コモディティ化とは
まずはコモディティ化の定義、コモディティ化によって懸念されるリスクについて解説する。
コモディティ化の定義
コモディティ化とは、元々は市場価値の高かった商品やサービスの差別化が薄れ、市場において他の商品やサービスとほぼ同一視される現象を指すマーケティング用語だ。コモディティは「日用品」や「必需品」などを示す言葉だが、ビジネスの場では「一般化」という意味でも使用されている。
コモディティ化が起こると低価格競争を余儀なくされ、企業にとって利益率が低下しやすくなる原因となる。たとえばスマートフォンやパソコンのように、多くの製品が基本機能を満たし、似たような仕様や価格帯で市場に並んでいる状態は典型的なコモディティ化の例といえるだろう。
現在、多くの産業でコモディティ化が進んでおり、企業はコモディティ化から抜け出すためにも、ブランド戦略やカスタマーサービスを高めることと向き合う必要がある。
コモディティ化によって懸念されるリスク
コモディティ化が進むと、商品やサービスの違いが認識されにくくなるため、顧客の選ぶ基準が価格中心になり、企業間での価格競争が勃発する。価格競争が激化すると価格ありきの商品・サービス作りが主流となり、企業の利益率は著しく低下するだろう。
また、コスト削減を追い求めることで、製品やサービスの品質維持が難しくなることも懸念される。そうなると顧客満足度の低下を招き、企業の信頼性やブランド力に悪影響をおよぼすリスクも出てしまう。
市場がコモディティ化すると、新規参入者にとっては参入障壁が低くなることも予想できる。低価格戦略を採用する競合が増えれば、既存企業はさらなる価格競争に追い込まれ、事態は悪循環を迎えてしまう。市場が成熟し、商品やサービスの差別化が難しくなると、企業は新しい技術やサービスを開発する意欲を失いやすくなる。これにより、業界全体が停滞するリスクも高まってしまうのだ。
さらに、市場において商品が「どれも同じ」と見なされると、ブランドの個性や価値が消費者に届きにくくなる。企業のブランド力が低下すれば、長期的な顧客基盤を失うリスクが高まるだろう。顧客がブランドへのこだわりを持たなくなれば、価格や利便性を重視する顧客が増え、他社製品への乗り換えが容易になることも懸念される。一度失った顧客を再獲得するには多大なコストがかかるため、何としても避けたいところだ。
コモディティ化が起こる主な原因
コモディティ化が起こる主な原因には以下のような事柄が考えられる。
- 商品・サービスが市場に多すぎる
- 各企業の技術水準の向上
- 商品のモジュール化
- 低価格帯製品の台頭
- 平均思考の影響
- 情報の入手のしやすさ
それぞれ順に解説しよう。
商品・サービスが市場に多すぎる
市場に類似する機能や品質を持つ商品・サービスが多く出回ると、各企業の製品間で違いが目立ちにくくなる。結果的に需要と供給のバランスが崩れ、価格競争が激化する。
選択肢が多すぎて機能や品質の違いを感じにくい家電製品などは、コモディティ化の最たる例といえるだろう。
各企業の技術水準の向上
時代が進むごとに、各企業の技術力やサービス力は高まり、多くの企業が一定の品質を持つ製品やサービスを提供できるようになる。これにより、基本的な技術力に大きな差が見られなくなり、企業間の差別化が難しくなっていく。
もちろん、並外れた品質や高性能の商材を持つ企業もあるが、顧客が求める一定のレベルに達すれば、顧客の目は価格に向いてしまう。このような技術水準の高まりもコモディティ化を引き起こす原因といえるだろう。
商品のモジュール化
モジュール化とは、ルールや規格に基づいて標準化された部品や、汎用的な構成要素を指す言葉だ。企業にとっては部品を一から自社開発するより、モジュール化された部品を使用して商品開発するほうが、費用を安価に抑えられるメリットがある。
しかし自社開発しない分、他の企業と同様の部品を使用する可能性が高くなり、他社との違いが減少し、コモディティ化を進める原因となる。
低価格帯製品の台頭
海外のいくつかの地域などでは、日本と比べ人件費などを抑えることができるため、低コストでの商品開発や製造が可能となる。消費者にとっては、海外から輸入された低価格の商品と国内商品の質が変わらないと認識すれば、低価格な海外商品を選ぶ可能性が高まり、市場に大きな影響をおよぼすこととなる。
このような状態になると、企業は価格帯を海外商品に合わせることを余儀なくされ、結果的にコモディティ化の要因になってしまうのだ。
平均思考の影響
市場調査や顧客ニーズ分析を重視するあまり、企業が平均値を軸にして物事を判断するようになれば、奇抜な商品よりも、顧客が望む無難な商品を作る傾向が強くなる。このような思考で商品開発を進めていくと、安全な事業活動を進められる一方、オリジナリティのある商品が生まれなくなり、コモディティ化が起きる原因となるだろう。
情報の入手のしやすさ
インターネットの普及で情報化社会となったこともあり、競合他社に関わる商品の情報は、インターネットで簡単に入手できるようになった。そのため、新商品を開発・展開し、自社が脚光を浴びたとしても、すぐに競合他社に情報を入手されて対策を打たれるだろう。
情報が迅速に手に入る現代では、ビジネスモデルを模倣しやすくなっており、似たような商品が出回りやすいため、コモディティ化が起きやすくなっているのだ。
コモディティ化の問題点や企業への影響
コモディティ化が起こると、製品が持つ機能や品質などでの差別化が難しくなり、企業は製品価格で競争せざるを得なくなるため、価格競争の激化を招いてしまう。価格競争の激化は企業にとって利益率の低下につながり、持続的な成長が難しくなるだろう。
そのため、企業は今後「厚利少売型」から「薄利多売型」のビジネスモデルへの転換が求められるはずだ。その結果、「規模の経済」を活用できる大企業や、日本よりも製造コストが安価な海外企業がシェアを拡大していくことが予想される。
また顧客から見れば、機能や品質面での差別化がともなわない、価格だけが高い製品を選ぶメリットが少なくなるため、顧客ロイヤルティ低下のリスクも高まるはずだ。結果として、企業は顧客基盤を失い、存続が困難になるケースも少なくない。
さらに、製品の品質低下や、消費者の選択肢が狭まる点もコモディティ化がもたらす問題といえるだろう。
コモディティ化の具体例
次に、コモディティ化の具体例を説明しよう。コモディティ化の理解を深めるための参考になれば幸いだ。
パソコン
PC市場は多くのメーカーが参入しており、スペックや価格の競争が激しいため、コモディティ化が進んでいる。消費者は機能やデザインよりも、性能と価格のバランスで選ぶことが多く、メーカー側も低価格化が避けられなくなっているのが現状だ。
スマートフォン
スマートフォンも同様にコモディティ化が進んでいる。スマートフォンが普及し始めた当初は、新しい技術やデザインで差別化が図られていたが、現在では基本機能がほぼ標準化されており、多くのブランドが似たような性能とデザインを提供している。そのため価格や割引、キャリアのプラン内容が重要な差別化要因となっている。
インターネットプロバイダー
ISP(インターネットサービスプロバイダー)も、かつては通信速度や接続品質が差別化要因だった。しかし近年は多くのプロバイダーが高速で安定したサービスを提供しており、コモディティ化している。そのため現在は価格や特典、契約期間などが選ぶ基準として見られるようになっている。
クラウドストレージサービス
クラウドストレージも、初期は容量やセキュリティ機能の違いが大きな特徴だった。しかし現在では各社が同様の機能を備えており、価格や無料プランの容量での競争が激化している状況だ。
電力やガスなどのエネルギー
電力自由化以降、様々な企業が電力事業に参入しているが、提供される電力の質や内容自体に大きな違いはなく、コモディティ化している状況だ。そのため、料金や契約条件、ポイント還元などでの差別化が主な競争要因となっている。
食品(米、野菜、コーヒーなど)
ブランドや生産地にこだわりがない消費者にとって、コーヒー豆や米などの食品はどれも大差がないと見なされ、コモディティ化が起こっている。これらの商品はより安い物や「無洗米」などの扱いの手軽さなどを基準に選ばれることが多い。
コモディティ化対策の基本戦略
技術力での差別化が難しくなっている現状でコモディティ化から抜け出すには、以下のような基本戦略が重要になってくる。
- 商品・サービス以外の付加価値で差別化を図る
- 消費行動や時間の消耗を最小限に抑える
- ターゲットを再選定する
- ブランド力を強化する
それぞれ順に解説しよう。
商品・サービス以外の付加価値で差別化を図る
コモディティ化から抜け出すためには、商品の単なる機能や価格ではなく、顧客体験全体を通じて付加価値を提供することが重要になってくる。
たとえば、お菓子メーカーが単純に味や価格だけを追求するのではなく、母の日のプレゼントや受験生の応援など、独自の人に刺さる広告を打ち出して情緒的な価値を高めることで、他社との差別化が図れるだろう。
また、電子機器であれば購入後のサポート体制を充実させ、手厚いサポートや修理サービスを行うことで差別化を図り、顧客満足度の向上につなげる方法などもある。
さらにコモディティ化から抜け出すための手段として、企業の存在意義を高める方法もある。持続可能な社会が国際的な目標として挙げられる今、サステナビリティな取り組みを行う企業は、消費者から注目される要因となる。持続的に成長できることをアピールできれば、それが新たな価値となり、他社との差別化へとつながるだろう。
消費行動や時間の消耗を最小限に抑える
商品のコモディティ化から抜け出すには、消費行動や時間の消耗を最小限に抑えることも重要だ。顧客が購入するまでのプロセスや、サービスの使用時の手間を軽減し、利便性を高めることで他社と差別化を図れるだろう。
たとえば、Webサイトからの商品購入や予約を可能にしたり、専門店だけでなく百貨店や量販店など様々な場所で商品を販売したりすることで、商品購入時に要する時間やエネルギーの消耗が抑えられ、顧客満足度が高まるはずだ。このような取り組みが付加価値を生み、コモディティ化の対策に結び付くだろう。
ターゲットを再選定する
たとえ巨大な市場でも、その市場を細分化した上で適切なターゲット選定をすれば、コモディティ化からの脱却につながるだろう。また、ターゲットそのものの見直しや再選定もコモディティ化の対策となり得るはずだ。
たとえば、日本でコモディティ化していたとしても、海外市場では大きな伸びを見せる場合もあり、海外進出することで売り上げが右肩上がりになるケースも少なくない。そのため、ターゲットや市場を調査し、自社の商品を求める顧客にどのようなニーズがあるのかを再検討してみるのが良いだろう。
ターゲット層の心理に寄り添うことで、商品やサービスの改善案も思いつきやすくなるため、顧客に必要なサービスを生み出しやすくなるといえる。市場のニーズが読み取りづらいときは、顧客にアンケート調査を実施するのも一つの方法だ。
ブランド力を強化する
自社に関するストーリーの発信や企業イメージ向上なども、コモディティ化を脱却するためのポイントだ。
iPhoneなどを展開するAppleは、ブランディングに成功している企業の一つだといえる。スマートフォンが持つ機能そのものは競合であるAndroidと大差はないが、「Appleの製品を使いたい」と思わせるブランド力を有しているのが特徴だ。
企業、あるいは商品やサービスに対して、顧客の愛着や信頼を獲得することも、コモディティ化対策に有効だ。商品そのものだけではなく、商品開発のストーリーや企業のイメージを向上すれば、企業のブランド力を強化できるだろう。ブランド力を強化して、顧客に「この企業の製品やサービスを使いたい」と思わせることが重要だ。また、イメージに沿ったタレントを広告などに起用することも、企業のイメージ戦略につながるだろう。
価格や性能以外にも、アピール方法は様々だ。ユーザーにとっての価値がどこにあるのか、徹底的に分析することで他社との差別化を実現しよう。
コモディティ化脱却の成功事例
コモディティ化の脱却に成功した事例として、Appleが有名だ。Appleは洗練されたデザインのデバイスを提供することでユーザーエクスペリエンスを向上させ、競争力を維持している。また、Appleは顧客のニーズに合わせた製品を提供するために、Apple Store店舗やネット上でのアンケートでユーザーからの意見を積極的に収集していることでも知られている。
これにより、ユーザーに「Appleの製品を使いたい」と思わせることに成功し、スマートフォンやパソコン市場において独自性の高いブランド力を築き上げ、一定のシェアを確立し続けている。
他にもスターバックスは、顧客体験の向上に重きを置き、店内の雰囲気やサービスの質にこだわることで、数あるカフェ市場からの差別化を図っている。スタッフへの教育・昇進制度にも力を入れており、バリスタの証明である黒いエプロンなどがその例の一つだ。
また、スターバックスは独自の商品開発にも余念がなく、季節限定のメニューやオリジナルのドリンクを定期的に提供している。常に顧客の目線に立ち、新鮮な体験を提供し続けることで、他社にはない魅力を生み出し、競争力を高め続けているのだ。
コモディティ化は商材だけではない
コモディティ化は商材だけではなく、人材や経営戦略など、様々な箇所で起こるものだ。競争心や野心を持たずに日々の仕事をこなすだけの人材や、オリジナリティの追求をせず安全な事業活動ばかりを行う経営戦略なども、コモディティ化の例といえるだろう。
特に人材のコモディティ化は、その人自身と企業の両方にデメリットが多いため、企業はできる限りの対策を打つべきだ。コモディティ化した人材は、昇格や昇給においても不利になり、モチベーションの低下につながりやすい。そこから状況が悪化することで、企業と従業員との間に確執が生まれ、離職率の増加や生産性へのリスクにもなりかねない。
人材のコモディティ化を防ぐために、企業は教育体制や業務の割り振りの見直しが求められる。従業員には、周りにない自分の価値を見つめ直す習慣や、他人が持っていない独自の視点を見出す意識づけをさせることが重要だ。
コモディティ化を回避して企業の競争力を高めよう
コモディティ化が起こると、企業の利益率やブランド力の低下を招いてしまう。他社にはない独自の価値や戦略を見出し、ブランド力を強化することで、コモディティ化を回避し企業の競争力向上につなげることが重要になるだろう。
そのためには、市場における顧客ニーズを十分に調査し、ターゲットや自社の価値を見直すことも必要だ。マーケティングや営業の方法を変えるなど柔軟に対応し、ターゲット層の心理に寄り添った戦略を意識すると良いだろう。