「AIを使って成長する組織」はどう作る?
AI活用と組織成長については「Unleashing Your Marketing Team’s Potential With AI(AIでマーケティングチームの潜在能力を引き出す)」と題されたセッションで、ゼイネプ・イナンオール・オズデミル氏がヒントを示した。同氏はオーストラリアのシドニーに本社を置く、エンジニア向けのソフトウェア企業「Atlassian」でCMOを務める人物だ。
オズデミル氏によると、一般的な企業でAIが使えない理由は「会社のポリシーに合わない」「ガイダンスがない」「どう使えば良いかわからない」のいずれかに絞られる。活用を進めるためには、マーケターが受け入れること、そしてユースケースをきちんと広げることが重要だと同氏は述べた。
特にAIが有用な領域としては、コンテンツマーケティングを挙げる。コンテンツ制作に時間がかかることは多くのマーケターにとって課題だ。そのプロセスをAIによって加速することは、オズデミル氏もやはり重要視しており、「頭の中の表現がそのまま画像や動画になる。そんなマーケターたちの夢が実現しようとしている」と話す。まずは個人的にでもAIにたくさん触れてみることを同氏は勧めた。
なお同セッションで挙げられた調査データによると、マーケターによるAIの使い道として最も回答が多かったのは顧客理解のためのリサーチ、次にコンテンツ制作だった。
別日に行われたセッション「AI-First Marketing with OpenAI(OpenAIを活用したAIファーストマーケティング)」でも、OpenAIでマーケティング戦略部長を務めるデイン・ヴェイヒー氏が「マーケティングにおけるAIの基本用途」について言及した。
同氏が挙げた用途は「リサーチ」「データ分析」「コンテンツ生成」「自動化&コーディング」「検討」の5つ。ここで言う検討での用途は、壁打ち(ブレスト)などを指している。
特に、今後ローンチ予定の「Search GPT」では必要なリサーチを会話形式で実行することが可能になると言う。同セッションで行われたデモでは、「ヨーロッパで歯科医向けのソフトウェアを売るために何をすれば良い?」という質問をすると、市場の概要、コンプライアンスなど様々な結果をすぐに返答。他にも、「合っているマーケティングイベントを教えて」と質問すると現地のエージェント情報などを表示、「ドイツ市場への参入にはどうすれば良い?」という抽象度の高い質問にも、様々な施策を提案するなど、高い汎用性を見せた。
ロジカルさだけでは仕事にならない。マーケターが求められる人間力
今回のINBOUNDではAI活用が深く語られる一方で、その中でこそマーケターに求められ、重要視される「人間としての能力」についても数多く言及されていた印象だ。
たとえば、「Good Isn’t Good Enough: CMO Secrets to Leveling Up Your Team(良いだけでは充分ではない━━チームをレベルアップさせるCMOの秘訣)」においても、AsanaのCMOであるシャノン・ダフィー氏は「顧客の感情を変えるのがマーケターの仕事なら、ロジカルさだけでは仕事にならない。そんなマーケティングを志したい」と答えている。
この観点は、顧客や従業員とのコミュニケーション、関係づくりに対して同氏が持つ考え方にも広く通じているようだ。ダフィー氏はAIをチームメイトとして受け入れることで、言語や時差の壁を乗り越えることもでき、チーム内のコミュニケーションにおいても理解が進むと説明。また、マーケターやそのチームリーダーにとって、チームメンバーや顧客などからフィードバックを得てプランニングに活かすこと、学び続ける姿勢は普遍的に重要だと、セッションを通じて強く主張した。
では、ブランドの想いを顧客に伝えるには、改めてどう考えるべきか。たとえば、ブランドの持つ背景やストーリーを伝えることが重要だという主張は日本でもしばしば見かけるが、それは本当なのか。まさしくこのテーマについて詳しく語られたセッションが、「Stop Telling Stories: Have Brand Conversations That Convert(ストーリーを語るのはやめよう━━ブランドらしくコンバージョンにつながる会話をしよう)」だ。
同セッションに登壇したのは、ケイト・ディレオ氏。同氏は近年のマーケティング業界において世界的ベストセラーを送り出した著者であり、ブランディングのフレームワーク「The Brand Trifecta」を生む出した人物だ。このセッションでも同手法に基づいて「効果のないストーリーテリングを排除する方法」が伝えられた。