丸亀製麺が重視する“驚き”の提供とは?
有園:ありがとうございます。丸亀製麺の南雲さんはいかがでしょうか?
南雲:私たちは、直観や感性とデータサイエンスの両方を活用したマーケティングを行っています。食のビジネスなので、「食欲」という人の本能が一番不変であると位置づけています。そして、その欲求を刺激し顧客の衝動を作っていくことを目的に、マーケティングに取り組んでいますね。
南雲克明氏
コナミスポーツ・サザビーリーグなどBtoCの事業会社において様々なブランドのマーケティング責任者を歴任。2018年にトリドールホールディングスに入社し、グループ全体のコミュニケーションを統括しながらビジネスと企業価値をグロースさせ続けるマーケティングの革新と拡張に取り組む。
南雲:私たちはこの感覚の領域「五感」と感情の領域「四情」、そして記憶領域の「三動」に対するアプローチを、商品開発やコミュニケーションで行っています。

南雲:ただ、感覚的な領域だけでは再現性が低くなってしまう課題が生じます。そのため、感覚に対する理性の部分、すなわちデータサイエンスも活用します。ビジネス拡大には、感性と理性の両立が重要だと考えています。
具体的には、「丸亀製麺はすべての店で粉からうどんを作っている」というメッセージで他社との差異や選ぶべき理由を理性に訴え、クリエイティブなどのコミュニケーションで「美味しそう」「食べたい」という感覚的な衝動を作っています。
もう一つ大事にしているのは、やはり顧客インサイトです。テクノロジーが進んで人との接点が少なくなっていく昨今こそ、人のぬくもり・手づくりをもっと前面に出すこと。加えて、「こんなものが欲しかった」「食べてみたい・体験したい」という“驚き”を顧客は求めています。新たに展開した「丸亀うどーなつ」も、まさに驚きを提供できる商品ですね。「うどん生まれの新食感」をコンセプトとしたドーナツで、プロダクトアウト型のビジネスです。
「丸亀うどーなつ」は私と社長で全店導入を決めたアイデアでしたが、はじめ社内は多くが懐疑的でした。しかし私の経験上、全員が「これは売れる」と思ったものは平均点こそ取れますが、120点は取れません。
有園:驚きを提供するには革新性が必要ですよね。ビル・ゲイツも「皆が賛成するより反対するアイデアのほうが革新的」という旨の話をしていました。
ブランドが押さえるべき、顧客へのアプローチの姿勢
有園:続いては、インターブランドの田中さんいかがでしょうか。
田中:アドテック東京では、経年でセッションのテーマは移り変わっているものの、その中でずっと変わらないのが「ブランド」だとうかがいました。ただ、ブランディング自体も少しずつ時代によって進化しています。
かつてブランドは、製品の品質や競合との差異などアイデンティティを決めていく役割を持っていましたが、製品やサービスのコモディティ化が進む中で付加価値を付けたり体験を提供したりすることが求められるようになりました。そしてエコシステムの時代に入り、「共創マーケティング」といった形でブランドと人がパートナーのような関係性になっています。
新卒で国内の食品メーカーに入社。担当ブランドにおいて包括的なマーケティング業務に従事した。その後インターブランドに参画し、BtoB・BtoCを問わずビジネスをドライブするブランド作りや戦略を支援している。
田中:まさに今、不確実性の高い時代の中で多くのブランドは可能性を模索しているといえます。顧客理解においても、より根源的な欲求や痛みにブランドが寄り添いサポートしていくアプローチが大切になると思います。
私たちはこの考え方を「Human Truths」と呼んでいます。インサイトよりも広く、業界やブランドのカテゴリーも超えて人が共通で持つ価値観を指す言葉です。Human Truthsにおいては、顧客の心の奥底にある葛藤や動機づけになるもの、行動様式、社会規範などが互いに影響し合いながら存在していると考えています。
たとえば「私はこういうスタイルに憧れる、しかし現実的には難しい」といった、顧客の心の奥底にあるHuman Truthsを理解し、どうやって応えるかが、そのブランドのオリジナリティにつながると思います。扱っている商品が「コンパクトな車」なら、ブランドの光の当て方次第で「エキサイティング」「家族向けに便利」など様々な表現が考えられ、提供価値も変わっていくでしょう。
また、顧客側が言語化できないことや顧客自身もわからないこと、あるいは恥ずかしいなどの理由から「あえて言わない」こともあります。それらをブランドがいかに汲み取り、適切な形で見せられるかがアプローチにおいて重要だといえます。
