※本記事は、2025年3月刊行の『MarkeZine』(雑誌)111号に掲載したものです
【特集】テクノロジーで変化する、社会、広告、マーケティング
─ CESは世界に挑戦するためのプラットフォーム アワード審査員が強調する、日本企業の魅力・ポテンシャル
─ デジタルと現実が結合した「Physical AI」の世界で、ブランドは提供価値に差異を作れるか?
─ AIは社会と人を豊かにできるのか?テクノロジー領域でマーケターが果たせる役割を考えよう(本記事)
─ AIエージェント、フィジカルAIをわかりやすく解説 NVIDIAフアンCEOがCESで示した未来
行き先・ビジョンが見えない、テクノロジーの進化
はじめに、CESというイベント全体に関する所感を申し上げると、個人的に「CES 2025」には大きな期待を寄せていました。しかし、「CES自体が踊り場に来ているのでは」と感じてしまったというのが正直な感想です。
コロナ禍の2年間はオンラインでしたが、私は2011年から毎年続けて計15回CESに参加してきました。振り返ってみると、CESおよびテクノロジー市場のトレンドはおよそ5年単位で移り変わってきています。

未来事業創研ファウンダー 吉田健太郎氏
モバイル事業、スマホアプリ領域を中心とした市場分析、戦略プランニング、コンサルティングなどに従事。CES/MWCに2011年から毎年参加し、TECHトレンドを把握。2021年に電通グループ横断組織「未来事業創研」設立。未来の暮らしの可視化からのバックキャストでの事業開発を得意とする。
「スマート○○」というワードとともに、デバイスがネットとつながるという概念が出てきたのが2010年頃。その後、2015年には「コネクテッド/IoT」というキーワードが出現し、複数のデバイスとネットがつながることで価値が生まれるという流れになりました。断続的に2020年頃にかけて「パーソナライズ」への関心が高まり始めましたが、コロナ禍に突入すると「サステナビリティ」を筆頭に「forソーシャル」「Co○○」といった方向へ関心がシフトしていった印象です。
生成AIが社会を席捲し始めた2024年を経て、今年のCESでは2030年以降の世界を見据えた大きなテーマが提示されるだろうと期待を抱いていたのですが、蓋を開けてみると昨年の延長線上のように感じました。一方で、だからこそ、テクノロジーの進化の方向性について深く考えられた部分もあったように思います。
たとえば、テクノロジー領域を取り巻く世界の分断について。サステナビリティを横に置き経済成長を追い求める方向にシフトしているアメリカと、対立する中国、そしてテクノロジーより文化や自然、人の豊かさを重視するヨーロッパ諸国。CESを俯瞰すると、そんな構図がリアルに浮かび上がってきました。
ここで考えるべきは、日本企業がどの方向へ向かうかです。AIしかり、テクノロジーは否応なしに進化していくわけですが、「その進化は本当に人や社会のためになるのだろうか」「一部の成功者のみに恩恵が与えられていないだろうか」といった疑問が拭いきれません。CES 2025を振り返り、キーワードを1つ挙げるなら、私の場合は「人間らしさ(Humanity)の再考」になります。