街に開かれた空間をつくる
──三井不動産グループのノウハウはどのように活かされていますか?
田部井:三井不動産グループは約2,500社のテナントと取引があります。そのネットワークを活用させてもらったり、各所に出店しているテナント様の状況や客層について参考にさせてもらったりしました。
松浦:さらに、これまでは設計から施工まで一社にまとめて依頼することが多かったのですが、今回は三井不動産の街づくり手法で、様々なプレイヤーの力を掛け合わせながら事業の魅力を最大化するアプローチを採用しました。調整は大変でしたが、多様な視点からの知見を集めて街づくりを行う経験は新鮮でしたね。
MIYASHITA PARKやららぽーとなど、三井不動産が手掛けてきた街づくりのノウハウを共有しながら、私たち自身の経験として習得できたことは非常に面白い体験でした。
──リニューアル前後でどのような成果が出ていますか?
田部井:街に来るお客様の総数が大きく増えたというよりも、商業テナントを利用していただける率が高まり、一人当たりの利用店舗数が増えています。お客様からの高評価の声も多くいただけています。特に近隣にお住まいの日常使いをされる方に向けて新たに出店した生活雑貨や食品系テナント、街の美観、新設したフードホールへの評価が高いです。
最近では芝生の上やデッキの上など、座れる場所でお客様が東京ドームシティを背景にショートムービーを撮っている光景をよく見かけますね。撮りたくなる、撮影を楽しめる場所にできたことも一つの成果だと考えています。
松浦:老朽化した街をリニューアルすること自体はすぐに収益を生みませんが、体験価値や滞在空間の心地良さが向上することで集客や滞在時間の増加につながると考えています。収益装置としては大型LEDビジョンの広告販売があり、リニューアル前と比較して売上は9〜10倍になりました。5〜10年後に、日本トップレベルの広告価値を持つビジョンを作るという目標を置いて進めています。
また、街の南側は昼間人口(働く人、学生)が多く、北のラクーア側は夜間人口(居住者)が多いという特徴があります。居住者はラクーアまでは来るものの、南側のエリアにはあまり行かない傾向があり、日常の近隣住民にとって街をどう開いていくかが大きなテーマでした。
回遊性を高めるため、東京ドームの入退場ゲートがある人工地盤上と地上レベルの遊園地をつなぐ動線を改善し、大きな階段を作って南北の移動を容易にしました。また、「後楽園ゆうえんち」時代の名残で残っていた外壁を取り除き、お客様が入りやすい空間を作りました。
南側の学生や昼間人口向けにはビジョンや芝生広場を設置し、ランチタイムに訪れてリフレッシュできる環境を整えました。このようなランドスケープの刷新によって、イベントがない日もお客様が回遊し、滞在できる空間作りができたと感じています。
多様な人々がそれぞれ楽しめる場所に
──最後に、「挑戦」するために大切にしていることを教えてください。
田部井:「世界一のエンターテインメントシティを目指す」という目標があることで、前例がないことへの挑戦に対する許容度は高いと思います。必要な投資も行われるため、チャレンジしやすい環境があります。
東京ドームシティは野球ファンが何万人も来た翌日にはK-POPアイドルのファンが集まり、その傍らでは日常使いのお客様が買い物や食事を楽しんでいます。何千人規模のホールでは様々な展示やミュージカルが同時開催され、馬券を買いに来る方々もいます。
こうした多様な人々が当たり前のように混在し、それぞれがストレスなく楽しめているのが東京ドームシティの強みです。今後はさらに多様な人々が混ざり合う街を目指していきます。
松浦:当社は昔から人を大事にする会社で、それが風土や文化として根付いています。私は一つのイベントや企画、業務に関わった全員が「自分がやり遂げた」と思えるよう心掛けています。それは外部の事業者さんも同じです。今回のプロジェクトも、関わった全員が「自分がつくった街」と思えるように進めてきました。このように人が育っていくことで、自分だけでは想像できなかった街ができると思います。
現在、外国人観光客は新宿から秋葉原へ移動する際に水道橋で降りずに車窓から東京ドームを見るだけというケースが多いですが、東京ドームシティが世界の人々に認められることで、水道橋も重要な観光エリアとなり、より多くの人が訪れるようになると思います。「東京は素晴らしい街で、特に東京ドームシティは最高」と言われるような状態を作りたいですね。
