NRFの「Retail’s Big Show」、アジア初開催の背景
――今年6月、「NRF 2024: Retail’s Big Show Asia Pacific(以下、NRF APAC)」がシンガポールで開催されました。世界最大規模のリテールカンファレンスであるNRFのRetail’s Big Showがアジア圏で開催されたのは、これが初めてですよね。
逸見:はい。まず、NRFとは全米小売業界(National Retail Federation)」の略称です。NRFにはアメリカの小売業、EC事業者、支援業者の多くが加盟しており、世界最大の小売業界団体と言われています。
このNRFが主催するカンファレンスが「Retail’s Big Show」で、これまで毎年1月にニューヨークで開催されてきました。Retail’s Big Showでは、小売大手の経営陣による講演や、最新のテクノロジーが紹介される大規模な展示会などが行われます。そのRetail’s Big Showを初めてAPACで開催したのが、今回の「NRF APAC」です。
――今年、Retail’s Big ShowがAPACに持ち込まれた背景をどのように捉えていますか?
逸見:人口増加による市場拡大がやはり大きいと思います。高齢化を主な要因とし、先進国各国の実質成長率が下がる中、フィリピン、インドネシア、ベトナム、カンボジアなどでは人口が増加中です。これらの国は生産/消費人口の平均年齢が先進諸国に比べて若く、いわゆる“人口ボーナス”がまだまだある市場なんですね。今後、アジア圏の小売市場はどんどん成長・拡大していくでしょうし、世界を見てもこれだけの成長が見込まれるのは、アフリカかアジアくらいです。
NY開催との違いは? 市場ニーズの違いが明らかに
――NRF APACの内容や展示企業はどうでしたか? ニューヨーク開催のRetail’s Big Show(以下、NRF NY)とは、また違った雰囲気だったのでしょうか。
林:そうですね。世界中の、特にアメリカのリテール領域の最先端を走っている企業が講演をするのがNRF NY。一方、NRF APACはアジア勢の登壇企業が多く、必ずしも“最先端”ということに重きを置いているわけではないように見えました。
また、NRF APACのコンテンツは、明らかにEC領域が中心でしたね。たとえば、今回、スマートカートに関するソリューションの展示は1社だけでした。“リアル店舗のデジタル化”もホットなNRF NYだと、スマートカート関連の展示がかなりの数あります。対して、NRF APACは1社のみ。この違いは顕著で興味深かったです。EC市場では、スマートカートのニーズがありませんからね。
逸見:それくらい、APAC、特に東南アジアのEC化率が顕著ということですよね。TikTokやInstagramなどSNSで消費行動をするような世代が消費人口のメインであり、またビジネスを作っている世代でもあります。
私は、今回のNRF APACを振り返ると、全体的に“地に足の着いた”話が多かったなと思います。NRF NYでは最近あまり語られない在庫管理やストアオペレーションの改善の話、現場でのデータ活用の話などが多く、逆に生成AIに関する話はそこまで多くなかった印象でした。