個別指導塾「森塾」のマーケティング
MarkeZine:今回の対談では、SPRIX社の「森塾」ブランドにおけるInstagram活用についてお聞きしていきます。まずは森塾の簡単に事業概要をご紹介いただけますか。
小橋:森塾は、1997年に新潟県長岡市で創業した個別指導塾です。現在では関東と大阪を中心に241校舎を展開しています。合格実績を重視する塾とは異なり、「成績=定期テストの点数」をミッションに据えたことが森塾の最大の特徴です。
また、森塾は業界で初めて「1科目+20点の成績保証制度」を導入しました。当初、成績保証の対象は中学生のみでしたが、森塾の理念である「成績を上げることで生徒の人生に貢献する」を体現するために、2024年冬季より高校生にも対象範囲を拡大しました。
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MarkeZine:マーケティングでは、保護者が主な対象になるのでしょうか?
小橋:はい、マーケティングは、主に生徒の保護者、特に30代から50代のお母様に向けて行っています。実際、相談や申し込みに来られる保護者の約9割はお母様です。また、この年代の方々がよく見られているのがInstagramであり、私たちとしてもInstagramの活用には注力しています。
「森塾」が指名検索に力を入れる理由
MarkeZine:スプリックスを支援するオプトの野嶋さんに伺います。森塾では、Instagram広告を活用する中で、サーチリフト向上に取り組まれていると聞きました。指名検索増に注力されている背景について、お聞かせください。
野嶋:スプリックス様に限らず、多くのクライアント企業と対話する中で、指名検索への関心は年々高まっていると感じます。具体的には、大きく3つの点から指標として評価されていると見ています。

まずは、ブランディング施策の効果を測定する指標として有効である点です。指名検索は単に「検索された数」を定量化するだけの指標ではありません。検索量が増えるほど見込み客と接点を持つことができる「ストック型の強力なオーガニックチャネル」としても捉えることができます。様々な広告施策・マーケティング活動を展開した結果、どのように自社のブランド資産が伸びているかを検証する際に、よく用いられている印象です。
次に、指名検索は他社の影響を受けにくいという特徴があります。競合他社が「森塾」というキーワードに対してリスティング広告で入札することは技術的に可能です。しかし、「森塾」と検索したにも関わらず、他社の広告が表示されることに多くの方は違和感を覚えるはずです。そのため、仮に出稿できたとしても広告効果が合わず、停止を余儀なくされるケースが多いと考えられます。
そして、業態やサービスにもよりますが、指名検索経由の問い合わせは次のお取引に繋がりやすい傾向にあるというのが3つ目の特徴です。森塾の場合も、ディスプレイ広告などのプッシュ型広告と比較して、指名検索からの問い合わせは入会いただける可能性が高くなっています。
小橋:数多くの学習塾が存在する中、「森塾」という塾名を指定して検索していただけたこと自体に大きな価値があると考えています。また、森塾ではInstagramだけでなく、その他のデジタル広告やテレビCM、OOHなども展開しており、媒体横断でマーケティング効果を見る指標としても指名検索が役に立っています。
入会数の増加だけじゃない!指名検索向上に対するInstagramの有効性
MarkeZine:続いて、Facebook Japanの田中さんに伺います。InstagramなどMeta広告は「獲得」を目的に用いられることが多い印象ですが、指名検索向上を目的とする場合も活用できるのでしょうか?
田中:たしかに、Metaの広告は「獲得」のイメージが先行していますが、近年状況が変化してきました。特にInstagramについては“新しいものとの出会いの場”として認知されるようになっています。この変化は外部調査会社の調査結果からも確認されており、Instagramを通じた新サービスとの接点は増加傾向にあると考えています。

加えて、Meta広告のアルゴリズムは、コンバージョンする可能性の高いユーザーに広告配信を行いますが、その際のコンバージョンは必ずしも広告をクリックしてすぐにコンバージョンするケースだけでなく、検索などでワンクッション置いてからコンバージョンするユーザーも含まれます。そのため、潜在層も含め、サービスにより強い関心を示す可能性のあるユーザーに対しても効果的にリーチすることが可能です。
MarkeZine:Instagram広告で指名検索向上を目指す場合のコツやポイントなどはあるのでしょうか?
田中:あるカテゴリでリーディングポジションにいる場合には話が変わりますが、多くの場合、これまでの経験では、漠然とした需要喚起ではなく、自社サービスへの具体的な興味を引き出すアプローチがポイントだと考えています。たとえば旅行業界の場合、単に「旅行に行きたい」というニーズを刺激するだけでは、特定の旅行商品・サービスへの関心には結びつきにくいですよね。
そうではなく個別の企業やサービスの価値を明確に伝えることで、たとえその場でのコンバージョンに至らなくても、後々「この企業のサービスで旅行に行きたい」という指名検索につながる可能性が高まります。直接的なコンバージョン獲得を目指す施策と本質的には同じ方向性だと考えます。
野嶋:おっしゃる通りだと思います。実際、森塾も指名検索を意識した広告運用は行っていません。むしろ、適切なリード獲得のための最適化を行うことで、結果として指名検索も向上するという仮説に基づいて施策を展開しています。直接的なコンバージョンに至らなくても、広告接触自体に価値があるという考え方ですね。
Instagram広告の指名検索への貢献を検証するのに採用した方法は?
MarkeZine:指名検索の重要性やこれに対するInstagramの有効性は理解できました。一方で、指名検索を指標にしたMeta広告の効果検証方法はあまり知られていません。オプトでは、どのように対応しているのでしょうか?
野嶋:マーケティング施策の効果を可視化する「ONE’s DataView(ワンズデータビュー)」のビジュアルメジャー機能を活用して検証を行っています。簡単に紹介すると、ビジュアルメジャーとは、資料請求完了後などのサンクスページでアンケートを実施し、実際の広告クリエイティブを表示して顧客の認知経路を検証する機能です。
もともと森塾では、チラシや交通広告といったオフライン施策の効果を可視化するためにビジュアルメジャーを導入していました。これらオフライン施策の広告を見ていないと回答した方々に、他で見た広告についてフリー回答を求めるようにしており、ここでMeta広告の指名検索効果も検証しています。
検証結果:YouTubeと比較すると? Instagramが指名検索に効く理由
MarkeZine:Instagramによるサーチリフトについて、森塾ではどのような効果が可視化されたのでしょうか?
田中:まずMetaの効果測定システムを用いてInstagramの指名検索経由の問い合わせを確認したところ、Instagram広告は指名検索1件あたりの単価が他媒体と比較してもかなり安く抑えられていました。
一般的にはYouTubeやテレビCMなどのフルスクリーン動画メディア、さらにはテレビ画面でYouTube広告を表示するコネクテッドTVのほうが、指名検索に効果的だと考えられていたのですが、Instagramにも競争力があることが確認できたという意味で朗報でした。
野嶋:Metaでの効果検証に加え、オプトの「ONE’s DataView」ビジュアルメジャー機能を使った調査も実施しました。その結果、Instagram経由の指名検索が圧倒的に多いという結果が出ています。森塾の場合、Instagramの出稿額が一定あるため、純粋な媒体比較はできないのですが、それを考慮しても「Instagramで見た」という回答が群を抜いて多かったことは注目に値すると考えています。
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小橋:この発見は、今後のマーケティング戦略を考える上で重要な示唆を与えてくれました。今後さらなる深掘りを行うことで、より効果的なマーケティング施策につなげていきたいです。
MarkeZine:Instagram広告はなぜ指名検索に効果的なのでしょうか? 何か仮説はありますか?
野嶋:Instagram広告が指名検索に大きく響いた理由については、2つの仮説を持っています。1つ目は動画視聴体験による効果です。静的な広告と比べて、数十秒の動画視聴体験を提供することで、その場での行動変化には至らなくても、需要喚起やサービス認知が効果的に進むと考えられます。
2つ目は、状況とニーズを結びつけたストーリー性のあるクリエイティブの効果です。たとえば、森塾の場合、子どもが勉強中に居眠りをしてしまうという「状況(課題・悩み)」と、楽しみながら学習効果を上げたいという保護者の「ニーズ」を効果的に結びつけるなど、広告クリエイティブでターゲットをしっかり捉えるようにしています。単なる言語的な表現だけでなく、実際の悩みのシーンを可視化することで、より深い共感を得られ、それが後の指名検索につながっているのではないでしょうか。
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「森塾」のマーケティングのネクストステップ、間接効果も含め総合的な効果検証を
MarkeZine:今後はこの取り組みをどのように発展させていきたいですか? 次の目標などを最後にお聞かせください。
小橋:マーケティング全体の話からお話しすると、間接的な効果も含めた総合的な効果検証を実施していく必要があります。これにより、それぞれの媒体がどのように貢献しているのかを正確に把握し、予算最適化を進めることが可能になるからです。その際、指名検索は一つのモノサシとして有用であると考えています。
そしてMeta広告に関しては、さらなる細分化と最適化を目指していきたいです。現状では、コンバージョンの有無とCPAを主要な判断基準としており、クリエイティブの評価もこれらの指標に基づいて行っています。今後は、これらの直接的な指標に加えて、指名検索など間接的な効果も評価基準として取り入れていく予定です。
田中:Instagramは利用者の「好き」と「欲しい」をつくるプラットフォームです。コンバージョン=獲得だけでなく、より上流の段階、つまり潜在的な需要がある層を具体的な検討段階へと導く施策として活用いただけると思います。
今回、指名検索につながるような形での活用事例が出てきたのは非常に有意義なことです。また、森塾の取り組みは多くの広告主企業においても参考になる事例だと思います。今後もこのような形での活用が広がっていくことを期待しています。