家の中の「備え」を高めるための考察~住居形態×年代
最後に、自然災害から身を守るために、図3の「家具の固定や家の中の安全対策」の取り組みを高めるヒントを探します。まず、図4で、住居形態(注2)ごとの年齢構成比を見てみましょう。
対象者:全国20~79歳男女 サンプルサイズ n=21501 調査実施時期:2024年5月
持ち家では、一戸建てもマンションも年代が高くなるほど割合が高くなり、50代以上が6割を占めています。家の購入は中高年以降のライフイベントと言えます。一方で、賃貸では、一戸建てもマンションも年代間の差が少なく、特に賃貸のマンションでは、各年代ともほぼ均等の割合となっています。住居形態と年齢には関係があることがわかります。
次に、「家具の固定や家の中の安全対策」の取り組みと住居形態の関係を見ます。図5は、「家具の固定や家の中の安全対策」をしている人(4,694人)を対象とし、住居形態を調べました。取り組んでいる人のうち71.4%が「持ち家一戸建て」に居住していました。持ち家のマンションを加えると82.4%になります。賃貸物件の居住者は取り組みが進んでいないことがわかります。
対象者:災害に対する備えとして「家具の固定や家の中の安全対策」をしている人 サンプルサイズ n=4694 調査実施時期:2024年5月
持ち家では所有権は自身ないしは家族にあるため、壁に穴をあけたりネジで固定したりすることのハードルが低く、家具の固定等がしやすいことが考えられます。また、建築時に防災対策をすることも可能です。一方で、退去時に原状回復が求められる賃貸物件では、不動産への影響が大きい家具の固定はや家の中での安全対策がしづらいことが「備え」の阻害要因になっています。
図4の結果と併せて読み解くと、持ち家に住んでいる人の「家具の固定や家の中の安全対策」への取り組みを高める施策は、主に中高年が対象になります。一方で、賃貸居住者への働きかけは、年代を問わず備えてもらう対応策が必要ですし、全年代に「備え」の行動が行き届くチャネルになります。
今後は、賃貸物件でも災害に備えるための家具の固定ならば許可される仕組みや、転倒しにくい家電や家具の商品開発、または壁や床を傷つけずに外付けできる防災グッズなどが求められます。また、家電や家具は背の低いものを選ぶ、高い位置に重いものを置かないなどの工夫も有効です。
まとめ:「備える人」を増やすために
今回の調査から、年代別の備え率、備えのきっかけの年代構成比、住居形態が備えに与える影響を分析し、「備える人」を増やすヒントが見えてきました。
若年層に対して「備え」を促すことが、全体の備え率向上に必要です。若い世代には、ライフスタイルが変化するタイミングに備えの必要性を訴求することが効果的です。国や地域からの発信が若年層に届きやすくする工夫も有効です。
また、住居形態によっても備えの状況に差があり、賃貸のほうが持ち家よりも備えている割合が低いことが明らかになりました。賃貸物件では家具の固定などが難しいため、家の中での備えがしやすい仕組みや代替策を提供することで、備えている人の割合を増やすことが期待されます。
今備えていない人に備えてもらうにはどうしたらよいか。私たち一人一人が備えへの意識を高めることはもちろんですが、行動のハードルを低くし、備えをしやすい環境を整えることが重要です。たとえば、備えに意識が向くライフイベント時に、国や自治体と企業が協力し、備えの必要性を改めて伝えるだけではなく、行動することのハードルを低く感じてもらう工夫をすることが効果的と考えられます。
注1:首相官邸「災害が起きる前にできること」
注2:住居形態としては、持ち家と賃貸以外にも「社宅・寮」と「その他」の項目で聴取しているが、全体の4%以下の割合であり、ここでは持ち家と賃貸との差に焦点を充てるため、割愛している。
【関連コラム】 小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「みんなの「備え」のいまを知る~自然災害への備えと復興に関する調査①」、インテージ「知るギャラリー」、2024年8月20日公開記事
【調査概要】
調査方法:Web調査
調査地域:日本全国
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
対象者条件:20~79歳男女
標本サイズ:n=21501(47都道府県ごとに性年代の人口構成比に準拠して回収)
調査実施時期:2024年5月15日(水)~2024年5月21日(火)
