本記事は『メールマーケティングの教科書 誰でも成果を生み出せるメルマガの定石』の「第2章 質の高いリストをつくるプロセス」から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
配信リストをどう手に入れるか
メールマーケティングで成果を出すために重要なのは、リストの量を闇雲に増やすことではありません。
態度変容を起こす可能性がある質の高いリストを整備し、そのリストに対して適切なタイミングでアプローチをすることが重要なのです。
メールマーケティングの指標である反応率や購読解除率は、「顧客の興味とメルマガのメッセージが一致しているかどうか」によって数値が大きく変わります。
顧客の興味・関心と配信元が出すメッセージの内容が一致しているほどに反応率は高くなり、反対にメッセージが一致していないと購読解除率は高くなるのです。
質の高いリストとは「態度変容を起こす可能性が高いリスト」だと述べましたが、別の言い方をするならば、質の高いリストとは「企業が発信するメッセージと顧客のニーズが一致している割合が高いリスト」のことなのです。
質の高いリストを作るためには、次の4つのプロセスを経る必要があります。
- 能動的な受諾を増やす
- 動的なセグメンテーション
- 日常的なメンテナンス
- リエンゲージメントで復活
質の高いリストを作り上げていくのに必要なこの4つのプロセスのうち、この記事では前の2つをそれぞれ解説します。
能動的に受諾する顧客を増やす
まずは1つ目のプロセスである「能動的な受諾を増やす」についてです。
メルマガを送信する際には、事前に受信者の「受諾(Opt-in:オプトイン)」が必要であることが、特定電子メール法によって定められています。「能動的な受諾を増やす」とは、この受諾を自分の意志により進んで行ってくれる顧客を増やすということです。
特定電子メール法はメルマガを送信する人は誰もが遵守しなければいけない法律です。
能動的な受諾は最終的に配信元の利益になる
事前に受諾を得ていない顧客に対してメルマガを送付することはでき ないため、受諾を得るために企業はさまざまな工夫をしています。例え ば、次のような経験をされた方は多いのではないでしょうか?
- オンラインでの商品購入や問い合わせの手続きの中で、いつの間にか「メルマガの送付許可」を行っていた
- オフラインの展示会やイベントでノベルティをもらうのと引き換えに名刺を渡したらいつの間にかメルマガに登録されていた
- 商談時に名刺交換をしたらメルマガに登録されていた
しかし、こうした「工夫」は良い工夫とは言えません。これらに共通するのは、顧客はメルマガが来るとは想定しておらず、残念ながら「“能動的に”受諾した」とは言えないことです。
一方で、多くの人には「メルマガは不要なもの・邪魔なものである」という意識がなんとなくあり、例えば問い合わせフォームに「メルマガを希望する/しない」という選択肢があった場合、「しない」に自然とチェックを入れてしまうのではないでしょうか。
つまり、「不要なメールが“来そう”なのでメルマガを受け取りたくない」という顧客と、「自分たちのメールは迷惑メールではないから、メルマガを“受け取ってから”要不要を判断してほしい」という配信元の間で綱引きが行われているのがいまの状況なのです。
たしかに、違法で無秩序な迷惑メールがメルマガ全体の評判を毀損してきた一面もありますが、顧客にとって不要なメールとは、何もこのような違法なメールに限りません。
企業が出す正規のメルマガであっても、顧客にとって有益な情報が記載されていなければ、それは不要なメールなのです。それでも、先に挙げたような、「まずは読んで判断してほしい」という配信元の考えに基づいた取り組みは違法ではありませんし、仕方のない側面もあるかとは思います。
とはいえ、本来は顧客にメルマガを能動的に受諾してもらうべきであり、まずはそれを達成するための工夫を考えるべきです。
繰り返しになりますが、メールマーケティングの目的は、メールを通して自社の製品やサービスに興味をもってくれる人を増やし、最終的に態度変容を起こしてもらうことです。
メルマガを能動的に受諾するということは、メルマガの登録時点ですでにあなたに興味をもってくれている状態であることを意味し、その後に態度変容を起こす可能性も高くなるのです。
つまり、能動的に受諾する顧客を増やすことは、会社の利益にも大きくつながっていくのです。
能動的な受諾を得るための3つの工夫
メルマガを能動的に受諾する顧客を増やすためには、次の3つの工夫が有効です。
- スムーズな登録導線
- コンテンツの事前明示
- 魅力的なオプトインオファー
Webサイトにスムーズな登録導線を整備しよう
1つ目の工夫が「スムーズな登録導線」です。
Webサイトを訪れる人は、「どんなプロダクトを扱っているのか調べたい」「費用感を知りたい」といったように何かしらの意図があります。
つまり、少なからず配信元に興味をもってくれている状態なので、そのタイミングで自然な形でメルマガへの登録を促すことはとても効果的です。
Webサイトへの訪問はしているけれども、まだ資料請求やサービスなどの会員登録をするほどの興味・関心度合いではない人たちに向け、まずはメルマガへの登録を提案するのです。
メルマガの登録率(オプトイン数 / Webサイト訪問者数 × 100)は、2%前後が平均的と言われています。
メルマガの登録導線については、図2-1のJ.Crewの例のように、Webサイトのフッターに登録用のフォームを常時表示するのがもっとも一般的です。また登録率を上げる手段としては、同図のマルニの例のように、ポップアップフォームも有効です。
ポップアップフォームとは、Webサイトを一定時間閲覧していることや、Webサイト内の特定の位置をクリックしたことをトリガーとして、Webサイトにメルマガの登録フォームを出現させることです。
Webサイトの上部や下部にメルマガの登録フォームへのリンクを設定するよりは、図のように登録フォームを露出させる方が登録率は高まります。
メルマガのコンテンツを事前に示そう
能動的な受諾を増やすための2つ目の工夫は、「コンテンツの事前明示」です。
「メルマガに登録してね」という提案を最適なタイミングで行っても、それだけでは顧客がメルマガに抱えているなんとなくの不信感を打ち消せません。ポップアップフォームの「バツ印」を押して閉じられてしまうだけです。
顧客の不信感を払拭するには、実際にどのようなメールが来るようになるかを事前に明示することが有効です。顧客に興味をもってもらい、登録を後押ししましょう。 「経理が知っておくべき法律を、毎週ご紹介します」とか「最新の世界経済の情勢を、専門家のコメントで解説します」といったようにメールの内容や配信頻度を説明しても良いですし、実際に配信したメールをサンプルとして提示しても良いでしょう。
魅力的な「オプトインオファー」を提案しよう
能動的な受諾を増やすための3つ目の工夫は、「魅力的なオプトインオファー」です。
オプトインオファーとは、メールアドレスを登録してもらうのと引き換えにインセンティブを提供することをいいます。
もっとも一般的なのは、登録と引き換えにホワイトペーパーを提供するというオファーです。ここでいうホワイトペーパーとは、業界動向や市場調査結果など、役に立つ情報をまとめた資料のことです。
インセンティブとしてはホワイトペーパーがよく使われますが、ほかにも会員限定の記事、クーポン、製品サンプル、ケーススタディ、動画、コミュニティへの招待など、さまざまなものが考えられます。
「スムーズな登録導線」「コンテンツの事前明示」「魅力的なオプトインオファー」の3つを工夫し、自社のメルマガを能動的に受諾する顧客を増やしましょう。
登録フォームの項目は顧客の興味・関心度合いに応じて調整
最後に、メールアドレスを取得する際の「登録フォームの項目」についてもお話しします。フォームの項目として何を採用するか、というのは悩ましいところです。
例えば、BtoB企業を想定すると、入力項目として「社名」「部署」「氏名」「電話番号」「メールアドレス」などを必須とし、その他に「導入を予定している時期」や「抱えている課題」などを任意項目としているものがあります。
その後の営業活動のことを考えると、なるべく多くの情報を集めたいという気持ちはよくわかります。
しかし、WACUL社による「B2Bサイトのフォームにおけるベストプラクティス研究」ではフォームの入力項目数と入力完了率には負の相関があることが判明しています。
つまり、入力項目数が多ければ多いほどフォームの入力完了率は下がっていくのです。一方で、入力項目を1項目減らすと入力完了率は約2pt向上することがわかっています。これは、項目が必須入力か任意なのかは関係ありません。項目の絶対数が影響します。
だからと言って、フォームの入力項目は少なければ少ないほど良い、というわけではありません。入力項目が多くなるにつれてフォームの入力完了率が下がるのは、入力する手間が自分の興味・関心度を上回っているからです。そのため、顧客の興味・関心度合いによって項目数を調整するのがベターです。
例えば、Webサイトを訪問しただけの段階で登録フォームを提示するなら、まずはメールアドレスだけを入力してもらうのがおすすめです。資料請求するほどのニーズに至っていない顧客にメルマガ登録を促しているのですから、スムーズに登録してもらうことを優先すべきでしょう。メールアドレス以外の情報については、顧客がその後に資料請求をするタイミングなどで改めて登録してもらえば良いのです。
一方で、なるべく興味・関心度合いが高い人だけを集めたいのであれば、入力してもらう項目をあえて増やせば良いということになります。こうすることで興味・関心度合いが低いのに、オプトインオファー欲しさに登録するようなケースも防げます。
また、すでに課題が顕在化している顧客は、入力項目がちょっと多いという理由でフォームの入力を途中でやめることはありません。試用申し込みや見積もり依頼など、興味・関心度合いが高い人を対象としたフォームは、その後の営業活動やメールのセグメント配信なども見越して、項目を設計しましょう。
実店舗の窓口など、顧客と対面して情報を入力するケースでは、離脱者はさらに少なくなります。
しかし、顧客台帳への登録をいまだに紙で行っている場合は要注意です。
メールアドレスには「l(エ)とI(アイ)と1(いち)」や、「O(オー)と0(ゼロ)」など、見分けが難しく混同しやすい文字がたくさんあります。メールアドレスを誤って登録してしまうと、貴重な顧客へのアプローチ手段を1つ失うことになります。
こうした誤りを防ぐために、顧客情報を入力する際はタブレットを使用したり、顧客のスマホでQRコードを読み込んでもらい、フォームや空メール送信へ誘導したり、可能な限り速やかにデジタルな手段に移行しましょう。
動的なセグメンテーションでリストの質を保つ
質の高いリストを作るためのプロセスの2つ目は、「動的なセグメンテーション」です。
配信元がもつリストには、興味・関心のカテゴリーや、製品に対するニーズの強さなどが異なるさまざまな状態の人が含まれています。それにもかかわらず、メルマガを配信する企業の多くは、そのリスト全体を対象にメールを一斉配信しています。
メールマーケティングの成果を最大化するには、リスト全体に最大公約数的なメッセージを出すよりも、リストを興味・関心などの条件で分けてそれぞれに刺さるメッセージを出す方が最終的な成果は大きくなります。
リストを興味・関心のカテゴリーや、これまでの行動履歴、居住地域や性別などといった特定の条件でグルーピングし、それぞれで効果が最大化するようにメッセージを出し分けることを「セグメント配信」と言います。
セグメント配信は成果最大化に必須
メールマーケティングで高い成果を挙げるなら、セグメント配信は必ず取り組むべきものです。
米国intuit社の調査によると、セグメント配信をした場合としていない場合とで比較すると、セグメント配信を行った方が開封率で14.3%高く、クリック率では100.95%高く、購読解除率では9.35%の減少が見られたとのことです。
また、セグメント配信をしないことで生じる不利益もあります。事例を通じてご説明します。
あなたが全国展開をしている不動産会社に勤めていて、全国のチェーン全体のメルマガを統括して運用する立場だとします。
ある日、東京23区近郊に、大規模な新興住宅地の開発が決まり、それに当たって現地見学会を行うことになりました。
会社から当日までに50組の集客を命じられたあなたは、まずはいつも通りメルマガを配信して集客することにしました。このとき、手持ちのリスト全体、つまり全国にいる顧客に対して一斉にメルマガを配信してはいけません。
東京23区近郊への集客が目的なのですから、まずは距離的に現地に来られるエリアの方を対象としてリストを絞り込む必要があります。そのことを提案すると、上司からこんな指摘を受けました。
「いやいや、今は距離的に現地に行けないエリアに住んでいても、もしかしたら将来現地の近くに引っ越すことを考えている人がいるかもしれない。そういう人も逃さないように、全体に配信した方がいいんじゃないか」しかし、この指摘は間違いです。
「令和2年国勢調査」によると、2020年10月1日時点の世帯数は5570.5万世帯で、そのうち1都3県(東京・埼玉・千葉・神奈川)の世帯数は約31%、1735.2万世帯でした。
仮に、あなたの勤め先が全国からひとしくリストを集めていたとすれば、リスト内の約70%は、現地見学会の対象外です。
たしかに70%のうち、将来的に引っ越しを考えているごく一部の顧客が反応するかもしれませんが、大多数のエリア外に住んでいる顧客にとっては自身と無関係な情報です。
また、当然ながら実際に行動に移す(今回のケースでは「見学会への申し込み」を行う)人はもっと少なくなるのです。
このメールを受け取ったエリア外の顧客がただ無反応なだけならまだしも、自身が対象ではないメールが続くと、不要な情報ばかり配信されると思い、最終的には購読を解除するかもしれません。
「配信リストの中に『クリックする人(潜在顧客)』 が少しでもいるなら、セグメント配信で少数に送るよりも、ターゲットを絞らずに一斉配信した方が成果は大きくなるのではないか」 これは、メールマーケティングを実施する上で多くの方が一度は悩むポイントですが、一斉配信が有利なのは、リスト全体で温度感や顧客属性が均一でそれ以上セグメントする必要がない場合だけです。
仮に顧客属性を無視して一斉配信をした場合、当然ながらターゲットを絞って配信をした場合と比較して、購読解除率は高くなります。
しかし、顧客が購読を解除した理由が自身に不要な情報だったためなのか、そもそもコンテンツそのものが悪かったためなのか、後から判断 するのは難しいです。
興味・関心が薄い相手にもメルマガを送り、たとえわずかであっても成果を得られればいいという考え方によって、逆に購読者を失っていることもあるのです。
このように、一斉配信では得られる利益よりも不利益の方が大きくなるため、セグメント配信を行うべきです。
コンバージョンまでの距離感でグルーピングする
さて、上司の指摘に対し、あなたは以上の内容を説明し、現在の居住エリアから現地に赴くことが可能な顧客に絞ってメールを配信することの許可を得ました。さっそく配信の準備に取り掛かります。
いえ、ちょっと待ってください。セグメントの条件は「居住エリア」だけで十分なのでしょうか? 顧客のニーズにはグラデーションが存在します。特に、不動産のような高額な商品は人生のうちで何度も購入するような商品ではありません。
「今はいらないけど、将来子供が生まれたときのために情報収集をしている」「貯金もできたのですぐにでも欲しい」「最近買ったばかりでもういらない」̶̶優先して集客すべきは当然、「すぐにでも欲しい」と考えている顧客です。
今回は特に、50組という定員が決まっているので、「購入」という態度変容を起こす可能性が高い顧客を、優先して案内します。「すぐにでも欲しい」顧客だけでは定員が埋まらなかった場合、徐々に条件を緩めて定員を埋めていくのです。
今回は定員という制限があり、態度変容を起こす可能性が高い顧客から枠を埋めていくためにセグメント配信を検討しましたが、仮に制限がなく「1人でも多く集客したい」という場合もセグメント配信は有効です。
なぜならば、ニーズの温度感が異なるということは、それぞれに刺さるメッセージも異なるということだからです。
例えば「すぐにマイホームが欲しい」顧客が知りたいのは「ローン実行までのスケジュール」とか「○○線沿いのタワーマンションの入居抽選」といった、かなり具体的な内容でしょう。一方、「将来的に考えている」顧客は「どれくらい頭金をためるべきなのか」とか「4人家族にはどれくらいの大きさの家が良いか」といった、もう少し抽象的なことが知りたいでしょう。それぞれのニーズに合わせてコンテンツを出し分けることが重要です。
リストをグルーピングする際にもっとも効果的なのは、コンバージョンまでの距離感で分ける方法です。以下の3つが主なセグメントとなります。
- 課題が明確で、他社と比較検討をしていて悩んでいる層(顕在層)
- 課題は曖昧だが、何とかしなければいけないと思っている層(準顕在層)
- 課題は不明瞭で、状況が変わるまで情報収集を続ける層(潜在層)
ところで、セグメント配信を行うためには、管理しているCRMや顧客データベースにグルーピングするための項目が存在する必要があります。顧客情報としてエリアを取得していないのであれば、エリアで分けることはできません。コンバージョンまでの距離感についても同様です。メルマガの登録フォームでどのような項目を取得するかは、その後の施策にも影響します。
コンバージョンまでの距離感を探る方法
多くの企業では、顧客情報の取得時に検討度合い(もしくは検討時期)を尋ねているかと思いますが、仮にそのような情報を得ていない状態でコンバージョンまでの距離感を探る場合、いくつかの方法があります。
1つは「リストに登録された時期」でグルーピングする方法です。最近リストに登録されたのか、それとも5年前に登録されたのか、それぞれ顧客の状況は大きく異なります。リストに登録されたのが新しければ新しいほど、コンバージョンに近いと判断します。
ほかにも、「リストに登録されたチャネル」でグルーピングする方法もあります。
例えば、住宅展示場に来場して登録したのか、ショッピングモールでのイベント時にたまたま通りすがり、そこで登録したのかでも温度感は異なります。
どのチャネルで登録した顧客が一番態度変容を起こす可能性が高い(=コンバージョンに近い)かは、営業担当にヒアリングすればすぐに判明するでしょう。
どうしてもセグメンテーションする条件が見つからないのであれば、まずはグルーピングを諦め、リスト全体にメルマガを配信します。配信したメールを開封した、もしくはクリックした、といった反応の度合いでグルーピングしましょう。
この際は「メールを開封した」顧客よりも、よりコンバージョンに近い「コンテンツ内のURLをクリックした」顧客を優先度の高いグループとします。
開封については、必ずしも正確な指標ではありません。また、ほかのメールを開いた流れで開封しただけかもしれず、開封したからといって興味があるとは限りません。
一方でクリックについては、開封した上でコンテンツ内のリンクをクリックしたという、より能動的なアクションであるため、興味・関心度合いを測る指標としては開封より信頼が置けます。
どれだけセグメントを増やすかはリソースに応じて
セグメントを細かく分ければ分けるほど成果につながりやすくなりますが、一方でそのリストを管理する手間、コンテンツを作成する手間も比例して増加します。
いくらコンテンツ作成が省力化できたとしても、私の経験では担当者1人につき2~3のセグメントに分けて運用していくのが限界です。これ以上に分けるのであれば、それに比例して人員も増加させる必要があります。
セグメンテーションのグループ数については、社内のリソースに応じて設定するようにしましょう。
動的なセグメンテーションで顧客との接点を維持する
セグメント配信は、手持ちのリストをグルーピングしたらそれで終わりではありません。グルーピング後も、顧客の変化に合わせてリストの入れ替えを動的に行う必要があります。
例えば、自動車販売店がセグメント配信に取り組む場合を考えてみましょう。
Aさんは就職に伴い、最近発売されたばかりの若者に人気のスポーツカーを購入しようと近所の自動車販売店を訪ねました。
営業担当は親身にAさんの相談に乗ってくれましたが、その車種は別メーカーとの共同開発であったため、仕様が異なる別メーカーの車種も見に行ってから決断をしようと、その日は顧客登録だけして帰りました。
このAさんは「目的(スポーツカー)」も「意欲(すぐに欲しい)」も明確ですので、該当車種の細かな仕様であったり、お得なオプションのキャンペーンであったりと、Aさんのニーズに合致したコンテンツのメルマガを出すべきだということはおわかりになるかと思います。
その後、しばらくして営業担当がAさんに連絡したところ、残念ながらAさんは共同開発先の車を購入したことが判明しました。さて、この自動車販売店は今後Aさんに対するメルマガをどうすべきでしょうか。
一番ダメなケースは、「そのまま同じ内容で出し続ける」です。これは店舗側の顧客データと、メルマガの配信リストとなる本部の顧客データベースが連携されていない場合に起こりがちな事象です。
すでに他社の車を買ったAさんが、メルマガによって改めて態度を変更し、買ったばかりの車を売却して自社の車を買い直す、ということはまず起こらないでしょう。
それよりも、「もう買ったので同じような情報は不要である」と判断され、購読解除される方が自然です。
購読を解除されてしまったら、特定電子メール法上、Aさんが再度メルマガに申し込みをしてくれない限り、もう二度とメールを送ることはできなくなってしまいます。そこで販売店とAさんとの関係性も終わってしまうのです。
では、「販売店側で一時的に配信停止」するというケースはどうでしょうか。Aさんが次に車を買い替えるタイミングが来るまで、メルマガを一時的に配信停止するのです。
この場合、たしかにAさんから購読解除されることはなくなるため、いつでもメルマガを再開することができます。
しかし、再開するスケジュールがきちんとプランニングされていないと、結局Aさんにはいつまでもメールが送られず、ここでも販売店とAさんとの関係性は絶たれてしまいます。そして、往々にしてこの再開プランはいつまでたっても実行されません。
一番良い選択は、「セグメント配信のグループを変更して接点を維持する」ことです。
高価な買い物をしたAさんが次に車を購入するのは早くとも数年後でしょう。そのタイミングではAさんのライフスタイルにも変化があり、今度は自社の人気商品である「ミニバン」への買い替えを検討するかもしれません。
その機会まで緩く関係性を維持するためにも、メルマガのグループを「課題が明確で、他社と比較検討をしていて悩んでいる層(顕在層)」から「課題は不明瞭で、状況が変わるまで情報収集を続ける層(潜在層)」へと変更した上で接点を保つことが重要なのです。
新車を購入したAさんは、車で行ける絶景スポットやドライブデートにおすすめのレストランなどを案内する「潜在層」グループへ変更し、引き続きメルマガを通じて関係性を維持しましょう。
車のように、高単価ではあるけれども定期的に買い替えが生じる商材は、仮に一度失注したとしても顧客との接点を維持できていれば再度チャンスが訪れます。
同じようにBtoBの商材については、仮に今回のタイミングでは失注したとしても、顧客が導入した競合のツールの使い勝手が思っていたよりも悪いとか、組織体制に変更があって予算が増額されたといった理由で、再度検討の俎上に載せられることは頻繁に起こります。
基本的に営業担当は短期の売上目標を追うミッションを持っているため、長期にわたって失注顧客のフォローを行うインセンティブはあまり働きません。
このような案件は、理想的にはマーケティング部門でフォローを行い、顧客の状況が何かしら変化したことをキャッチしたタイミングで営業部門につなぐようにします。
メールの配信結果をもとに顧客の状況を察知する
顧客の状況に基づいたセグメントの移動は、顧客データベースや営業担当と連携して自動で処理されるのが理想的ですが、そこまでのコストがかけられない場合は、メールの配信で得られる指標をもとにセグメントを振り分けることもできます。
この場合、顧客の反応の基準とするのは「一定期間内のクリック数」が妥当です。
「『潜在層』のうち、過去5回のメールで3回以上クリックしている顧客を抽出し、『顕在層』に移動する」といった取り決めを行い、運用していく中で基準の見直しを行っていきます。
そのような、メールに対する反応に基づいたセグメント間の移動を表したのが以下の図です。図中の「リエンゲージメントグループ」は、反応が薄い・無反応な顧客を通常のリストとは別に管理し、購読解除に至らないような施策を打つための特別なグループです。
各セグメントのうち永続的なエラー(Hard Bounce)が出たものはリストから除外するようにします。
ところで、リエンゲージメントグループには「準顕在層」と「潜在層」の顧客しか移動していないことを疑問に思うかもしれません。「顕在層」にいる顧客の反応が途絶えたときは、他社のサービスを導入したとか、予算の策定タイミングを過ぎてしまったといった、何かしらの動きがあった結果であることが多いです。
こうした場合、「導入したサービスがあまりうまく機能していない」とか「下期に再度上申する」といった理由で再度チャンスが訪れる可能性が高いため、リエンゲージメントグループに隔離してしまうのではなくアプローチの角度を変えて接点を維持することが有効なのです。
顕在層の顧客には営業からのアプローチも
「顕在層」の顧客は、もっとも態度変容を起こす可能性が高いグループです。こうした顧客が、より購買に近いフェーズのコンテンツである「セールス型のコンテンツ」に反応したタイミングを見逃さないようにしましょう。
セールス型のコンテンツ内のクリックを起点としてシナリオメールを走らせたり、郵送DMなどメール以外のアプローチを行うことも効果的ですが、セールス型のコンテンツに複数回反応している顧客に対しては、営業担当より直接架電を行って状況を把握するようにしましょう。
デジタル上のアクションデータから仮説を立てることはできますが、本当のところを知るには実際にヒアリングを行うのが一番確実で素早いのです。
態度変容を起こそうとしているタイミングを逃さないためにも、迅速に営業担当から連絡を行うようにしましょう。
BtoBのリストは「誰に送るか」と「どのような状態か」を重視
ここまで、セグメント配信について業種を問わずに解説しましたが、ここからはBtoB の場合とBtoCの場合、それぞれのポイントをご紹介します。
BtoB企業がリストを整備する際に重視すべきは、伝えている相手が「誰」であり、いまは「どのような状態」であるかということです。
例えば、問い合わせをした人が実務の担当者なのか、もしくは決裁者なのかによって、顧客の知りたい情報は異なってきます。
実務の担当者には、製品を導入するにあたって必要な準備や体制などより具体的な情報が好まれ、決裁者には製品の導入による費用対効果や他社の導入事例など、より大所高所から見た情報が好まれます。
小規模企業向けの製品を提供している場合や導入単価が低い製品ならば、実務担当者と決裁者がイコールなこともあると思います。しかし、大企業向けの高単価な製品を提供している場合、実務担当者と決裁者は別であることがほとんどです。
企業の場合、DMU(Decision Making Unit:意思決定関与者)は複数存在するのが常であり、その分類も実務担当者と決裁者の2種類とは限りませんが、少なくともどのような立場の人なのかは把握しておく必要があります。入力フォームの項目は多くするほど入力完了率は減少します。
リストを多く集めたいということであればなるべく入力項目は少なくした方がよいのですが、リストの数より営業効率を高めたいという場合は、入力項目に「役職」を追加して、どのような立場の人なのか知ることを優先するのも1つの手です。
なお、資料請求などに対して即座に営業担当によるコールバックを行う体制ができているのであれば、フォームの入力項目自体は少なくしておいて、獲得リスト数を最大化することが可能です。この場合、役職などの付帯情報についてはコールバック時に獲得するようにしましょう。「相手が誰か」を知ることができたら、次は「どのような状態」であるかです。
実務担当者と決裁者で知りたい情報が異なるように、具体的に導入を検討しているニーズの温度感が高い層と、まだ情報収集段階でニーズの温度感が低い層とでは必要としている情報は異なります。
繰り返しになりますが、横着してリストをひとまとめにするのではなく、きっちりとニーズに応じてグループを分けてセグメント配信を行うことで成果の最大化を狙います。
新規の顧客の場合は、フォームの入力項目や営業担当によるヒアリングを通してどのような状態なのかを把握することができます。
展示会やセミナーなど、顧客が多くヒアリングの時間を十分に取れないのであれば、アンケートに回答してもらうようにしましょう。
過去に失注した顧客については、継続的にアプローチをとっておくことで顧客の状況の変化を知るようにします。とはいえ、営業担当が常に 張り付いている必要はなく、これこそメールを使うべきところです。
先述したように、失注顧客にもメルマガで接点を持ち続け、そのメールへの反応をもって顧客の状況の変化を知るのです。
ここまでの話を踏まえると、「誰」が最低2種類、「どのような状況」が3種類(顕在層・準顕在層・潜在層)なので、6種類(2×3)のグループが出来上がりますが、そのすべてに対しメールを出し分けるのは、現実的ではありません。
6種類を、もっとも注力するグループ、次に注力するグループ、その他といったように3つのグループにまとめてのセグメント配信が現実的であり、十分でしょう。
BtoCのリストは「顧客の属性」を重視
BtoC企業の場合は、RFM分析などの顧客分析手法がグルーピングの参考になります。
RFM分析とは「Recency(最後に購入した日)」、「Frequency(購入の頻度)」、「Monetary(購入金額)」の頭文字をとったもので、それらに基づいて分析する手法です。
「Recency」では、顧客が最後に購入した日を分析の軸とします。数年前が最後の顧客よりも、直近で購入してくれた顧客の方が再購入してくれる可能性は高くなります。
「Frequency」では、顧客の購入頻度を分析の軸とします。1年間で1回しか購入しなかった顧客よりも、毎月購入してくれる顧客の方が優良顧客であると判断できます。
「Monetary」では、顧客がお店に対して支払った金額を分析の軸とし、金額が大きいほど良いお客さんと判断できます。
この3つの軸の掛け算で顧客を分類し、優先すべき顧客を考えたり、アプローチ方法を変えたりするのですが、当然ながらメールマーケティングでも利用できます。
例えば、購入頻度をもとにいつも日常的に買い物してくれる顧客や、以前は頻繁に買い物してくれていたのに最近は途絶えている顧客などでグルーピングをし、グループごとにメールを出し分けることでより高い成果を得られます。
取扱商品の単価が比較的安く、購入頻度が高い商材を扱っているBtoC企業においては、BtoB企業のように顧客の温度感によるセグメントはそれほど必要ありません。
また、メルマガの購読者が購買の意思決定をする人でもあるので、立場で分類する必要もありません。
一方で、居住地域や性別、嗜好といった顧客の属性に応じたセグメント配信は絶対に行わなければなりません。RFM分析もその1つです。以下に代表的な分類手段を挙げておきます。
顧客の属性を無視した配信は購読解除が増える原因となりますので、きちんとセグメントを分けて配信するようにしましょう。
顧客のグループを動的に変更することは、こだわればこだわるほど成果が大きくなることが期待できますが、あまりに複雑な設定はメルマガの担当者が疲弊する原因にもなるので要注意です。
CRMやSFAなどの情報と連動してグルーピングを動的に変更するのはMAツールが得意とするところですが、もし手動で行うのであれば、セグメント配信と同様、社内のリソースを鑑みて現実的なラインで設計する必要があります。
多くても3カ月に1回、現実的には半年に1回程度の見直しで大丈夫でしょう。
「日常的なメンテナンス」と「リエンゲージメントで復活」は書籍で詳細に解説
以上、この記事では質の高いリストを作るための4つのプロセスのうち、2つを紹介しました。
- 能動的な受諾を増やす【紹介済】
- 動的なセグメンテーション【紹介済】
- 日常的なメンテナンス
- リエンゲージメントで復活
残りの「日常的なメンテナンス」と「リエンゲージメントで復活」は、本書『メールマーケティングの教科書』で詳しく解説しています。
また、どういうコンテンツを作ればいいのか、いつ配信するのがいいのかについても知りたい方は、ぜひ本書をチェックしてみてください。