ポイント⑤フリクションレスは前提に、ブランドの世界観を表現する体験設計
ショッピングシーンにおける利便のテクノロジー(例:タッチ決済など)は民主化され、当たり前になりつつある。便利で使いやすいことが加点ポイントではなく、そうでないことが減点ポイントになると言ってもよいだろう。利便性での差別化が難しいからこそ、サービス・ブランドの世界観を伝えることがさらに重要視される。

3階建てのショップハウスをピンク色に染めてリノベーションした「Coach Play Singapore Shophouse」は、1階に新ブランドのコーチトピアとカフェ、2階にコーチの最新作とヴィンテージコレクション、3階にはイベントスペースなどが備わり、コーチの世界観を魅力がギュッと詰まった空間である。そこでは自分だけのオリジナルグッズを手に入れられたり、コーチのサステナビリティへの姿勢を知ることができたりする。
目的達成のためのショッピング体験だけでなく、ブランドの世界観を伝える場所を設けることで、オンラインショッピングやその他の店舗での収益にも相乗効果があるという。
急がば回れ、魔法の杖は存在しない
テクノロジーの導入で一点突破できるほど、市場は甘くない。ブランドの提供価値を確立し、マーケットの中でのポジションを明確にした上で、まずは組織に焦点を当てる。価値を提供するために必要な「管理体制」や「評価」それらのルールによって「組織文化」を耕す。その上で、自社の顧客、そして顧客と最前線で相対するスタッフの理想の体験を定義する。理想の体験を実現するためのテクノロジーやサービスをブランドは選び、組み合わせ、ときにはわざと制限を設けて、創造的なサービスストラクチャーを作っていく。
一見“近道”とは思えないステップのようにも思えるが、ブランドの意志なくしては、サービスを十分に機能させることは難しい。1つずつ積み上げていくこの方法こそが成功するための秘訣なのではないだろうか。