やポイントがキャッシュバックされますが、キャッシュバックという言葉を出さずにアプローチできます。
キャンペーンからトップシェアに成長 SDGsの観点でスイッチ
━━そうした三つの手法で成果が出たキャンペーン施策の具体例と、実際に得られた効果について教えてください。
草刈:ある「身だしなみ系家電」のブランド様では、先述した第1の手法であるSDGsの趣旨に沿ったキャッシュバックキャンペーンを展開しました。「他社製の製品でも構わないので使い終わった製品を当社にリサイクルに出していただけたらキャッシュバックします」とアピールし、リチウム電池の外し方などを周知させながら買い取りキャンペーンを行いました。
応募アンケートを採ったところ、他社ブランドからそのブランド様へのスイッチが相当数あったことが可視化されました。他社製品も含めた回収スキームを取ったこと、環境配慮型の施策に共感して頂けたこと、そしてキャッシュバックという強力なドライブが相乗効果を生み、カテゴリー内で一躍トップシェアに躍り出たとのことです。受け取った使用済み製品のうち、プラ部分は破砕してプランターにリサイクルし保育園に寄付したそうですが、回収後の姿まで公開したことで、市場からも大きな反響がありました。
━━やはりSDGsを意識してキャンペーンをしたことが大きな成果につながったのでしょうか。
草刈:それは大きいと思います。2021年に実施したあるメーカーの調査によると「サステナビリティを商品プロモーションに取り入れているブランドは、そうでないブランドより30%速い成長が見込める」という結果が出ているようです。最近の調査では「サステナブルブランドの成長は50%速い」というデータもありますし、「3人に1人がサステナブルなブランドを選ぶ」「90%の人は環境に配慮した企業を好意的に捉えている」というデータがあります。
今回のブランド様は、ブランドのDNAとして「長く使えるものを提供したい」という理念があり、その理念とマッチしていたことも要因だと思います。
また、キャンペーンとしても常時展開しているものになっています。スタートしたのは2021年ですが、消耗部品の買い替え期に併せてキャッシュバックを受けながら新しく買い替えている方が多いようです。
━━まさにブランドストーリーとマッチしている施策だったこと、それが顧客に受け入れられていることがわかりますね。第2、第3の手法においてはいかがですか?