悪質な広告の対策にもIDが不可欠
有園:全世界の人にIDを配布している国や機関はないため、その仕組みを開発し、普及させようとしているのですね。この取り組みは、マーケティング業界の課題にも大きく関わると考えています。
アドフラウドと呼ばれる、ボットのアクセスで広告インプレッションを発生させる悪質な手法や、広告のためだけに作られたMFA(Made-for-Advertising)と呼ばれるWebサイトが氾濫しています。また、AI技術の発展によって、AIが商品を購入したり、ボットによるアクセスを遮断するためのreCAPTCHA(リキャプチャ)を突破したりする事態も起こり始めています。
今後、AIがお互いにやりとりをして、人間の代わりにアクションする時代になると、アカウントが本当に人間なのか判断する術が必要になります。「ヒューマン・ベリフィケーション(Human Verification)」が求められるのです。AIが普及した世界をイメージすると、やはりIDを整備しないと成り立たないと思います。
Tools for Humanityは、マーケティング領域では博報堂との提携も発表しました。博報堂は、日本におけるWorld IDのサービス拡大に取り組むそうですね。
牧野:このプロジェクトのきっかけはユニバーサルベーシックインカムでしたが、マーケティング領域の問題のように、「AIの普及によるリスクにどう対処していくか」「IDをどんな場面で活用できるか」という議論へと広がってきています。
マネタイズの仕組みはない
有園:インフラとしてWorld IDを普及させていくというお話でしたが、ビジネスとしてはどう考えているのですか。
牧野:そもそもインフラを世の中に提供するために始まったプロジェクトであるため、マネタイズの仕組みはありません。人間であることを証明するデジタルIDと金融のネットワークを構築し、世界中の人々にその所有権を提供するという考え方です。
Worldcoinは、すべての人々がグローバルなデジタル経済にアクセスするための公平な方法と考えていて、World Networkに参加したすべてのユーザーは、利用可能な国では無料でWorldcoinを受け取ることができます。
有園:必要な資金はどのように得ているのですか。
牧野:ベンチャーキャピタルと投資家の出資で成り立っています。将来的に運営会社がなくなれば、運営の発言権はトークンをもっている人たちになります。
有園:普及させるためのハードルは何でしょうか。
牧野:人間であることを証明する認証サービスへのアクセスや、認証するためのOrbへのアクセスが課題だと考えています。現在、日本にはOrbの設置場所がまだ50ヵ所しかなく、もっと増やしていかなくてはいけません。
有園:牧野さんはかつてGoogle日本法人やTwitter Japanでも活躍し、YouTubeやTwitter(現・X)など、新しいサービスを日本で広めた実績があります。
牧野:世の中の人たちに対して、新しいサービスをわかりやすく翻訳して、使い方を広めるのが自分の役割だと思っています。