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MarkeZine Day 2025 Retail

愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

最適なリレーションシップ・スタイルの選択と顧客のブランド経験をデザインする3つのポイント【第8回】

ポイント3:記憶を創るコミュニケーション

 3つめのポイントは「記憶を創るコミュニケーション」です。ブランド・リレーションシップには、その人の過去の経験や思い出が基盤となっていることが多く見られます

 こうした記憶は心理学で「自伝的記憶」といわれます。つまりブランド・リレーションシップを形成するには、ブランドと結びついた好ましい自伝的記憶を形成することが有効となります。 ブランドと結びついた好ましい自伝的記憶が形成されるには、そのブランドとともに「好ましい経験をしてもらう」ことが重要です。

 将来思い出となるような体験や経験のサポートをするわけです。それはブランド自体の使用経験かもしれませんし、ブランドと関連した広告コミュニケーション活動、PR活動、CSR活動を通じての経験かもしれません。

 ブランドと結びついた好ましい自伝的記憶が形成されるには、そのブランドの経験を「好ましい形で思い出してもらう」ことも大切です。心理学者によると、自伝的記憶は必ずしも事実に忠実なものではなく、繰り返し想起されることで作り変えられていくものだそうです(佐藤, 2007, 2008)。思い出は、実際の経験が再構成されることで生まれます。こうした人間の心理特性に配慮すると、ブランドとの経験を「良いものであった」と思い出してもらうことが大切になります。

 以上をまとめると、記憶を創るコミュニケーションは「思い出の種をまく」活動と、「思い出を育む」活動から構成されるといえるでしょう。いうまでもなく、思い出の種まきを怠っていれば、肯定的な記憶を育てることは難しいはずです。

 しかしまた、思い出を育てようと努力しなければ、肯定的な記憶は形づくられません。 記憶を創るコミュニケーションには「思い出の種をまく活動」と「思い出を育む活動」の双方が重要となります。

 企業はこれら2つの活動を区別し、双方をバランスよく展開するべきです。なお、記憶を創るコミュニケーションの実践には、十分な倫理的配慮が必要だということを忘れてはなりません。いかなる企業や組織であっても、個人の記憶や思い出を勝手に歪めるような行為は、決して許されないからです。したがって記憶を創るコミュニケーションは、有効性とともに危険性についても認識されるべきであり、また実践に際しては明確なガイドラインを設けることが求められます。

速攻性ではなく「骨太の戦略」が魅力

 2回にわたり、ブランド・リレーションシップの「活用」と「形成」について説明してきました。また具体的なテクニックについても言及しました。いずれの内容もブランド・リレーションシップのマネジメントにとって大切なものばかりですが、なかでも特に大切なのが、フルニエの指摘する「日常的なマーケティング」の積み重ねです。

 連載第1回でトップ・ジャーナルに掲載された研究成果を紹介し、ブランド力とはすぐに変わらないものだという説明をしました。そしてブランドとは非常に安定した経営資源であり、ひとたび強いブランドを構築できれば、継続して売り上げや利益を獲得できることを指摘し、「ブランド・マネジメントは瞬発性には乏しいかもしれませんが、骨太の戦略といえます」と述べました。

 マーケティングの実務では「即効性のある施策」が好まれます。また「V字回復」といった言葉も人気です。しかし即効性のある施策は、どのくらい効果が続くでしょうか。あるいは、V字回復した数年後の業績はどうでしょうか。残念ながら、こうした点について言及される方はあまり多くありません。

 ブランド・リレーションシップの魅力は、上述したように「骨太の戦略」であることです。一度ブランド・リレーションシップが形成されると、安定的で継続的な効果が期待できます。そしてそのためには「日常的なマーケティング」を積み重ねることが大切になってきます。

 なお今回も誌面の都合で、マネジメントの大枠についての説明に留まりました。ブランド・リレーションシップの戦略についてさらに詳細に理解されたい方は、拙著『ブランド・リレーションシップ』をお読みいただくか、筆者に直接ご連絡いただければ幸いです。

画像を説明するテキストなくても可
ブランド・リレーションシップ』(著)久保田進彦、有斐閣、6,160円(税込)

【参考文献】

  • Fournier, Susan(1998). Consumers and Their Brands: Developing Relationship Theory in Consumer Research. Journal of Consumer Research, 24 (4), 343-373.
  • Park, C. Whan, MacInnis, Deborah J., and Priester, Joseph R. (2006). Brand Attachment: Con-structs, Consequences, and Causes (Foundations and Trends in Marketing Vol. 1 Issue 3). Hanover, MA: Now Publishers.
  • 久保田進彦(2024).『ブランド・リレーションシップ』有斐閣.
  • 佐藤浩一(2007).「自伝的記憶の機能と想起特性」『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』56,333-358。
  • 佐藤浩一(2008).『自伝的記憶の構造と機能』風間書房。
  • やまだようこ(1990).「イメージ画にみる母子関係(その6):ならぶ母と私」『幼児の教育』日本幼稚園協会,89(3),47-55。

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この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/03/25 09:00 https://markezine.jp/article/detail/48358

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