顧客の体験を阻害しないために──CRMと広告事業「chocoZAP Partners」の両立
MZ:chocoZAPは2024年2月に広告事業に参入し、会員データを活用した広告サービス「chocoZAP Partners」の提供を開始しました。CRM推進と広告事業を両立させる上でのポイントを教えてください。
上遠野:お客様に広告表示をするにあたっては、当然ながら体験を阻害しない配信が重要です。そのために、CRM推進の過程で得た顧客データを活用して、対象者の文脈に沿った広告の出し分けを行っています。
また、快適な広告体験を実現するには、広告のカテゴリーを「健康」「美容」などのchocoZAPと親和性が高いものだけに厳選し、お客様の心理的な抵抗をできるだけ抑えることも大切です。広告を一切配信しないセグメントを用意して、継続率の差異を見るといった検証もしています。
さらには、広告の内容に関するデザインやテキストに関する社内ガイドラインも設けていますし、広告の頻度についても意識することで、煩わしく感じられない広告体験に細心の注意を払っています。

MZ:CRMは、他の施策と比べて「効果がすぐに出づらい」「投資対効果が見えにくい」などと言われることもありますが、chocoZAPではどのような指標を設定されていますか?
上遠野:指標としては、サービス開始前からLTVで効果を試算し分析する体制を整えてきました。これまでお話ししてきた通り、chocoZAPでは会員IDと連携した詳細な情報が取れるため、シビアに数字を見ることができます。あらかじめアップセルや解約に影響がある因子をすべて洗い出しておき、それぞれの因子がどれぐらい変動すれば各アクションにつながるのかを分析して、施策に落とし込んでいます。
当社では、時代の流れに応じてCRM施策の内容を変化させてきました。そのことを明確に示しているのが、CRM部門の所属の歴史なんですね。最初はマーケティング本部に置かれていたCRM部門は、集客が一段落ついたのを機にサービス開発部に移行しました。そして現在はCX統括部に所属しています。その背景には、お客様一人ひとりにパーソナライズした体験を実現する施策を行うためです。
顧客がやりたくなる、「テーラーメイドな体験」を
MZ:CRMの取り組みを通じて得られた成果や手応えを教えてください。
上遠野:当社では、とにかくクリエイティブのA/Bテストを細かく行う習慣があります。そうすると、たとえば「イラスト風クリエイティブが強い」という全体的な傾向が出ていたとしても、個別のクリエイティブでは写真を使ったほうが効果が高いものが存在するなど、予測が外れる発見も生まれます。
同時に、プッシュ通知、メール配信の頻度に関するテストも行っています。「プッシュ通知は毎日でもいいけれど、メールの送りすぎは良くない影響がある」といったこともわかってきました。効果が見えにくい部分については、さらに念入りにA/Bテストを重ね、どのタイミングでお客様を励ますべきなのか、危機感を感じていただくべきなのか、それとも数字で示すべきなのかなど、クリエイティブやテキストの勝ちパターンを見つける工夫を重ねています。
CRMを推進する上で習慣化したこれらの施策は、今では会社の文化として根付くまでになりました。私たちとしては、そのことに大きな手応えを感じています。一人のお客様と長期にわたって関係性を築くことで、LTVを最大化できるだけでなく、サービス開発や体験の改善にもフィードバックが可能となる。そういう意味でもCRMは、chocoZAPにはなくてはならない非常に重要な領域と考えています。
MZ:最後に、今後の展望を聞かせてください。
上遠野:当社では、行動経済学における「ナッジ理論(意思決定の特性に基づき行動の後押しをする)」に沿ってお客様の体験設計を行っています。簡単にいえば、お客様に行動を強制するのではなく、自然にやりたくなるよう誘導するイメージですね。
今後は、データベースを活用することでその要素をさらに拡大し、お客様一人ひとりに対してさらなる「テーラーメイドな体験」を作ることが目標です。そのためにも、お客様それぞれが自分にあったメニューに取り組み、理想を実現していただくための試みを続けていきたいと思います。
