サードパーティCookieのトレンドを振り返る
セッションの冒頭、モデレーターであるThe Trade Desk Japanの服部氏からサードパーティCookie周辺で起きていることの現状整理が行われた。
まず、CookieとはWebサイト訪問時に利用者のブラウザに情報を一時的に保存する仕組みを指すが、大きくアクセスしたWebサイトと同じドメインで発行・活用されるファーストパーティCookieと、異なるドメインで発行・活用されるサードパーティCookieに大分される。前者はログイン保持やアクセス解析などに使われ、後者はリターゲティングや効果計測などに活用される。
この説明だけでも、サードパーティCookieがデジタルマーケティングの成果を高めることや、効果を確認するために重要な要素であることがわかるが、昨今はプライバシー保護の観点からサードパーティCookieの規制・廃止に向けた動きが加速している。SafariやFirefoxのブラウザでは既に利用不可となっており、両ブラウザではリターゲティングや効果計測が難しくなっている。
7月のGoogleの発表、有識者はどう捉える?
このような現状の中、2024年7月に大きなニュースが飛び込んできた。Googleが提供するブラウザChromeにおけるサードパーティCookie廃止の中止の発表である。中止の発表以外にも、ユーザーが選択できる新たなアプローチの提案予定があること、対策として提案していたプライバシーサンドボックスAPIの継続利用が可能であることも合わせて発表された。
服部氏は最初のディスカッションテーマとして、パネリストであるベネッセの大野氏、Hakuhodo DY ONEの鈴木氏、アタラの杉原氏にこのGoogleの発表をどう捉えているかを聞いた。
まず、大野氏は「ベネッセはBtoCの事業が中心ということもあり、このニュースが社内でも話題となっていた」とし、その理由を次のように語った。
「会社としてサードパーティCookieの影響を大きく受けており、社内のデータチームを中心に対策を進めている中で今回の発表がありました。サードパーティCookieの廃止が中止される、と聞くと関心が薄くなりがちですが、ベネッセでは引き続き対応をしていくべきと考えています」(大野氏)
鈴木氏はヨーロッパを中心にプライバシーサンドボックスの活用が進んでいない状況を見ており、サードパーティCookieの廃止は無理なのではないかと予測していたという。しかし、「このニュースを見て安心すべきではない」と注意を促した。
そして、アドテクノロジー領域を長年ウォッチし、様々なメディアで情報発信をするアタラの杉原氏は「結果は変わらない。ChromeでCookieは今後ほぼ使えなくなっていくので、対応は必要」とニュースに対する感想を述べた。
知っておくべきサードパーティCookieに訪れる未来
続いて、7月のGoogleの発表を踏まえ、Cookieレスに対しどのような対応が必要か、アタラの杉原氏が解説した。
まず杉原氏は今回のGoogle発表内容を踏まえ、「今後Google ChromeにもAppleのATT(App Tracking Transparency)と同じような仕組みが導入されるのではないか」と予測した。
ATTはAppleのプライバシーフレームワークで、ユーザーから許可がないと企業がユーザーのデータをトラッキングできないようにするものだ。許諾率は20~30%と言われており、ATTに近い仕組みが導入されると、Google Chromeでもこれまでよりデータのトラッキングが難しくなる。
そして、杉原氏は既に「ブラウザ/OSシェアのデータを見ると、Cookieレスは相当進んでいる」と下の図を使い解説。
デスクトップで見ると全シェアの10%くらいしか影響がないが、今後ChromeとマイクロソフトのEdgeでも影響が出てきて、9割近いブラウザでCookieレスになる可能性がある。
またモバイルの場合、日本ではiOSのシェアが7割近いことから、既にモバイルでは多くのユーザーのトラッキングが難しくなっており、広告効果や計測に大きな影響が及んでいるのである。
「サードパーティCookieがほとんど使えなくなるという未来は、今年の年末に来るかもしれないし、来年初頭かもしれませんが、意外と近くに来ているんです」(杉原氏)
Cookieレス対応に必要な3ステップ
ここまでの話で、Cookieレスへの対応が急務であることはおわかりいただけただろう。しかし、疑問となるのが「どのように対応を進めていくべきか?」という点である。
この疑問に答えるため、登壇者の4名は事前に話し合い、Cookieレス対策に向けた3ステップを策定。把握する、整理する、実行するの3つに分け、各ステップでどのような対応が必要か紹介した。
1.把握する
最初のステップでは、「Cookieレスの自社への影響範囲」「代替施策」の2つを把握、理解することが求められる。
杉原氏はこの把握を「マーケティング部門だけで行うのではなく、経営陣とともに経営戦略として考えるべき」と語った。
またベネッセでは、Cookieレスの影響がどの程度あるのか試算を進めたところ、年々リターゲティング配信のCPA悪化が加速していること、同施策の2019年度実績と同程度のコンバージョン数を現在の環境下で獲得するには、コスト効率悪化に伴い10億円以上の追加投資が必要だということがわかったという。
2.整理する
2つ目のステップでは自社データの整理とプライバシー調整が必要になる。
自社データの整理はどのようなデータを保持しているのか、どう活用できるかを整理することを指す。一方、プライバシー調整は、データ活用を適切に行うため、顧客に対してはプライバシーポリシーの改定を行い、社内では法務や情報システムと連携・調整していくことが求められる。
Hakuhodo DY ONEの鈴木氏は、特にプライバシー調整が難しいと事例を交えて紹介した。
「最初はマーケティング部門に提案しますが、データの活用がどこまでOKか判断できず、法務部に判断を仰ぎます。多くの企業はここで提案がとん挫します。また、法務部からOKが出ても、今度は情報システム部からセキュリティの観点から改善点が出てくるなど、非常に時間のかかるプロジェクトになることが多いです」(鈴木氏)
3.実行する
3つ目のステップでは、まず「ファーストパーティデータを収集しているか、使える状態か」で行える施策が変わってくるという。セッションの中では、ファーストパーティデータが使える前提の対策がいくつか紹介された。
まず、ターゲティングと効果測定ともに共通ID(確定ID/推定ID)とデータクリーンルームの活用が可能になる。そして、The Trade Deskではパブリッシャーや広告主が利用できるオープンソースのIDフレームワークである「Unified ID 2.0」を提供している。
これにより、クロスデバイスであっても顧客を捉えた効率の良い広告配信を実現できる。また、よりリーチを広げたい場合は、確定IDに類似度の高いオーディエンスに対し拡張配信することもできる。
もちろん、コンテキストターゲティングなどファーストパーティデータを持たずともCookieレス対応はできるが、確定IDであるUID2のほうが正確性も高く拡張配信などの応用もできるので、ここまで3ステップで自社データを活用できる環境を整えることが求められる。
ベネッセが検証、各Cookieレス対応の評価
セッションの後半には、ベネッセの大野氏からこれまで同社が取り組んできたCookieレスに対する対策とそれに対する評価・再現性についての紹介があった。
大野氏によると、一番目に見えて効果が出たのは「ファーストパーティデータを広告のターゲティングに活用すること」だという。
DM送付者や既存サービス受講者に対して広告配信を行った結果、これまでのリターゲティング配信に比べCPAは80%から90%改善したという。このような取り組みはこれまでログインベースのIDを持っているプラットフォーマーの広告でしか活用できなかったが、UID2を利用すれば、様々なメディアに配信を拡張することができる。
「UID2を活用して、プラットフォーマー以外の配信先にも拡張できるのは非常に期待感があるので、ぜひ今後活用したいと思っています」(大野氏)
オフラインとオンラインを融合した施策を展開する
セッションの最後、ベネッセの今後のCookieレス対応とプロモーションに関する戦略を大野氏が語った。
「元々はダイレクトメールをお送りするところからマーケティングが始まって、最終的にWebでクロージングするモデルを採用してきました。しかし、Cookieレスが進むにつれて、投資対効果がどんどん悪化してしまっているので、ファーストパーティデータを駆使しながらデジタルチャネルの役割を変えるところにチャレンジしたいと考えています」(大野氏)
具体的には、ダイレクトメールの送付からスタートするのではなく、デジタル広告で認知を獲得し、そこで反応があった顧客に対しダイレクトメールを送付するモデルも組み合わせていく。これにより、オフラインとオンラインを融合したプランを実現していきたいという。
ここまでの話を踏まえ、服部氏は「ぜひ明日から様々なアクションを取ってほしい。
また、私たちだけでなく皆さんでCookieレス対応を啓蒙していけたらと思っております」と業界全体でCookieレスに対応することを啓蒙し、セッションを締めくくった。
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