本記事は『心理学に基づく質問の技術』(著:大谷佳子)の「Chapter 3 使ってみたい!技あり質問」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
進捗状況を確認したい
「だいたい終わりました」の2つの可能性
進捗状況を問われて、相手が「だいたい終わりました」と回答するときは、2つの可能性を考えなければなりません。1つ目は、その言葉通り、大部分が終了している可能性です。回答が額面通りの意味であれば問題はありませんが、注意が必要なのはもう1つの可能性です。
2つ目は、相手が適当に返事をしている可能性です。実際にはまだ半分くらいしか終わっていなくても、その場を取りつくろうとして、「だいたい終わりました」と返事をしているのかもしれません。
具体化も比較もできるスケーリング・クエスチョン
「だいたい終わりました」という返事にどちらの意味があるか判断するためには、「だいたいって、どのくらい?」などと詳細を質問する必要があります。それなら、最初からスケーリング・クエスチョンを使うとよいでしょう。「すべて終了した状態が10なら、今はどのあたり?」と問いかけると、進捗状況を具体的に知ることができます。
さらに、スケーリング・クエスチョンを定期的に活用すると、「前回の回答は3でしたね。今回が6ということは、ずいぶん進みましたね」と、進捗状況の変化を数値化して比較することも可能になります。
アイデアを求める
制限をなくすことで自由な発想を促す
「何かよいアイデアはありませんか?」は、会議や話し合いの場面でよく使われる問いかけです。アイデアを求めるときに何気なく口にしがちですが、この質問は相手にプレッシャーを与えて、発言しにくい雰囲気をつくってしまうことがあります。
その原因は、質問のなかの“よいアイデア”という一言です。この一言が、その場で発言するハードルを上げてしまいます。相手は無意識のうちに、誰もがいいと言ってくれそうな優れたアイデアを出そうと考え込んでしまうでしょう。せっかく思い浮かんだアイデアがあっても、“よいアイデア”と認めてもらえる自信がないと、発言することを躊躇してしまいがちです。
そこで、自由に発想するように促したいときは、仮定の質問をしてみるとよいでしょう。“よいアイデア”という条件の代わりに、「仮に何も制限がなかったら、」と仮定してアイデアを求めると、枠にとらわれず思考することが可能になります。
逆の発想を刺激する質問
発想の転換を促したいときは、イレギュラーな質問をしてみましょう。例えば、「何をしたらよいか?」と問いかけても発言がなければ、逆に「何をしたらよくないか?」と質問してみるのもよいでしょう。普段とは異なる発想が刺激されると、画期的なアイデアが出てくるかもしれません。
発言のなかの抽象的な言葉を明確にしたい
「具体的に言うと?」で真意を探る
相手の発言のなかに、抽象的な言葉があるときは、その意味を具体的にするための質問をしてみましょう。例えば、「コミュニケーションがとれていない」という表現のままでは、相手がどのような状態を意味しているのかが漠然としてわかりません。
そこで、相手の発言に対して「具体的に言うと、どういうことですか?」と質問をして、その真意を明確にします。相手が上手く答えられないときは、「例えば、どのような場面でそう思ったのですか?」と質問するのもよいでしょう。
相手の発言を、別の言葉に置き換えて確認するのもよい方法ですが、その場合には「コミュニケーション不足ってことですか?」と大きなチャンクで確認するのではなく、「それは会話自体が少ないという意味ですか?」と具体的な状態に言い換えることが必要です。
チャンクダウンする質問
チャンクとは、かたまりを意味する言葉です。そのかたまりを細かくほぐしていくことをチャンクダウンと表現します。つまり、チャンクダウンする質問とは、抽象的な言葉や漠然とした表現を具体化していく質問のことを言います。
相手が望ましくない行動を繰り返すとき
例外を生む条件を見つける
やってほしくないことを相手が何度も繰り返すと、つい「いつも◯◯するのは、どうしてですか?」とその理由をたずねたくなります。原因を特定して、そこから解決策を考えるのも1つの方法ですが、「どうしてですか ?」と原因の追究にばかり時間をかけても解決につながらないこともあります。
そもそも、原因が何なのか特定が難しい場合も少なくありません。本人も悩んでいるものの、解決できず何度も同じことをしてしまうのは、その原因が自分でもわかっていないからです。例えば、時間や期限に遅れてばかりいる人には、「間に合ったときは、何がいつもと違っていたと思いますか?」と質問してみましょう。例外的な状況に焦点を当てることで、“いつも遅れる原因”ではなく、“間に合うときの条件”を見つけて解決策を考えるとよいでしょう。
例外探しの質問
例外とは、いつも起こる問題が起きていない状況や、問題が起きても比較的よかったときのことを指します。「これまでに、そうならなかったときはありますか?」「比較的よかったのは、どのようなときですか?」などと問いかけて、例外を発見しようとするのが例外探しの質問です。例外を意図的に再現するための条件がわかれば、それが解決の糸口になるかもしれません。
困難を経験した人に言葉をかける
その人の対処能力に焦点を当てる
「そんな経験をするなんて、大変だったでしょう?」と質問すると、相手は当然問われたことについて語り始めます。相手の意識を“大変だったこと”に向ける質問は、その人が経験した困難について詳しく知りたいときに適しています。
それに対して、「どうやって、その困難を乗り越えたのですか?」というコーピング・クエスチョンは、その人の対処能力に焦点を当てた会話をするときに有効な質問です。
“大変だったこと”を問いかけるより、どのようにその困難に対処したのかを質問するほうが、相手はポジティブな気持ちになれるでしょう。コーピング・クエスチョンには、困難な経験を乗り越えるために、その人が努力したことや工夫したことを間接的に承認する効果もあります。
コーピング・クエスチョン
コーピングとは、対処する、切り抜けるという意味をもつcopeに由来する言葉です。ストレスマネジメントでは、コーピングといえばストレス対処法のことを指します。
ストレスに限らず、困難なことに上手く対処したり、なんとか乗り越えたりした経験を語ってもらうことで、その人がもっている対処能力への気づきを促すことができます。その機会を提供するための質問が、コーピング・クエスチョンです。
多角的に考えることを促したい
他の人の視点にも気づいてもらう
「あなたなら、どうしますか?」と問われた相手は、自身の内面に視点を向けて考え始めます。相手がすぐに「私だったら、◯◯します」と回答できれば何も問題はありません。その一方で、相手が「えっと……」と言ったきり考え込んでしまったら、自分以外の人の視点で考えてもらう質問をしてみましょう。
例えば、「あなたが先方の立場だったら、どうしてほしいと思いますか?」と問いかけて、異なる視点で考えることを促します。自分の立ち位置から一旦離れて、自分とは違う人物になったつもりで考えてみると、新たな気づきが得られるかもしれません。
状況に応じて、「Aさんだったら、どうすると思いますか?」のように、その人にとってロールモデルになる人や、尊敬している人の視点に置き換えて考えるように促すのもよいでしょう。
ディソシエートとアソシエート
ディソシエートとは自分を外から客観的に見ることを言い、自分の視点が外側にある状態を指します。それに対して、自分自身の視点から物事を見ることをアソシエートと言います。
質問するのに技術は必要?
私たちは、知りたいことを誰かにたずねるという経験を重ねて、いつの間にか自分なりの質問の仕方を身につけているのです。このように捉えれば、「質問するという行為は誰にでもできる」と言えるのかもしれません。
ですが、知らず知らずのうちに身につけたからこそ、自分なりの質問の仕方が適切なものであるとは限らないのです。もしかしたら無自覚なまま、相手にプレッシャーを与える質問や、相手が返答に困る質問をしているかもしれません。
質問を技術として学ぶと、自分がこれまでに身につけた質問の仕方を振り返る機会になり、もっと効果的で、好印象になる質問の仕方を知ることができます。
『心理学に基づく質問の技術』で紹介している質問の技術は、心理学をベースとしています。心理学の知識が、日々のコミュニケーションにおいて、大いに役立つことは言うまでもありません。それは、質問をするときも同じです。
あまり深く考えずに口にした質問と、心理学に基づく質問とでは、引き出せる情報の量・質だけでなく、相手に与える印象や影響にも大きな違いがあるのです。
その違いがイメージできるように、本書では質問例とともに、予想される回答例も示しながら解説しています。「こういう反応が相手から返ってきたらいいな」「面接などで、こんなふうにやりとりしてみたい」と思う質問があれば、すぐに実際の会話のなかで試してみましょう。
最初のうちは何となく借り物のような質問に思えても、使う回数を重ねるうちに、自然と自分のものになっていきます。実際に使ってみたものの、使い勝手がいまひとつよくなかった質問は、自分なりのアレンジを加えて再度試してみましょう。
これを繰り返すうちに、あなたにとって本当に使える質問のレパートリーが増えていきます。同時に、あなたの質問力が驚くほどアップしていることが実感できるはずです。