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「スタサプENGLISH」のCM開発に学ぶ!調査ドリブンと面白さを両立したクリエイティブを導くマーケターになるには

マーケター自ら手を動かすべし!「スタサプENGLISH」のCMを生んだ、実放映までの5ステップを解説

 認知拡大やブランディングに大きな効果を発揮するテレビCM。しかし様々なハードル・進行上の課題に悩むマーケターや、コストの高さなどの理由でCM施策に踏み切れない企業も少なくない。本連載では、リクルートのオンライン学習アプリ「スタディサプリENGLISH」のCM開発に携わってきた奥田氏が、施策フェーズごとのポイントや、調査ドリブンと“データを超えた面白さ”を両立するクリエイティブ作りに必要な思考を解説。第2回では、事前設計から実放映に至るまでの5つのステップを解説していく。

事前設計ではマーケター自らが「字コンテ」を書くべし

MarkeZine編集部(以下、MZ):本連載では、リクルートの英語学習アプリ「スタディサプリENGLISH(以下、スタサプENGLISH)」の約30本のCM制作を手掛けられた奥田さんに、視聴者の印象に残るCM施策の進め方について知見を伺っていきます。前回の連載第1回では、調査ドリブンなCM開発においてマーケターが持つべき考え方を中心に伺いました。今回は、実際のCM製作の5つのステップでやるべきことについて聞いていきたいと思います。

STEP.0:事前設計
STEP.1:訴求調査
STEP.2:ビデオコンテ(Vコン)調査
STEP.3:プレ調査
STEP.4:実放映

奥田:まずSTEP.0の事前設計の段階では、3C分析から事業戦略・プロモーション戦略・CM仮説(CMによって何を実現したいのか)まで一気通貫に設計をします。前回、ターゲットユーザーの「想起の競合」となる他のCMを学習するとお話ししましたが、学ぶだけでなく、マーケターもCM仮説を立てる際に字コンテを最初に書き起こしてみることが大切です。これにより、事業課題から、なぜその訴求をすべきなのか・なぜその演出をすべきなのかがすべてつながります。

 仮説が定まれば、あとはその仮説の「検証設計」を行っていきます。検証設計は理想的なユースケースの特定と、それを指標化することで良し悪しの判断をできるようにしていきます。多くのWebサービスの場合、理想的な視聴者の反応は「CMを見て指名検索し、Webサイト登録をしてお申し込みいただく」となります。これを結果指標で捉えるとコンバージョン数になりますが、中間指標として事前検証できる指標を設定しておくことが重要です。

MZ:具体的には、どうするのですか?

奥田:実際に調査としてインタビューを行う際、第1回でお話ししたように有償での利用意向について「もし月額2,980円の『スタサプENGLISH』という商品があったら、実際に使ってみたいと思いますか?」のように尋ねてみます。これによって、売り上げやコンバージョンを「有償利用意向」という形に変え、検証の回転数を上げていきます。

 CM施策のPDCAは一回のサイクルが非常に大きくなることが特徴のため、サイクル自体を高速化する仕組みを事前設計の段階で組んでしまうわけですね。

実放映までに必要な、3段階の調査とは

MZ:次は、STEP.1からの調査に入るのですね。

奥田:ここからは、事前設計で決めた「有償利用意向」をどう検討していくのかを考える段階です。私たちは、STEP.1の「訴求調査」、STEP.2の「ビデオコンテ(Vコン)調査」、STEP.3の「プレ調査」という3段階に分けています。

 放映3~4ヵ月前の「訴求調査」では、まずマーケター自身がコンセプトボードを作ります。そして、コンセプトボードを見た人がどう反応するかの調査を済ませておきます。

 CMは、制作過程で様々な立場の人からご意見をいただくもの。それらの観点をコンセプトボードに取り入れることで、ステークホルダー全員が大きなチームとして学習できるメリットがあります。その後に定性調査および定量調査をかけることで、顧客の反応がファクトとして現れてきます。そうやって生まれた統一的な視点を評価軸として定めます。

 CMを作るにあたり着想の類型は色々ありますが、顧客起点で考えるなら、やはり課題や重視する属性に注目すべきではないでしょうか。顧客にとって英語学習の課題が「続けられない」のであれば「一回3分で続けやすい」ことを訴求すべきですし、重視することが「スコアアップ」であれば、それを具体的な訴求に落とし込む必要があります。

奥田:また「業界セオリー」を盛り込むことや、自社起点のユニークポイントを入れられるといいと思います。私たちはCMの合意形成先となる社内の関係者からも具体的なコンセプト仮説をもらって、10枚ぐらいのコンセプトボードにまとめ、調査にかけています。一般的にCMにおける議論はクリエイティブという特性上、感覚のぶつけ合いになりやすいですが、具体的な顧客の定性での反応や定量結果がファクトとして出てくることで関係者も納得できます。

 そうすれば、意見が割れやすいCM制作の社内合意形成もスムーズに行いやすくなります。だからこそ、早い段階ですべてのステークホルダーを巻き込んでおくことが大事です。このコンセプトボード調査によってCMで「何を伝えるべきか=What to say」が見えてきます。

チームでオリエンを問い直す

MZ:オリエンテーションはどのタイミングでされていますか。

奥田:ここまでがSTEP.1の「訴求調査」であり、次の「Vコン調査」前に、「Vコン制作」「CMの本制作」という2点について制作チームとのオリエンテーションを行っています。この段階でも、マーケターとして「CMで何をしたいのか」という仮説を持ち、字コンテレベルで内容を考えておくといいと思います。

 次に、そのCM仮説を導出するには、どんなオリエンをすればいいのかをバックキャストして、「問い」に直します。抽象的に考えた「問い」も重要ですが、合わせて具体的な「仮説」に落としてから「問い」に戻すことで、よりシャープなお題に進化させることができます。

 ここで大事なのは、常に「問い」と「仮説」を同時に考えながら設計することです。通例、オリエンは制作チームに「問い」をお渡しして終わりだと思いますが、私たちは「問い」と「仮説」を最初のオリエン時点から議論し進行しています。そうすることで認識を揃える地点を増やすと同時に、各プロフェッショナルのスキルを最大限に生かせるようになります。

 時には、オリエン内容自体を制作チームと一緒に問い直すこともあります。企画・制作のプロの視点からすると、考えるにあたりもっと適切な「問い」があるかもしれません。マーケターのオリエンはそもそも万能ではありません。

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この記事の著者

三ツ石 健太郎(ミツイシ ケンタロウ)

早稲田大学政治経済学部を2000年に卒業。印刷会社の営業、世界一周の放浪、編集プロダクション勤務などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。マーケティング・広告・宣伝・販促の専門誌を中心に数多くの執筆をおこなう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/10/31 08:00 https://markezine.jp/article/detail/46357

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