音楽カルチャーの力、企業が活かすには?
──企業が、音楽カルチャーの力を活かすためにはどのようにしたらいいのでしょうか。また、どういった企業が音楽カルチャーを活用したブランディングに向いているとお考えですか。
梶浦:嗜好品系のメーカーのような「機能」ではなく「感情」を提供する商品を扱う企業との相性がよいと思います。
ただ、実際試してみないとわからない部分が多いので、音楽カルチャーの力を企業が活かすためには、まずは早く色々やってみることに限ります。あとは、音楽好きな人がチーム内にいることも非常に重要です。浅いところで理解したつもりになっていてもファンはついてきません。
社内でよく「組織的ダイバーシティは、戦略的に作る必要がある」と話していますが、ファンとブランドとの間に描けそうなストーリーを探すためには社内外でのパートナーづくりがキーになります。
また音楽カルチャーはデジタルとリアルを行き来するため、輪郭が見えづらく、各アーティストでファンの属性も細分化されています。だからこそ、相当感度高くウォッチしていないと、良い施策を描くことが難しいです。なので音楽カルチャーに詳しい人や企業から最新の状況を聞きながら細かくチューニングしていくことをおすすめします。音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、ネクストブレイクを期待されているアーティストをサポートする企画もやっています。アーティストごとのファンについて細かく知ってらっしゃるので、頼りにしていますね。
──企業が音楽・音声コンテンツを活用していく際にはじめにやるべきこと・気を付けるべきことを教えてください。
梶浦:アーティスト・ファン・ブランドの三方良しを作り、どのフェーズにおいても常に三方がハッピーになる座組を設計してから取り組むことですね。お客様は音楽を聴いている時に広告を聞きたいわけではありません。自然に溶け込み、むしろプラスになるようなコミュニケーションを考えていくことが重要です。
「購買」に到達するまでのストーリーを描き切る
──KPIなどはどういったところに置けばよいのでしょうか。
梶浦:リアルな場の場合は、来店者数やブランド好意度のリフト値が重要になります。実際、『SUPER DRY Immersive experience』では購入意向が10%ほど上がりました。
実際の購買やその先のロイヤル化はこれからの課題です。BtoBtoCの場合、組織やデータがサイロ化してくることが多く、計測が難しい。なので、現状はどうしてもリフト値で見てしまうことが多いです。阪神タイガースのマルエフ事例のように、購買まで響いたという肌感が持てる施策を増やしたいですね。
──今後の展望や展開をお話しください。加えて、ファンダムを活用しようと考えている企業にメッセージをお願いいたします。
梶浦:デジタル化が進むことで、消費者の体験はさらにパーソナライズ化され、コミュニティーはどんどん小さく、濃く、そして数は爆増しています。昨今、効率化を求めがちですが、腰を据えてファンが喜ぶストーリーを作っていくことで、購買まで届く強いマーケティングを実現できるのではないかと考えています。
BtoBtoCだと、「購買に至らせるための最後のひと押し」をつくることは非常に難しいです。ちゃんと商売を成立させることを念頭に置き、ファネルの一番下に到達できるまでのストーリーを描き切っていきたいですね。
私たちも、試行錯誤の真っ最中です。これからも音楽を含め、エンタメカルチャーを交えたマーケティングにしっかりと向き合っていきます。加えて当社には、様々な接点があるにもかかわらず、使いきれていない部分もたくさんあります。これらをファンが、そしてお客様が喜ぶ仕掛けに変えていけるように、今後も挑戦し続けていきたい思います。
