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販促の最強手段「キャッシュバック」へのネガティブを払拭 専門家が推す三つのプランニング術

 プレゼント応募やサンプル・景品付き商品など、商品購入の動機付けとなる販促戦略。なかでも、いわゆる「キャッシュバック施策」は消費者の関心を惹きやすく、高い効果が見込める手段の一つだ。だが、ブランドが訴求したいバリューやコミュニケーションにつながりにくいとの見方が企業の経営層やマネージャーにあり、実行に足踏みするケースは少なくないだろう。本稿では販促領域を手掛けて35年以上の実績を持ち、キャッシュバックに関して豊富な知見を持つスコープのお二人に、その具体的な戦略立案について取材。「社内のネガティブな意見をクリアし、インセンティブとしての強さも生かしながらブランドバリューも訴求できる展開手法」とは?

35年以上続く販促支援の道のり 現在に見る課題

━━スコープは創業が1989年と歴史があり、広告宣伝・販促に関する企画調査や施策を手掛けていると伺いました。企業の販促戦略、特に販売の現場を基点にした販促戦略の企画・実行に強みがあると思います。そうした販促活動において、特にマーケティング視点から見てどのような課題があるのか教えてください。

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株式会社スコープ デジタルテクノロジー事業本部 ウォレッチョ事業部 部長 草刈直弘氏
新卒で入社後、大手流通企業のチラシ販促や店頭販促、ネットスーパー事業を担当。その後外資系消費財メーカーの担当になり、キャッシュバック施策に携わる。郵便為替や現金郵送などアナログ業務の工数が多いキャッシュバックの課題に気づき、デジタルで送金できるサービス「ウォレッチョ」を立ち上げ。現在はデジタルテクノロジー事業本部ウォレッチョ事業部に所属し、サービス開発からマーケティング領域・営業領域に至るすべてを担当

草刈:販促施策の一つに、私がこれまで携わってきた「キャッシュバック」があります。文字通り、商品を購入いただくと現金が戻ってくるという施策で、注目度も成果も高い施策です。そのため売り場担当の方からも人気の高い施策なのですが、「キャッシュバック施策をやりたいけれど、社内でこの施策を了承してもらうためのプランニングを手伝って欲しい」とのご依頼が非常に多い。なぜなら、経営層やブランドマーケティングの方のなかには、「キャッシュバック」という直截的な表現を避けたい、使いたくないという方が多いんです

━━それはなぜなのでしょう?

草刈:「あからさますぎる(品がない)」という意見もありますが、それ以上にマーケターの方は「お客様にそれ以上のコミュニケーションやブランド価値を提供しにくい」というネガティブな印象をもっているように思います。とはいえ、実際に購入するお客様にとっては「これを買うと現金が戻るのか」と単純明快な言葉であり、成果を見てもそれほど悪い印象はないというのが本音です。

解消すべきはブランドコミュニケーションとの相違

多田:私が過去に関わったプレゼントキャンペーンにおいても、「現金・商品券プレゼント」と「品物プレゼント」の2択だとすると、前者のほうが圧倒的に応募が多いんです。企業の方も、販促キャンペーンの施策としてキャッシュバックは外せない施策であることを理解しています。

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株式会社スコープ データドリブンプロモーション事業本部 チーフマーケティングプランナー 多田みゆき氏
新卒で入社し、流通小売業のオムニチャネル事業のほか、店頭販促の業務に従事。その後、現在所属しているデータドリブンプロモーション事業本部の前身である企画部門に異動し、データやトレンド分析に基づいた販促企画を立案する業務を担当。1年間を52週に分け、1週間ごとの販促を企画する「52週販促」などのスキームを用いて多角的な施策展開をサポートする

多田:ただ、コミュニケーションとして「購入した、現金をキャッシュバックした」だけではブランドの価値やストーリーを伝えられません。たとえばアイスクリームのキャンペーンで、「暑い夏に、このアイスを購入した方に携帯扇風機をプレゼント!」という施策であれば、「お客様には暑い夏を快適に過ごしていただきたい、暑いなかで涼む楽しみを体験していただきたい」という思いを伝えられます。こうしてライフスタイルに合わせたもの、体験価値を向上させるものをプレゼントするほうが、ブランドストーリーとしてはきれいにまとまりますし、価値提案しやすくなります。

 キャッシュバックは非常に高い販促効果が見込めますし、メーカーであれば、キャッシュバック施策のなかで購入者のファーストパーティーデータを取得するというメリットもあります。ただ、あからさまに「キャッシュバック」と訴求するとそれだけで終わってしまいますし、これからも購入し続けるという動機付けにつながりません。そのサポートとして、当社にご相談いただくケースが増えているんです。

━━ブランドコミュニケーションの課題を克服し、効果的にキャッシュバック施策を展開するにはどういう戦略が必要なのでしょうか。

多田:ポイントは「キャッシュバックありき」ではなく、その後ろにあるバリューをいかにストーリー性をもって伝えていくかです。言い換えれば、インセンティブがキャッシュバックであっても、応募条件に採用されるアクションによってそれ以上の動機を提供でき、ブランドの価値を感じてもらえるということです。そこがコミュニケーションの肝になります。

 この戦略のもと、私たちは三つの手法を提案しています。

「キャッシュバック」と言わずにキャッシュバックを訴求する三つの手法

多田:第1に、社会的意義を前提として訴求する方法です。

 近年は様々な企業がSDGsへの取り組みに注力しているので、まずそこを先行してコミュニケーションを取ります。一例を挙げると、「使い終わった商品をリサイクルとして持ってきていただくとキャッシュバックする」といったやり方です。

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多田:第2の手法は、返金用途を指定するというコミュニケーションです。

 たとえば今のように、物価高で賃金の大幅な上昇も見込めないなかで「エアコンを購入すると電気代をキャッシュバック」という形で訴求する方法です。これは業界によっていろいろなやり方があります。旅行代理店が「このツアーに申し込むと、お土産代として◯◯円分をキャッシュバック」と言ってもいいですし、車を購入したら「カーアクセサリー代をキャッシュバック」、マンションなら「家具代をキャッシュバック」というように、様々なパターンが考えられます。

 この訴求方法の良い点は、実際の使い道は自由でありながら、購入した後の体験を促せるところにあります。もちろんそれ以外の使い道でも良いのですが、旅行であれば「お土産をあの人に買おう」、カーアクセサリーや家具であれば「カーアクセサリーの代わりにドライブで遠出しよう」「家具はあるから新しいカーテンにしよう」といったように本来の体験価値とのシナジーが生まれやすくなるわけです。

━━キャッシュバック先行ではなく、提供するバリューを考えて訴求するわけですね。

多田:そうです。最後の第3の手法ですが、これは今までのアプローチとは逆で「ネガティブ要素を買い取る」というやり方です。

 たとえばトレーニングジムなどヘルスケア事業で見られる「脂肪買い取りキャンペーン」が該当します。エクササイズに参加していただき、条件を満たせば現金やポイントがキャッシュバックされますが、キャッシュバックという言葉を出さずにアプローチできます。

キャンペーンからトップシェアに成長 SDGsの観点でスイッチ

━━そうした三つの手法で成果が出たキャンペーン施策の具体例と、実際に得られた効果について教えてください。

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草刈:ある「身だしなみ系家電」のブランド様では、先述した第1の手法であるSDGsの趣旨に沿ったキャッシュバックキャンペーンを展開しました。「他社製の製品でも構わないので使い終わった製品を当社にリサイクルに出していただけたらキャッシュバックします」とアピールし、リチウム電池の外し方などを周知させながら買い取りキャンペーンを行いました

 応募アンケートを採ったところ、他社ブランドからそのブランド様へのスイッチが相当数あったことが可視化されました。他社製品も含めた回収スキームを取ったこと、環境配慮型の施策に共感して頂けたこと、そしてキャッシュバックという強力なドライブが相乗効果を生み、カテゴリー内で一躍トップシェアに躍り出たとのことです。受け取った使用済み製品のうち、プラ部分は破砕してプランターにリサイクルし保育園に寄付したそうですが、回収後の姿まで公開したことで、市場からも大きな反響がありました。

━━やはりSDGsを意識してキャンペーンをしたことが大きな成果につながったのでしょうか。

草刈:それは大きいと思います。2021年に実施したあるメーカーの調査によると「サステナビリティを商品プロモーションに取り入れているブランドは、そうでないブランドより30%速い成長が見込める」という結果が出ているようです。最近の調査では「サステナブルブランドの成長は50%速い」というデータもありますし、「3人に1人がサステナブルなブランドを選ぶ」「90%の人は環境に配慮した企業を好意的に捉えている」というデータがあります。

 今回のブランド様は、ブランドのDNAとして「長く使えるものを提供したい」という理念があり、その理念とマッチしていたことも要因だと思います。

 また、キャンペーンとしても常時展開しているものになっています。スタートしたのは2021年ですが、消耗部品の買い替え期に併せてキャッシュバックを受けながら新しく買い替えている方が多いようです。

━━まさにブランドストーリーとマッチしている施策だったこと、それが顧客に受け入れられていることがわかりますね。第2、第3の手法においてはいかがですか?

「キャッシュバック」の前後にストーリーを紡いでいく

草刈:毎年春先に「新生活応援キャンペーン」という形で展開するケースも多いと思います。この場合は少し価格が高い家電製品がマッチしますし、春先はちょうど需要時期でもあるので親和性は高いですね。たとえば洗濯機を購入した時に「オフィスコーディネートのためのキャッシュバック」というアピールをすることで、「新生活をはじめ、清潔さのキープを大切にしたい人をサポートするブランド」とその後のライフスタイルまで掘り起こすことができます。

多田:やはり「製品を購入する」という1地点だけでなく、マーケターの方はその前後を見ながら「こういう体験をして欲しい」というストーリーを考えるのだと思います。キャッシュバックを使った販促に当たっては、販促とマーケティングに担当者やその組織が分かれる場合、両者が話し合い、どういう価値を見せていきたいか落としどころを見つけて融合させていくことが大切になると思います。

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販促のハードル解消でLTVの向上につなげていく

━━お話を伺うと、キャッシュバック施策を実施するには、根底の考え方を「販促」だけでなく「ブランドコミュニケーション」まで広げて企画することが大切であると思いました。これまでのお話を踏まえて、販促領域に関わる読者へのメッセージをお願いします。

草刈:キャッシュバック自体は珍しい施策ではないのですが、悩みを抱える企業は多数いらっしゃいます。なかでも大きな課題は、今お話ししたブランドコミュニケーションを踏まえた企画部分ですが、そのほかにも「景品表示法の問題はないのか」「キャッシュバックは経理処理上どうすれば良いのか」など様々なハードルがあります。

 「キャッシュバックの方法をどうするか」という点もあるでしょうし、実際の事務作業の担当に悩むケースもあるでしょう。加えて、実際に購入者の方にキャッシュバックする際には、企業側にもお客様にもそれなりの工数・コストがかかります。為替であれば受け取った購入者の方が現金化しなければなりませんし、郵便料金も値上がりしていますよね。お客様も「キャッシュバックは嬉しいけれど、いつキャッシュバックされるのかわからない」という思いがあるようです。

 スコープはそうした販促キャッシュバックにともなう様々な課題を解決できますし、プランニングから携わることで、社内調整から実行まで一貫してサポートできるという強みがあります。また、事務局を担当した経験も豊富なので、初めてキャッシュバックキャンペーンを実施する企業の方も安心してお任せいただけますし、参加ハードルを下げるためのシステム面もお手伝いできます。たとえば、当社が展開する『ウォレッチョ』は、企業側がURLをお客様に通知するだけで、お客様側で銀行口座振込やATMからの引き出し、各種電子マネーのウォレット残高へのチャージからお好きな受取り手段を選んで受け取れる送金サービスです。お客様が普段利用するサイフに入金されるため、顧客体験を損なわず、キャッシュバックのメリットを実感できる設計になっています。

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多田:改めて考えてみても、キャッシュバックの効果は絶大なので、この施策がなくなることはないと思います。しかし、より大切になるのは施策の実行ではありません。冒頭でもお話ししたように「一度の効果ではなく、途切れないように買い続けていただく」ということがより重視されるようになると思います。

 そのために必要なのは、「キャッシュバックをやる」というアピールではなく、施策の中で「どのような理念をもったブランドなのか」が伝わるコミュニケーションがあることです。生活者の方にどういう体験をしていただきたいのか、どういう価値を提供しているのか、そこをしっかり訴求して共感を獲得し、ロイヤルカスタマーになっていただく取り組みが必要になります。

 言い換えれば、販促中心に従事されてきた方にも、マーケターとして「販促でLTVをどう向上させていくか」という視点がより一層求められています。私たちスコープは、そんな思いを持つ企業の販促担当者の方をこれからもサポートしたいと考えています。

顧客体験に配慮したキャッシュバックを実現

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社スコープ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/08/01 11:00 https://markezine.jp/article/detail/46013