※本記事は、2024年10月刊行の『MarkeZine』(雑誌)106号に掲載したものです
SNS短編動画がスポーツコンテンツの価値を増幅
2024パリオリンピックは、日本と比べると、米国やNYの街中では関心の熱が極めて低かった。たとえば、筆者がオリンピック開催中にNYのスポーツバーを訪れると、何台も並ぶ大画面テレビには、オリンピックではなく地元ヤンキースやプロサッカーの試合がチャンネル別で放送されていた。それを見て店内で人々が応援する、そのようなシーンをオリンピックに関してはほぼ見かけなかったほどだ。
それにも関わらず、筆者はチームUSAが陸上リレーで優勝したシーンを知っているし、日本の金メダル獲得数に関する情報やそのシーンを多数見聞きした。SNSで流れてきた短編動画で認知したからだ。3年前の東京オリンピックではあまり見られなかった今年の新しい現象である。
オリンピックの例に限らずその他のスポーツコンテンツも、ファンではない筆者へのリーチがこの1年で急増した実感から、特にSNS短編動画が、テレビ(映像)事業全体の価値を広範囲に引き上げている可能性に気づく。視聴者がテレビからストリーミングやSNSへシフトしているとしても、試合をフル鑑賞しない層にもスポーツ「コンテンツ」の認知(価値)が広がり、広告視聴の価値が引き上げられている。
ドラマ番組より「スポーツ」のつながりは強い
かつてのDisneyであれば、巨額な制作費と広告予算を投じて世界中で評判となるコンテンツを配信し、一気に回収するという方程式が成り立っていた。しかし、今やDisneyでさえ、「自社制作」の番組(映画)コンテンツのサブスクリプションモデルに対する躊躇が見られるようになっている(参考)。
過去、米国での自社コンテンツ事業の失敗例として、2018年に鳴り物入りでスタートした「Quibi」による縦型短編動画のストリーミング配信事業があった。超有名起業家によるプロジェクトとして、当時Quibiには約2,000億円の資金が即座に集まった。その出資者もDisney・Fox・NBCUniversal・Sony・WarnerMediaといったトップコンテンツ企業に加え、Goldman Sachs・JP Morganといった金融大手が名を連ねたほど。
ところが、Quibiは2020年12月に事業を終了した。「巨額を投じてやってみたら失敗だった」この例は、SNSを意識してドラマや番組に制作費を投じ、権利を保持しても、有料サブスクだけでは採算がとりにくいことを示している。Quibiを放送局と見立てるならば、この放送局には「スポーツ」と「ライブ(スポーツ、コンサートから天気予報まで)」の要素が欠けていた。実際、NetflixやAmazonが巨額のスポーツ放映権を獲得しようとしているのは、「スポーツ&ライブ」がSNSで必須のコンテンツだからである。
ドラマや映画は、Netflixなどでどんなにメガヒット作と言われるものでも、視聴アカウントを持たず、興味のない人へのリーチは難しい。一方、スポーツは幅広いデモグラフィックにリーチできる。特に、英語がネイティブではない層や国へのリーチは顕著だ。映画やドラマは、好みの変化やシリーズの終了とともにファンが離れる傾向があるが、スポーツは「生涯にわたる・忠誠心のある・没入体験による・語学の介在は不要で・多少の出費でも保持し続ける」国境を超えるコンテンツである。
事業側目線での広がりも期待できる。撮影技術の進化により、選手の動きをセンシングして3D/CG化することで、「eWorldCup」「ファンタジーゲーム」や、さらには「NFTトレーディングカード」「リアルのスタジアムのeTicket販売」へ発展させることもでき、ゲームコンテンツや副収入の可能性も広がる。これは広告主にとっても新たな機会を生む。