経営破綻から回復するも「生活者との距離感」に課題
「くらしの夢中観測所」は、クラシエが掲げるスローガン「夢中になれる明日」を実現するために立ち上げられたプロジェクトだ。この観測所は、クラシエの企業活動の中で生活者との共創を目指した新しいアプローチであり、企業と生活者の距離を縮める役割を担っている。
クラシエはかつてカネボウとして知られていた企業だが、2007年に社名をクラシエに変更した後、認知度の低下という課題に直面した。特に助成認知率は、社名変更直後の調査で28%にまで低下したが、その後10年にわたる努力の末、ようやく91%にまで回復。しかし、生活者との距離感は課題として残っていた。
メーカーとしてのビジネス構造上、生活者と直接関わる機会が少ないことも商品を購入してくれるお客様の顔が見えてこない一因だった。この状況について、北原氏は「生活者とのつながりを強化する必要性を痛感していた」と振り返る。
「クラシエとして新たなスタートを切って10年が経ったとき、『人を想いつづける』という企業理念に対し、私たちは本当に生活者を理解しているのだろうかと疑問に感じました。そこで、『生活者を知る機能を持ちたい』と提案したのが事の始まりです。企業側が価値を決めるのではなく、生活者がその価値を決めるという基本に立ち返り、本当の意味で生活者の期待に応える必要があると考えたのです」(北原氏)
社員が誰でも社会と交わる機会を!価値共創プラットフォームを構築
このような背景から、生活者との価値共創を目指すプラットフォームの構築が始まった。北原氏はこの価値共創プラットフォームを、「社内外の垣根を越えて交わり、価値共創を目指すための“特区”のような場所(機能)」と位置づけている。
プラットフォームは、3つのプロジェクトを中心に構成されており、その中の一つがくらしの夢中観測所である。観測所の目的は、生活者の「くらし×夢中」に着目し、直接対話を通じて生活者を深く理解することだ。生活者の欲求や価値観の変化を捉え、それに基づきファンとの新たな関係性を構築し、クラシエの事業をさらに深化させることを目指している。
クラシエのマーケティング部門ではこれまでもリサーチ活動を行っているが、くらしの夢中観測所は事業から離れたところから、生活者と向き合うことに重点を置いている。
「私たちの目標は『くらしのスペシャリスト』になることです。社員全員が常に生活者の話をしている状態を作り上げたい」と北原氏は語る。このプロジェクトは、有志のメンバーによって推進されており、マーケティング、営業、研究開発、工場スタッフなど、多様な職種のメンバーが集まり、業務の10%をリサーチ活動に割り当て、生活者の「夢中」を追求している。