Googleのミッションの不完全性
Googleの元CEOエリック・シュミットは『How Google Works』で次のように書いている。
「私たちは大きな問題というのは、たいてい情報の問題であると見ている。つまり十分なデータとそれを処理する能力さえあれば、こんにち人類が直面するたいていの難題の解決策は見つかると考えているのだ。コンピュータは人間の(全人類の)命令により、その生活をより良く、便利にするために使われるだろう。シリコンバレーの人間である私たちがこんなお気楽な未来観を語れば、相当な批判を受けるのは覚悟している。」(出典:『How Google Works(日本経済新聞出版)』エリック・シュミット, ジョナサン・ローゼンバーグ, 等著)
Googleという会社は、楽観的だ。情報さえあれば、たいていの難題は解決すると考えている。もちろん、「こんなお気楽な未来観を語れば、相当な批判を受ける」と覚悟している。自覚はしている。この本は、とても良い本だと思うのだが、情報やコンテンツ作成のコストについて、どのようにカバーしていくか。あるいは、情報やコンテンツ制作のプロに対して、利益をどのようにシェアするのか? そのような観点への配慮がもう少しあったらよかった。情報やデータは、タダではないということだ。
そして、その情報やデータの権利に十分に配慮してこなかったことで、人類が直面する難題をGoogle自らが増やしている。解決策を見つける前に、Googleのミッションの不完全性が、3つの権利侵害、すなわち難題を増やしているわけだ。すべてはデータの権利に収斂する。Googleのミッションの忘れ物みたいな話だ。つまり、もはや、このミッションは時代遅れになったのだ。
「情報を生み出すのはコストがかかるが、それを再利用するコストはきわめて低い。だから、あなたが問題の解決に役立つ情報を生み出し、それを共有するためのプラットフォームに載せれば(あるいはそうしたプラットフォームの構築を支援すれば)、他の多くの人々がその貴重な情報を低コスト、あるいはコストゼロで利用できるようになる」(出典:『How Google Works(日本経済新聞出版)』エリック・シュミット, ジョナサン・ローゼンバーグ, 等著)
情報を生み出すのはコストがかかる。だから、新聞社などメディア企業が自分たちの記事コンテンツを勝手に使われたら、権利侵害だと怒るのだ。新聞社には制作コストがかかっている。当然のことだ。そこまで、想像力を働かせる必要がある。その上で、「その貴重な情報を低コスト、あるいはコストゼロで利用できるように」するべきだ。
もちろん、過去のGoogleがやってきたことは素晴らしい。Googleのビジネスは世界の役に立ってきた。だが、過去にしがみつくのは終わりにするべきだ。だからこそ、もう少しイマジネーション、想像力を働かせて、情報・データの権利者への配慮をし、折り合いをつける必要がある。
Googleへの批判を聞いていて、私が感じるところだ。まず過去の栄光にすがるのは、もうやめよう。生成AIの誕生で検索エンジンは過去のテクノロジーになった。3rd Party Cookieをハックして個人情報を取得するのも過去の手法だ。そうではなくて、もっともっと、できるはずなのだ。未来に向かって、より良い世界を創るために。もっと本当に人々の役に立つ企業になるのだ。新聞社などメディア企業の人々からも喜ばれる会社になれるはずだ。プライバシー保護団体からも喜ばれる会社になれるはずなのだ。データ権から逃げていたら、Googleのミッションは達成できない。ここに逃げ場はない。頑張って欲しい。
Googleには優秀な社員が多いはずだ。偏差値が高いだけではビジネスでは通用しない。IQが高いだけでは社会人としてはダメだ。IQも高くて、そして、EQも高くなければ、AIの時代には、通用しない。我々、IT業界は、もっとよく考えるべきだ。コンピュータで処理できる「0」「1」の発想では解決できないことの方が多い。人間の感情は、「0」「1」ですべて表現できない。そこに、配慮するべきだ。そこに、創造力を働かせるときなのだ。もっと頭を使うのだ。
アインシュタインは次のように述べている。「想像力は、知識より大切だ。知識には限界がある。想像力は、世界を包み込む」(参照)。AI時代に突入した今こそ、想像力で世界を包み込んで欲しいのだ。そうすれば、Googleのビジネスは、もっともっと、飛躍するだろう。そして、もっともっと、社会から信頼される、ホンモノの会社になって欲しい。いまのままでは、過去の栄光と遺産にしがみつく、時代遅れの会社にみえてしまう。頑張って欲しい。
