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第114号(2025年6月 最終号)
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トランプ政権で変わる米国コミュニケーション戦略

ギャップやバドライトの炎上事例から学ぶ、米国SNS戦略のリアル

政治リスクを受けるSNSプラットフォーム

 2025年5月現在、イーロン・マスク氏が率いるXは、政治色がより濃くなり、広告主にとっては『Elon Tax(イーロン税)』と呼ばれる新たなリスクが語られるようになっています。米国の広告業界関係者の間では、「Xに広告を出すと、政治的・社会的な批判や炎上に巻き込まれる可能性が高くなる」という懸念が広がり、広告出稿を敬遠する動きが出ています。反対に、広告出稿の集団ボイコットとして訴えられるリスクを回避するために、Xへ広告を出稿すべきだと助言する広告代理店もいるようです。

 一方、Meta社のCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、過去にトランプ大統領と対立関係にありましたが、2024年11月にフロリダ州のトランプ氏の邸宅『マール・ア・ラーゴ』を訪問し、関係改善を図りました。 さらに、Meta社はトランプ次期大統領の就任式基金に100万ドルを寄付し、関係構築の姿勢を示しています。これらの動きから、Facebookも、政権の影響を受ける可能性があります。

 このような政治的影響を受ける主要SNSに対し、政治的中立性を求める若年層ユーザーは、新興の分散型SNSプラットフォームであるBlueSkyやRednote(小紅書)などへの移行する動きもあります。これらのプラットフォームは、中央集権的な管理を排し、ユーザー自身がコンテンツの管理や運営に関与できる仕組みを提供しています。

日本企業が米国で取るべきSNS戦略とは

 米国市場におけるSNS活用は、日本とは大きく異なる前提条件のもとに展開されていると考えてください。プラットフォームそのものが政治的・文化的な色彩を帯びるケースも多く、企業が意図しない形で炎上や批判の対象になるリスクも存在します。こうした環境下で日本企業がSNSを活用していく場合、チャネル選定・チャネル分散・コンテンツ設計の三軸でリスクヘッジを図りながら、上手に発信していくことをおすすめしています。

 たとえばYouTubeは、幅広い層へのリーチが可能であり、動画コンテンツという特性上、メッセージの背景や文脈を丁寧に伝えれば、誤解や炎上を避けやすい環境が整っています。また、ポッドキャストなどの音声メディアはアメリカ人の生活に溶け込んでいるため、自社のチャンネルでの発信やインフルエンサーを活用することで商品・サービスの理解を浸透させやすいメディアです。

 InstagramはMeta傘下であるものの、拡散性が低く、コメント欄の露出も限られていることから、政治リスクや炎上リスクを比較的管理しやすいプラットフォームです。世界観のあるブランド表現やビジュアル主導の訴求に適しており、ユーザーへの影響力が高いことから、今後も積極的に活用すべきチャネルといえるでしょう。

 さらに、複数のプラットフォームを分散して運用することも欠かせません。顧客ターゲットに適したSNSプラットフォームを複数選定し、ブランドとして伝えるメッセージに一貫性を持たせつつ、コンテンツをローカライズしていきます。XやTikTokはリスクが高い状態ではありますが、影響力は依然として高いため、運用継続をしつつ、今後の動向には注意していきたいところです。BlueSkyやRednote(小紅書)といった新興SNSもテストマーケティング的に活用してみることをおすすめします。

 そして最後に、日本企業が特に意識すべきは、発信するコンテンツの『政治的中立性』と『文化的共感性』です。たとえば、過度にリベラルな表現はリベラル層であっても批判の的になる可能性があります。当たり障りのない内容やスペックしか伝えないというコンテンツ戦略ではまったく刺さらないが、表現一つで炎上の火種となりうる米国では、社会的感度と文化理解をしたプロの観点が不可欠です。

 SNSを通じたマーケティング・PR活動は、今や企業にとって『攻めの手段』であると同時に、『守りの戦略』でもあります。どのチャネルで、誰に、どのような表現で届けるか。こうした文脈を丁寧に読み解きながら、リスクとチャンスを両立させるSNS戦略が企業には求められます。

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この記事の著者

神村 優介(カミムラ ユウスケ)

 シェイプウィン株式会社 代表取締役 ShapeWin Canada Ltd. CEO

 2011年に日本と北米に拠点を置くPR&デジタルマーケティング会社シェイプウィン株式会社を創業。2021年からカナダ・バンクーバーを拠点に置き、日本の大手製造業や韓国のスタートアップを中心に北米市場でのマーケティングを支援...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/25 09:00 https://markezine.jp/article/detail/49285

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