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MAUが前年比+9%!店舗接客にも活きるアプリへ ユナイテッドアローズが語るアプリ刷新の裏側・後編

 アパレル業界の中でいち早くデジタル戦略に着手したユナイテッドアローズ。そんな同社が2024年から段階的にオンライン公式アプリのリニューアルを行った。OMO戦略における多チャネルとの連動や顧客の使い心地を考えなければならないアプリの開発は複雑になりがちだ。開発パートナーであるBIPROGYはどのような提案を行い、プロジェクトを進めたのか。ユナイテッドアローズ OMO本部の岩井一紘氏、佐々木慎朗氏、BIPROGYの渡邉充隆氏、島田佳奈氏に聞いた。

要件定義にカスタマージャーニーの再設計は不可欠 誰と何を確認するか

━━前編では、ユナイテッドアローズ(以下、UA)が進めるOMO戦略のコンセプトから、2024年から2025年にかけて段階的に実施されたユナイテッドアローズオンライン公式アプリのリニューアルの概要について伺いました。OMO全体の設計ポイントとして、「いかにOMOを接客の起点としていくかが大切」というお話を伺いましたが、実際にどのような形で要件を詰めていったのか教えてください。

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株式会社ユナイテッドアローズ OMO本部 デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネジャー 佐々木 慎朗氏

佐々木:当然ですが、今回のリニューアルではアプリとECをどのように連携するかが最大のポイントでした。なぜなら、単に技術的につなげばいいというわけではなかったからです。そもそもUAは何を目指しているのか、お客様に対してどのような体験を提供したいのか、そのためにどこでパフォーマンス速度を上げればいいのかなど、大きな目標からブレイクダウンして考える必要がありました。そのためにまず進めたのがカスタマージャーニーの作成です。

 カスタマージャーニーに関しては社内で本当に深く議論しました。購入前のプロセス、店舗・EC・アプリ、購入後のプロセスなどを洗い出し、そこからさらに要件定義に必要な「アプリダウンロード→アプリを使った店内での買い物/アプリからの商品購入→購入後」までの様々なシナリオを作成。ECの部隊にもヒアリングを重ね、何がしたいのか、何が必要なのかを確認し、アプリをネイティブ化するだけで本当に良いのかという点を徹底的に議論しました。こうして、開発パートナーと共有すべき「アプリで実現したいこと」を定義したんです。

━━要件定義を進めるうえでの難しさはありましたか?

佐々木:やはりOMOを進める以上、システム会社やITチームに丸投げするのではなく、私たちのチームがハブになり、パートナーと一緒に進めなければならないと思いました。要件定義では当然ITチームにもヒアリングする必要がありましたが、保守・運用に責任を持つ彼らからすると「なぜ現状から変えるべきなのか」に納得できる説明が必要です。互いの信頼関係を傷つけないように意識しました。

━━開発パートナーを選ぶうえではどのような経緯があったのでしょうか?

佐々木:元々ECサイトの基盤はBIPROGY様に構築を依頼しており、BIPROGY様とは「お客様のためになぜアプリをリニューアルするのか、なぜ速度を上げたいのか」についてディスカッションを重ねていました。開発の要件をまとめる段階については「もしBIPROGYと違う会社が請け負うのなら」という観点でもフラットに説明いただいたうえで、「BIPROGYだったらこうします」とご提案いただき、最終的にBIPROGY様に決定いたしました。

 今回の案件は非常に複雑で、難しいものだったと思います。そんな中、BIPROGY様の方から「一緒にやりましょう」と、パートナーとしてしっかり向き合っていく覚悟を感じ、こちらも「一緒にやろう」と思えました。BIPROGY様が提供しているECオムニチャネルのSaaSサービスの「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER」(OBD)もリリースされて間もない時だったので、OBDを含めて「成長していこう」という姿勢に期待がありました。

「アプリの改良=顧客体験向上」を実現するため3段階に分けたリニューアル施策を提案

━━UAからの要件を受け、BIPROGYはどのような提案をしたのか教えてください。

渡邉:アプリを起点に接客の質向上を実現する「おもてなしアプリ」という構想を伺い、率直に言えばチャレンジングな目標であると感じました。また、ご要望のあったスケジュールは1年先のマイルストーンを描いていました。

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BIPROGY株式会社 プロダクトサービス本部 第六部 OBDサービス運用室企画課 渡邉充隆氏

渡邉:先ほど佐々木さんからのお話にあったように、私たちはECを一緒にやらせていただいています。その状況から見て、「1年後に合流することは難しい」と考えたのです。なぜならEC自体、常に機能強化や追加、変更が起こるものだからです。変化の速いシステムに対して「ウォーターフォール型開発で1年後にアプリと融合」というのはリスクが高いので、段階的に進めないと難しいと考えました。

 提案の肝となったのは「アプリの利用者であるお客様が抱えている課題をいかに早く改善できるか」という点でした。具体的には主に2点あり、「速さ」と「直感的な操作」です。それをいかに早く実現するかということで、3段階のリリースをご提案しました。まずは速度改善をやれるところから先に着手し、次にUI/UXの大幅な改善を推進、というマイルストーンです。

「プロジェクトの推進力=主体性」をどう確保する?体制づくりへの工夫

島田:「アプリを良くすることで、顧客体験全体を向上させる」ということが、今回のプロジェクトのテーマでしたが、その実現には、ECとアプリでの顧客体験の統一が重要になります。

 「これはアプリではできないんだ」「これはECではできないんだ」とならないようにすることが大切だと思っていたので、「アプリだけの顧客体験」を考えるのではなく、「アプリを通じて顧客体験全体を向上していく」という点を提案書のメッセージに盛り込みました。

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BIPROGY株式会社 インダストリーサービス第一事業部 営業二部 コマース&サービス営業所 島田佳奈氏

━━なるほど。ただ、実際に行うのはかなり難しそうです。プロジェクトはどのような体制で進めたのでしょうか。

佐々木:パートナーを検討するコンペの結果、開発全体はBIPROGY様にお願いすることになり、UI/UXに関しては別の企業にも入っていただくことになりました。

 なお、今回のプロジェクトは「アプリリニューアルは3回に分けて行う」ということになり、短期間で要件定義から開発まで展開する形です。言うなれば、ウォーターフォール開発に一部アジャイルの考え方を組み合わせたような形で、そのハンドリングは困難になる印象でした。

 そこでBIPROGY様からはプロジェクトマネージャーとして島田さんに就いていただき、PMOをBIPROGY様とUAそれぞれに置くことに。そしてプロジェクトの途中でも一度振り返りをし、議論を交わしながら進めました

岩井:BIPROGY様がUAのシステムや基盤、そして会社について以前からご存じだった点も非常に良かったと思います。アプリリニューアルと口では簡単に言えますが、ECのリプレイスも絡んでくる以上、社内的にも多くのスタッフが関係してくる。そのため、UAのことをよく把握してくださったことが大きな助けでした。お客様へのご迷惑がなるべく最小限になるよう進められたので、結果を見るとやはりBIPROGY様一択だったと思います。

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株式会社ユナイテッドアローズ OMO本部 本部長 岩井一紘氏

表示速度の向上で商品閲覧数は改修前後比147% アプリ経由の売上も好調

━━そして2024年の6月、そして10月に段階的リニューアルを実施していったわけですね。

佐々木:はい。繰り返しになりますが、Webビューベースのアプリからネイティブアプリ化による速度向上を目指し、6月は商品一覧機能や店内商品のバーコード読み取り機能をネイティブ化して、10月はUI/UXの変更を含めてさらなる機能拡充を行いました。直感的にわかりやすい画面で、店舗での会員証提示などよく使うメニューをトップに配置したり、ヘッダー/フッターのメニューを絞り込んだりし、ストアブランドやスタイリングのお気に入り登録などの新機能をリリースしています。

2024年10月のリリースより。デザインとUI設計の刷新により、情報収集をより簡単に。わかりやすくシンプルな操作性となった(クリックすると拡大します)

━━現時点でどのような成果があるのか教えてください。

佐々木:アプリ経由の売上は好調で、UIUXの変更前後2週間で前後比105%となっています。また表示速度についてですが、その成果についてUAではアプリユーザー1人当たりの商品閲覧数で見ています。理由はシンプルで、表示速度が上がるとスムーズに商品が表示されるようになり、それにともなって閲覧数が上がると予測できるからです。商品閲覧数もリニューアル前後で比較したところ、前後比147%という結果が出ました。

 商品閲覧数というのはいわば「商品を手に取った」という感覚で、前編でお話しした「お客様のシグナル」が強く表れている状態です。そのため「商品閲覧数が上がる=売上が上がる」という相関関係があり、閲覧された商品数で言えば、リニューアル前後ではAndroidユーザーで+4商品、iOSユーザーで+2商品の違いがあります。そもそも、商品の魅力や在庫アロケーションなど、様々な要素があって最終的な売り上げにつながるため、一概には言えませんが、アプリ経由の売上だけで見れば、11月は前年比125%となっており、公表しているように売上は好調です。

━━それは素晴らしい成果ですね。ちなみに、現時点で見つかっている改善点などありますか?

岩井:ユーザーからいただくアプリへの評価にはまだ課題があります。特に10月のリリースでは抜本的にUI/UXを変更したため、使い勝手が大きく変わったことに対する戸惑いや不安がレビューに反映されているようです。

 もちろんある程度は想定しており、リニューアル前から動画コンテンツを展開したり、どこに何の機能が移動しているか伝えたりと、お客様の変化への戸惑いやそれによる離脱を防ぐための対策は可能な限り行ってきました。ただ、リリース後にユーザーの皆様からいただくご意見に向き合うことも非常に重要だと考えています。これは私たちが持つ接客への考え方にも通じるのですが、「お客様からのお声に返答しない」というのは当社の社是と異なる対応なので、レビューに関しては佐々木のチームを中心にすべてお答えしていくことにしており、このスタンスは変えずに向き合っていこうとしています。

 お客様からの評価を利用継続という側面で見られるMAUがありますが、これも私たちが重要視している指標です。ダウンロード数を伸ばすことよりも、アクティブユーザーを増やすことを意識してきました。一般的にはアプリリニューアル後にMAUが落ちるケースも多いようですが、我々の場合は順調に推移しており、リニューアル後と前年を比べて前年比109%と上昇が見られています

店内における顧客行動を可視化してOMOを推進

━━今後もアプリリニューアルのリリースがあると伺いました。その内容についても教えてください。

佐々木:3回目のリリースでは、ホーム画面のパーソナライズ機能と店舗限定の「店内モード」という機能を追加しました。またセキュリティ強化に向けた生体認証ログイン機能や、お取り置き商品のプッシュ通知なども実装しています。

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2024年10月時点のリリースで発表されていた新機能「店内モード」開発中イメージ。店舗での買い物をよりスムーズで便利にする(クリックすると拡大します)

佐々木:店内モードとは、お客様が店舗にいる時の店舗限定のサービスです。前編でもお話しましたが、これまではOMOと言っても実は店舗にいる時のお客様のことを把握できなかったんです。購入の方であればレジで会員証を提示すると思いますが、何も買わなければ「来店いただいた」ということすらわかりません。お店は大切な接点なので、買っていただかなくても「来店いただいた」ということを可視化していこうというのが店内モードの目的です。

 お客様が来店した時にアプリの店内モードを立ち上げると、ビーコン機能を使ってお客様の位置情報をキャッチし、お気に入り登録した商品の在庫がそのお店にあるかどうか確認できます。また気になる商品のバーコードをスキャンすると、その店舗に置いてある商品の色・サイズのバリエーションや、その店舗にある新着商品の表示など、店舗の在庫を起点にし、店舗内の商品をより見せていくようにしています。

 パーソナライズに関しては、お気に入り登録した商品や過去の購入品を基にレコメンドの精度を上げつつ、「なぜこのレコメンドなのか」をしっかりお客様に伝えられるように具体性を持ってレコメンドする機能を実装しました。もちろんそのためにはお客様のデータを把握する必要があるので、店舗での情報も合わせてしっかり収集していきます。

━━データ活用の方針や方向性についてもお聞かせください。

佐々木:まずは、店舗でのお客様データをしっかり把握し、それを店舗にフィードバックすることに注力したいと考えています。来店したけれど購入しなかったお客様には、来店サンクス通知を送ったり、店内でスキャンした商品と似た商品が出た時に通知したりします。こうしたコミュニケーションを通じて、お客様の好みや、なぜ購入しなかったのかといったインサイトへの理解を深めていきたいと思います。

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アプリの役割や位置付けをさらに明確化し、事業全体のグロースを目指す

━━これからの展望をお聞かせください。

岩井:OMOやアプリは、言ってみれば一つの手段、ツールでしかありません。その手段と道具をどう活かしていくかが最も大切な点です。今回のリニューアルの成功はその目標をプロジェクト全体で共有できていたことが大きかったと思います。ただ、お客様行動を軸にした時のデジタルチャネルの役割はどうあるべきなのか、もっと解像度を上げていかないといけません。その点でもBIPROGY様をはじめとしたパートナーとともに協議していくことがこれからの成長につながると思っています。

佐々木:私たちUAが目指しているのは、商品に「付加価値」を与えてお客様の問題を解決し、お客様が自分らしく心豊かな生活を過ごすことです。大げさかもしれませんが、その一部をアプリが担えればと考えております。日々改善しながら店舗にお客様の情報を共有し、良い関係づくりに役立てていきたいと思っています。

渡邉:お客様起点でUA様の体験をより良くしていく活動には終わりがないと思います。我々の強みである技術力、テクノロジーの動向についてアンテナを張って備えていきますし、これからも一緒に理想に向けて取り組みしていきたいと思っています。

島田:私もUA様が目指すお客様への価値提供に少しでも貢献したいと考えていますし、開発に携わったアプリを通じてお客様が「便利だな」「レコメンドされたこの商品買いたいな」と気持ちが動くようであれば本当に嬉しいです。

OMO機能をオールインワンで提供する「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER」

 Omni-Base for DIGITAL’ATELIERは、店舗とECを横断した在庫管理や顧客管理が可能なバックオフィス機能を兼ね備え、OMO戦略を実現するためのフルフィルメント業務全般をオールインワンでカバーします。本記事で興味を持たれた方は、DIGITAL’ATELIER公式サイトからお問い合わせください。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:BIPROGY株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/01/31 15:58 https://markezine.jp/article/detail/47809