前回までの振り返り
第2回では、ブランド・リレーションシップの実態は「自己との結びつきの感覚」であり「ブランドへの愛着」であると説明しました。第3回では、ブランド・リレーションシップの強度をどう測定するかについて考えました。またBRS(ブランド・リレーションシップ・スコア)を紹介するとともに、実際の企業のスコアを13年にわたって比較した結果から、ブランド・リレーションシップは長期間にわたり非常に安定したものであることも説明しました。
概念と測定について理解が深まったので、今回はブランド・リレーションシップのマーケティング効果や競争効果を考えていきましょう。伝統的なブランド・マネジメント(あるいは従来型のマーケティング活動)の効果との違いも、明らかにして行きます。
ブランド・リレーションシップのマーケティング効果
私たち消費者は、自己と結びついたブランド(愛着のあるブランド)に対して、普通のブランドとは異なる行動を見せます。その中には、率先してそのブランドを選んだり、友だちに薦めたりするなど、ブランドを所有する企業にとって望ましい効果がいくつもあります。これまで行われてきた研究を振り返り、ブランド・リレーションシップの効果について整理してみます。
購買効果
ブランド・リレーションシップは、消費者の購買行動に影響を及ぼします。先行研究では、消費者がリレーションシップを形成したブランドを優先的に選択したり、反復的に購買したりすることが、確認されてきました。ここでは、(1)頑健な継続購買意向、(2)価格許容性、(3)アップグレード、(4)顧客ロイヤルティの4つについて説明します。
(1)頑健な継続購買傾向
ブランド・リレーションシップは「自分自身のためにそのブランドを買う」「家族や友達のためにそのブランドを買う」「他のブランドからスイッチングする」といった難易度の低い行動だけでなく、「ニューモデルが出たらいつも買う」「そのブランドを買うために、他ブランドを買わず数ヵ月待つ」といった難易度の高い行動にも強い影響を及ぼします(Park et al., 2010)。こうした頑健な継続購買傾向は、特に競争の激しい市場において、企業に利益をもたらすことになるでしょう。
(2)価格許容性
より高い価格でも購入してくれるようになるのも、ブランド・リレーションシップの効果の1つです。これまでの研究から、ブランドへの愛着が強まるほど、支払意思額(WTP: willingness to pay)が高まることがわかっています(e.g.,Thomson et al., 2005)。
(3)アップグレード
ブランド・リレーションシップには、製品のアップグレードを促す効果もあるようです。いわゆる自分磨き(self-improvement)に関心が向けられている場合、自己との結びつきが強いブランドほど、アップグレードした製品を手に入れたい意向が強まることが明らかになっています(e.g.,Dagogo-Jack et al., 2018)。
(4)顧客ブランド・ロイヤルティ
ハミトフら(2019)はメタ分析という手法を使って、24年間にわたり255の出版物で報告された290の研究を対象に、ブランド・リレーションシップの購買効果を統合的に調べました。メタ分析とは、複数の分析結果を統合して解析する手法で、より精度の高い分析結果を示すために用いられます。
彼らは、顧客ブランド・ロイヤルティが市場シェア、キャッシュフロー、利益の増加など、企業の様々なベネフィットと結びついていることを指摘した上で、ブランド・リレーションシップと顧客ブランド・ロイヤルティの間に有意な関係があることを明らかにしました。