実店舗での購入はいまだ9割。リテールメディアの重要性を探る
デジタルOOHのアドネットワーク事業、マネタイズ事業などを手掛けるMADSでは、2017年頃からリテールメディアの立ち上げに取り組んでいる。リテールメディアとは、店舗およびECサイトを持つ小売店が提供する各種メディアおよびソリューションの総称だ。
リテールメディアの要素は「場所」「ジャンル」「誰にとって」「どんな目的で」という4つの軸で整理できる。今回は、その中でもオフライン店舗のメディアで広告主が売上を上げるための活用方法に焦点を当て語っていった。
まず、生活者の購入意思決定の過程について整理しておきたい。ECサイトは年々利用率が増えているものの、今でも生活者の購買行動の9割は実店舗で行われている。
生活者の購買行動には、あらかじめ何を買うか決めていたものをそのまま買う「計画購買」と、事前に購入予定のなかった、あるいは事前に決めていたものと結果的に別のものを買う「非計画購買」がある。
MADSが調査会社を使って実施した調査でも、「事前に購入予定のなかった商品を実店舗で購入することがある」と答えた人は約8割にのぼった。また非計画購買のうち、事前に「TVやSNSなどで興味を持っていた商品と違うものを買ったことがある」と回答した人が約6割もあった。理由として、店舗で確認した際に「よりお得だったり、より機能性が高かったりした別商品を選んだ」といったことが考えられる。
「多くの人が実店舗で非計画購買をする傾向にあることを考えると、店頭でお客様にいかに情報を伝えていくかが重要です。したがって、いかにリテールメディアを活用するかを考えることは外せないポイントとなっています」(工藤氏)
MADSが提供するデジタルサイネージの特徴
実店舗の中でリテールメディアが生活者へリーチできる場所は、大別して3つある。1つ目は誰もが通る店頭だ。店頭は店舗の中でもリーチ数は一番大きい。2つ目は店内の棚で、そこまで足を運んだ人のみとなるのでリーチ数は限られるが、購入の意思決定直前に来る場所となるため、そこで触れた情報によって購入意向が上がりやすい。3つ目はレジで、購入者が必ず来る場所なのでリーチ数は多いが、すでに意思決定済みのタイミングのため、次回来店時に向けたアプローチをするのに向いている。
MADSでは、他にも来店者の誰もが通る店頭の買い物かごを置くスペースに縦型ディスプレイを置き、広告配信を行っている。
次に工藤氏は、MADSのデジタルサイネージにおける特徴について解説した。
MADSは、スーパーや美容院、タクシーなど様々な場所に設置したデジタルサイネージをネットワーク化。中でも、ドラッグストアではウエルシア薬局を中心に複数のチェーンで展開する大規模ネットワークを構築している。
同社が提供するデジタルサイネージの特徴は、従来型の予約買い付けではなく広告の表示回数1回ごとの単価で課金する方法をとっていることだ。そのため予算に応じ出稿量を調整しやすい。また、時間や天候、ポイントデーのみなど、配信の自由度が高いのも特徴だ。
加えて、POSデータと連携して広告が売上にもたらした効果を分析している。合わせて広告主に向け、分析結果やそれに基づいたノウハウの提供もしているので、改善を重ねてより効率的な広告配信にしていける。
「我々がドラッグストアにおけるデジタルサイネージを運用した実績は、300ブランドを超えます。それらのリテールメディア活用から見えた勝ちパターンをご紹介します」(工藤氏)
クリエイティブでブランドスイッチを促すための、2つの型とは?
デジタルサイネージ広告を成功に導くポイントが3つある。1つ目はクリエイティブだ。クリエイティブには目的に合わせた2つの型が存在する。
1つは「再認知型」で、事前にCMなどで認知していた商品やブランドを「そういえばこれ気になっていた」と店頭で思い出してもらうことを狙うもの。もう1つは「店頭認知型」で、「今だけ20%オフ」などインセンティブを訴求したり、機能性の高さを訴求したりすることで「ブランドAを買おうと思っていたけれどブランドBの方が良さそうだ」とブランドスイッチを狙うものがある。
再認知型の広告では、生活者に思い出してもらうことが期待できるため、CM動画をそのまま利用するのが効果的だ。デジタルサイネージの前を通りすぎる際に、生活者がそのクリエイティブを目にする時間は約1秒程度しかない。したがってCM動画の下に何の広告か瞬時にわかるよう静止画を入れておくのが王道の方法となっている。
AND-Xのシャンプー「NeNe Night」では、CM動画と静止画を組み合わせたクリエイティブを配信することで、売上が13.7%向上したのだ。別の化粧品会社のロングセラー商品でも同様の組み合わせでクリエイティブを配信したところ、売上は23%も向上した。
店頭認知型の場合は、インセンティブや機能性などの「今買う理由」を強調するのが良い。サンスターのオーラルケア製品「GUM」の事例では、最大500ポイントがもらえることを訴求した結果、売上が4.8%上がった。本クリエイティブの情報量を精査し、改めて配信したところ、さらに売上が伸びる結果となった。
「デジタルサイネージ広告では、目的に応じてクリエイティブを工夫することが非常に重要になってきます。目的に合わせ、クリエイティブのPDCAを回すことで売上はダイレクトに上がります」(工藤氏)
配信時間や配信タイミングの工夫で狙ったターゲットにリーチ
デジタルサイネージ広告を成功に導くポイントの2つ目は、来店者の傾向を見て配信設定を調整することだ。これはMADSの強みである、自由度の高い配信設定により実現することができる。
たとえば会社勤めをしている人がターゲットの場合、出勤前や移動中に交通広告やSNSなどで広告に接触することを狙い、店頭のデジタルサイネージでは仕事帰りの夜間や週末の配信量を増やすのが王道のやり方で、実際に多くの広告主がこのタイプの配信を行っている。シニアがターゲットの場合は、シニアが多く来店する平日の午前中に配信量を増やすといったように、ターゲットに応じて配信していくと効果を上げやすい。
MADSのデジタルサイネージ広告では、天候に合わせて配信設定が行える。具体的には、雨の日だけや花粉の多い日だけといった設定ができる。ある製薬会社の花粉症市販薬の広告では、花粉の飛散量が5段階中4以上になったら配信する設定にしたところ、売上が20.6%も向上した。
SNSでのバズを、店頭にも波及させる
デジタルサイネージ広告を成功に導くポイントの3つ目は、SNSと連動した広告配信だ。SNSでバズった商品が店頭で売れることがあるが、一時的には売れるものの長続きしないことも少なくない。原因として、情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプター層とマジョリティー層との間にキャズム(深い溝)があり、マジョリティー層まで情報が波及させられないことが挙げられる。
これらを解決し、マジョリティー層にもリーチするための施策としては、SNSでバズった動画を店頭でも拡散していく方法がある。具体的には、InstagramやTikTokのインフルエンサーが商品を紹介する動画を、許可を得た上で二次使用する。そうすることで、普段SNSをあまり利用していない人にもリーチできるのだ。
たとえばマンダムのヘアマスク「LUCIDO-L」の事例では、TikTokのクリエイターが該当商品を紹介する動画を複数活用したところ、売上が22.5%向上した。
「今MADSが手掛けているデジタルサイネージ広告のうち、6~7割がSNS動画の二次使用を活用する手法を採用しており、人気の施策となっています」(工藤氏)
タッチポイントの設計でインストア広告の効果を上げる
デジタルサイネージ広告の効果をさらに上げるためには、店頭以外の広告との連動も重要になってくる。MADSのデジタルサイネージ広告はPOSデータと連携して効果の分析をしているため、どの店舗でどのような人が購入しているかが可視化される。
「より効果的に次の施策へ活かしていくためには、インストアで接触する広告コミュニケーションだけでなく、事前に他の場所で接触するプレストアでの広告コミュニケーションにも活用することが重要です。そのためには、複数のチャネルで一貫したプロモーション戦略とメッセージを発信するIMC(Integrated Marketing Communication)戦略を展開し、配信結果の分析データから逆算したコミュニケーションを設計していくのが良いと考えています」(工藤氏)
たとえば、SNS動画を二次使用し配信した結果、20代女性の新規リピートが増えた化粧品があったとする。その8割がブランドスイッチした非計画購買で、平日の16〜18時に多く発生していた。こうしたデータから「第三者がすすめる情報に敏感で、他社製品と比較しどれを購入するか悩んでいる人たちは夕方に買い物をすることが多い」という仮説が立てられる。
この場合は、クチコミサイトを活用するなど商品の特徴・理解を深める取り組みを行い、生活動線にあわせたタッチポイントを強化することが効果的だと考えられる。
MADSでは美容院にあるデジタルサイネージでの配信も行っており、プレストアでのコミュニケーションとして、化粧品の商品理解とサンプリングを美容院でターゲティングしながら行うこともできるのだ。
「広告主の方々からも、テレビCMやWeb CM以外の配信手段が欲しい、美容への意識が高まる場所で商品訴求をしたいといった声をいただきます。MADSでは美容院をはじめタクシーやスポーツジム、屋外ビジョンなど多様な配信メディアを持っているので、様々な場所でプレストアでの広告コミュニケーションを提供することもできます。ぜひインストアでの施策と連携してご活用ください」(工藤氏)
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