アサヒゼロのヒットから得た商品開発のヒント
廣澤:最初に西村さんのこれまでの経歴と担当してきた商品について教えてください。
西村:2001年にアサヒビールに新卒で入社し、東京と香川で飲食店向けの営業を6年経験し、2007年にマーケティング本部に異動しました。2012年にはドライゼロの開発を担当し、2013年からは国際部(当時)でアサヒスーパードライのブランドマネージャーを8年担当し、2020年9月から新ブランド開発部で新ブランドの開発に関わるようになりました。
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廣澤:飲食店向けの営業を6年経て、マーケティング部門に入られたのはご自身の希望ですか。
西村:そうですね。香川で営業をしている中で、営業の楽しさは感じていたのですが、このままでは自分の成長が止まってしまうのではないかという危機感がありました。そのため、自身の成長につながりそうな仕事としてマーケティング職に希望を出し、異動しました。
廣澤:2007年にマーケティング部門に異動して以降はどのようなブランドを担当したのですか。
西村:カクテルパートナーを2年間担当し、その後ビール類のブランドを担当しました。なかなか売れずに苦労したブランドもありましたが、2013年にドライゼロをリリースし、そのヒットをきっかけに商品開発のヒントをつかみました。
廣澤:ドライゼロがヒットした要因はなんだったのでしょうか。
西村:ドライゼロはノンアルコールビールの中でも後発の商品でした。しかし、私は後発でも巻き返せるチャンスがあると思い、定量・定性調査を徹底的に行ってノンアルコールビールに対するニーズを探りました。その結果見えてきたのが「シンプルにビールに近い商品が飲みたい」というニーズです。
そしてドライゼロは、アサヒスーパードライに近いパッケージかつ味も酷似させることで、ビールに近いノンアルコールビールとして飲んでいただくことを目指しました。ビールの代替消費の第一想起になれたことが成功につながったのです。
当時は他社のノンアルコールビールが新しい飲用シーンを提案していたので、社内から「ビールの代替消費というありがちなニーズに答えるだけで大丈夫か」と疑問の声も上がりました。それでも、ニーズのど真ん中を捉えた商品を提案することが大事であることが、アサヒゼロのヒットを通じて学べました。
廣澤:社内から疑問の声が上がったとのことですが、そのような疑問や反対意見をどう乗り越え、提案を通してきたのでしょうか。
西村:他社とのポジショニング比較や定性・定量調査、データを踏まえ、「ビールに近いノンアルコールビール」というポジションが実は空いていることをきちんと伝えたことですね。
マーケターをしていると、思考を巡らせすぎた結果本質を突き詰められないケースがあります。そうならぬよう、徹底したリサーチで本質となるニーズを見つけ、その結果が当然のものであってもそれに答えるのが重要だと思います。
愚直なリサーチにこそ、アイデアの答えがある
廣澤:2007年から商品開発に携わり、海外のマーケティングも担当してきた西村さんですが、新しい商品やコンセプトを考える際に大事にしていることはなんでしょうか。
西村:お客様のニーズにズバッと答えることですね。先ほどお伝えしたように、思考を巡らせ、こねくり回したアイデアは大概上手くいきません。会社の都合で戦略を立て、そこまでチャンスの大きくない市場をブルーオーシャンであるかのように見える提案をしているのです。
ヒット商品の多くは「当然これをやれば売れる」ということが事前にわかっています。アサヒスーパードライの海外進出を担当するときも、グローバル規模で展開しているビールブランドで競合するものが意外とないことに気づき、チャンスがあると考えていました。
廣澤:本質となるニーズを捉えるために起点とする行動はありますか。
西村:定性・定量調査を愚直にし続けることですね。アイデアによって跳ねるケースもありますが、基本的には調査を経て空いているポジションを見つけることがヒットする確率を上げるのに最も近い方法だと思っています。